舞台の上の障害者境界から生まれる表現

著者名
長津 結一郎
価格
定価 3,200 円 (税別)
ISBN
978-4-7985-0225-0
仕様
A5判 上製 232頁 C3070
発行年
2018年2月
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内容紹介

東京オリンピック・パラリンピックの開催に伴い、障害者の表現活動に注目が集まっている。また、こうした活動に対する国や地方自治体などによる支援も手厚くなりつつある。この動向が少なくとも2020年までは継続し、さらにその先にも続いていくことを多くの現場の人々は望んでいるようだ。

しかしこのような急速な振興は、障害者の社会での立ち位置を向上させることに、本当に寄与していると言えるだろうか? むしろ、誰かに対して「障害者」であると名付けて、そこに「感動」や「純粋」といった言説を付け加えることで、「健常者」にとって消費しやすい障害者像ばかりが振興されているのではないだろうか?

本書は、このような問題意識から行った、障害のある人の舞台表現活動へのフィールドワークから得られた知見をまとめたものである。そこには、「障害者」だからこその表現ではなく、様々な立場の人が共にせめぎ合いながら表現を生み出していく「共犯性」と呼べるような関係が生まれていた。表現そのものだけでなく、表現が生まれるプロセスにいったいどのようなことが起こっているのか。障害とアート、福祉とアート、表現の現場に携わる人々には必見の一書。

目次

 はじめに
 
 第1部 研究の背景と立場
 
第1章 研究の背景
 
  1 障害者の表現活動の何が問題か?
  2 先行研究・事例の概観
   (1)「障害」と「文化」をめぐるいくつかのトピック
   (2) 日本における障害者の表現活動、その歴史的な展開
  3 「福祉」「芸術」「療法」の融解  近年の新展開
   (1) 福祉施設での「表現」の現在  かがやきキラキラ仕事館、たけし文化センター
   (2) 創造的なセラピスト  音楽療法を事例にとって
   (3) 野村誠  現代音楽と「老人ホーム」
   (4) 小 括
 
第2章 障害者の芸術表現活動が抱える課題と問題提起
 
  1 「障害」の立ち位置  障害学における当事者議論をもとに
   (1) 障害学とはどのような学問であったか
   (2) 障害の「他者化」にどのように立ち向かうか  平等派/差異派の議論をもとに
  2 障害と芸術  精神科医から、芸術家から、福祉施設から
   (1) アウトサイダー・アート、アール・ブリュットの系譜
   (2) 何が「アウトサイダー」か?
   (3) 福祉施設からの芸術表現  日本における「アウトサイダー・アート」「アール・ブリュット」小史
   (4) 90年代以降の展開
  3 アウトサイダー・アートと障害の他者化
   (1) 障害者「自立支援」としての表現
   (2) 日本での受容と原義との距離
   (3) 人々がアウトサイダー・アートに希求するもの
   (4) 表現を通じた障害の「他者化」
  4 関係性への視点
   (1) アウトサイダー・アート市場への挑戦
   (2) こぼれ落ちるものと「齟齬」
   (3) 行為としての表現  アルス・ノヴァでの1日
   (4) 欠落する「関係性」の視点の価値化に向けて
 
 第2部 事例研究
 
第3章 「差異」と「共同」  マイノリマジョリテ・トラベル
 
  1 公演《ななつの大罪》
  2 エイブル・アート・ムーブメントとマイノリマジョリテ・トラベル
   (1) エイブル・アートとは
   (2) エイブル・アートの展開と批評
   (3) マイノリマジョリテ・トラベルのコンセプトと活動の変遷
  3 見世物小屋の「毒」  マイノリマジョリテ・トラベルとは何だったのか?
   (1) マイノリマジョリテ・トラベルの活動の意義  批評をもとに振り返る
   (2) 見世物小屋の「毒」
  4 マイノリマジョリテ・トラベルは誰のもの?
   (1) マイノリマジョリテ・トラベルの共同制作物としての一面
   (2) 障害者アートの範疇を超える「共同性」
  5 マイノリマジョリテ・トラベルの意義
   (1) マイノリマジョリテ・トラベルの意義とエイブル・アートの展開
   (2) 活動の継続の困難さと、参加者たちの新たな活動の萌芽
 
第4章 「関わり」から生まれる表現  森田かずよ
 
  1 義足と「歩く」こと  《アルクアシタ》
   (1)《アルクアシタ》
   (2) 自らの「リアル」を追求する
  2 表現者としての萌芽  母親にとっての「障害」の受容
   (1)「どうか娘が死にますように」から「あなたと私は別々の人間です」へ
   (2)「障害があるから余計に研ぎ澄まされる」
   (3)「私、ダンス教室はじめるわ!」
  3 伝え、向き合い、突き付ける  劇団「夢歩行虚構団」での7年間
   (1) 障害ではなくいかに「伝わる」か
   (2) 自らと向き合う関係性
   (3) 観客への「障害」の提示
   (4) 夢歩行虚構団を支えるスタンスと変化
  4 循環プロジェクト
   (1) 公演《≒2》と、プロジェクト開始の経緯
   (2) イコールになりきれないイコール  循環プロジェクトの理念
   (3) 向き合い、枷をはめ、しんどさをも抱きこむ  実際に起こった関係性
   (4) 常に新しい気持ちで向き合う  森田が得たもの
  5 小 括
 
 第3部 分析と考察
 
第5章 「障害」「健常」再考  思考実験を通じて
 
  1 異形の身体としての「障害」
  2 2つの主体の転覆  ジャック・デリダの「歓待」の思想
   (1)「歓待」の思想、その背景
   (2)「条件付き歓待」「絶対的な歓待」
   (3) 芸術を媒体とした「歓待」としての「襲撃」
   (4) 一瞬の「絶対的歓待」を求めて
 
第6章 障害者の芸術表現活動が持つ多元的な価値
 
  1 作品制作プロセスの中での関わり  「共同性」とその限界
   (1)「共同性」とその限界
   (2)「共犯性」、その概念モデル形成に向けて
  2 「共犯」の孕む課題  アートプロジェクトの議論を援用して
   (1) 非専門家が介入する表現の場
   (2) 共同の「ファシズム」「暴力性」
   (3)「抑圧的寛容」としてのアートプロジェクト
  3 「共犯性」から見える多元的な価値
   (1) 3つの主体と、3つの芸術的価値
   (2) 障害者との芸術表現活動の方途
   (3)「共犯性」の概念モデル形成に向けて
  4 本研究の今後の展望
 
補 章 アール・ブリュットの先へ
 
 おわりに
 
 索 引

著者紹介

長津結一郎(ながつ ゆういちろう)
東京藝術大学音楽学部音楽環境創造科卒業。
同大学大学院 音楽研究科博士後期課程修了。
2016年4月より九州大学大学院芸術工学研究院
コミュニケーションデザイン科学部門助教。
博士(学術、東京藝術大学)。

学術図書刊行助成

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