戦争と平和、そして革命の時代のインタナショナル

シリーズ名
九州大学人文学叢書 10
著者名
山内昭人
価格
定価 4,620円(税率10%時の消費税相当額を含む)
ISBN
978-4-7985-0174-1
仕様
A5判 上製 322頁 C3322
発行年
2016年2月
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内容紹介

本書は,40数年にわたる著者のインタナショナル(国際社会主義)史研究を振り返る著作として構想し,今から100年前,社会主義者によって追求された戦争と平和,そして革命をめぐるインタナショナルの理念と実践がどのような意義をもったか,を歴史的に解明することをめざしている。
 
具体的には,第一次世界大戦勃発とともに第2インタナショナルが機能停止に陥ったことを契機に登場した国際反戦社会主義運動であるツィンメルヴァルト運動(1915-19年)と,ロシア10月革命を背景として実現した第3インタナショナル,つまり共産主義インタナショナル(通称コミンテルン)の創設(1919年3月)との連続する二つのテーマを中心に,国際社会主義運動の一大再編過程をインタナショナル(国際社会主義)史として包括的に捉えることをめざしている。
 
ここで言うインタナショナル史とは,従来,第2インタナショナルやコミンテルンを世界大会および執行機関を中心に捉えてきた「上から」のインタナショナル史ではなく,ジョルジュ・オープトやロバート・ウィーラーが「社会史」的方法論を駆使してめざした,いわば「下から」のインタナショナル史である。両者が相次いで亡くなった1977,78年以降,その斬新な研究は引き継がれることはほとんどなく,社会主義運動史研究自体が低調となった。しかし,社会主義体制崩壊後,旧ソ連などの文書館史料の公開に伴い,イデオロギー的価値判断に惑わされることなく,今だからこそ可能な歴史研究として,とりわけ欧米ではコミンテルン研究がつい最近まで活況を呈していた。かかる動きに刺激を受けながら,著者自身のインタナショナル史研究も,新たに得られた文書館史料を駆使して飛躍的に進められた。
 
本書はインタナショナル史のケイス・スタディでもあり,とくに着目したのは,自らの偽名として “Globetrotter”〔世界を股にかけて旅する人〕をヒントに “G.L. Trotter” を一時期使っていたS.J. リュトヘルスである。オランダ社会主義者であり,かつ土木技師であった彼には,大戦前夜から1920年代にかけて蘭領インド  アメリカ  日本  ソヴェト・ロシア  ラトヴィヤ  オランダ  クズバスにおける文字通り「インタナショナル」を自ら体現したかのごとき活動があった。かかる活動の追跡調査というスタイルを本書に組み入れることによって, 片山潜,L.C. フレイナ,F. ロジン,N. ブハーリン,A. コロンタイ,H. スネーフリート,L.K. マルテンスら多彩な顔ぶれのインタナショナルなつながりが初めて解明されることになった。
 
本書では,概説的ではなく,文書館史料をも活用して実証的に掘り下げ,時には問題史的に対象を捉えることがめざされた。一部には仮説的な考察も含まれるのだが,それは著者が長年めざしてきたインタナショナル史研究の全体像をヨリ見通しが立てられるかたちで問題提起的に示したいと願ったからである。

目次

 まえがき
 
 凡 例
 
 略語一覧
 
序 章
 
第1章 インタナショナル史研究の方法論的考察
 
  1 「社会主義のインタナショナル史」と「社会主義の地理学」
      ジョルジュ・オープト  
   (1) 生涯
      亡命前/亡命とその後
   (2) 研究
      研究テーマ/「社会主義のインタナショナル史」/民族問題と「社会主義の地理学」/最後期の研究
   (3) 方法論
      テクスト・クリティークとプロブレマティーク/「なぜ労働運動史か?」/
      社会史と批判としてのマルクス主義
  2 社会史的・数量的アプローチと草の根のインタナショナリズム
      ロバート・ウィーラー  
   (1) 数量的方法と労働運動史
   (2) 数量的分析1  若さ/「新参」と急進性との相関関係
   (3) 数量的分析2  女性と急進性との相関関係
   (4) 労働運動の社会構造―方法論的考察
   (5) 博士論文とUSPD史の新研究
   (6) 革命的社会主義インタナショナリズム
   (7) ウィーラーの総括とそれへの評価の試み
  3 ボリシェヴィズムへの文献史的アプローチ
   (1)「ボリシェヴィズム」という用語と「国際化したボリシェヴィズム」
   (2) ボリシェヴィキ文献とアメリカ
   (3) 日本共産党創立前夜のボリシェヴィキ文献
 
第2章 第2インタナショナルの「崩壊」とインタナショナルの再建
      西川正雄著『第一次世界大戦と社会主義者たち』によせて  
 
  はじめに
  1 執筆計画ならびに史料の問題
  2 第2インタナショナルの崩壊とオープト・テーゼ
  3 レーニンらボリシェヴィキと第2インタナショナル
  4 大戦勃発とインタナショナル再建論
  5 大戦中のインタナショナル史研究
 
第3章 ツィンメルヴァルト運動,1915-1919年
      コミンテルン創設前史(1)  
 
  1 伝統的な解釈
  2 第1・2期のツィンメルヴァルト運動
  3 ボリシェヴィキとツィンメルヴァルト運動,1917年3-11月
  4 ストックホルム会議とツィンメルヴァルト運動,1917年3-7月
  5 第3回ツィンメルヴァルト会議,1917年9月
  6 第3期(ロシア10月革命後)のツィンメルヴァルト運動
 
第4章 リュトヘルスとインタナショナル史研究
      片山潜・ボリシェヴィキ・アメリカレフトウィング  
 
  1 オランダ  蘭領インド
    リュトヘルスの父とその家族/デルフト工業専門学校時代のリュトヘルス/
    ロッテルダム市建設局時代のリュトヘルス
  2 蘭領インド  日本  アメリカ
    現場技師兼管理者から会社顧問技師兼代表者へ/ 『フレイェ・ウォールト』,スネーフリートとリュトヘルス
  3 アメリカ合州国(1)
    『インタナショナル・ソゥシャリスト・レヴュー』とリュトヘルス/『ニュー・レヴュー』とリュトヘルス/
    オランダ左派とアメリカ,それにリュトヘルス/社会主義宣伝同盟とリュトヘルス/
    ボリシェヴィキとアメリカ/片山潜とリュトヘルス/「国際化したボリシェヴィズム」
  4 アメリカ合州国(2)
    レフトウィング結集/『ニュー・インタナショナル』と『クラス・ストラグル』/
    社会主義宣伝同盟の後半期の活動/ 1918年のレフトウィング運動/
    最初の理論的応答/1919年のレフトウィング運動/レフトウィング運動の総括に向けて
  5 アメリカ  日本
    リュトヘルスへの二重の嫌疑と離米/検閲・押収されたリュトヘルスの通信/
    会社顧問技師としてのリュトヘルス/リュトヘルス一家の日本到着
 
第5章 第3インタナショナルへの道
      コミンテルン創設前史(2)  
 
  1 ソヴェト・ロシアによる最初の試み
  2 外国人グループ中央連盟とインタナショナリスト
  3 1918年12月の二つの国際会議
  4 「小インタナショナル」と社会主義諸ソヴェトの世界共産主義インタナショナル
  5 インタナショナリストとして,また技術顧問としてのリュトヘルス
 
第6章 初期コミンテルンと在外日本人社会主義者
 
  1 コミンテルン在外ビューローの構想および創設
  2 初期コミンテルンとアムステルダム・ニューヨーク・メキシコシティ
  3 片山潜,在米日本人社会主義団と初期コミンテルン
  4 初期コミンテルンとシベリア・極東
  5 片山潜,在露日本人共産主義者と初期コミンテルン
  6 越境するネットワーク
 
終 章
 
補 章 在米ロシア人移民労働運動史研究
 
  はじめに
  1 在米ロシア人コロニー統一の試みとロシア人全コロニー大会
  2 在米ロシア人労働者と在米ソヴェト・ロシア政府代表
 
 あとがき
 
 文献目録
 
 人名索引

著者紹介

山内昭人(やまのうち あきと)
1950年 長崎市生まれ。
1977年 京都大学大学院文学研究科博士課程中途退学
    (西洋史学〔現代史学〕専攻)。
     京都大学博士(文学)。宮崎大学名誉教授。
現  在 九州大学大学院人文科学研究院教授。
主  著 『リュトヘルスとインタナショナル史研究  片山潜・ボリシェ
     ヴィキ・アメリカレフトウィング  』ミネルヴァ書房,1996年。
    『初期コミンテルンと在外日本人社会主義者  越境するネット
     ワーク  』ミネルヴァ書房,2009年。

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