ダイオキシンと「内・外」環境 その被曝史と科学史

著者名
川尻 要
価格
定価 3,300円(税率10%時の消費税相当額を含む)
ISBN
978-4-7985-0164-2
仕様
A5判 並製 260頁 C3047
発行年
2015年9月
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内容紹介

枯葉作戦,カネミ油症など人類が経験してきたダイオキシン汚染の歴史を振り返りつつ,著者の長年に渡るダイオキシン受容体研究に基づく知見からその毒性の機序を解説する。

「3.11」以降あらわになった市民と科学者の隔絶についても,「大学・科学者」と「国・企業」の関係の変容により生じたものであるとして警鐘を鳴らす。
科学者の責務として,高度な研究成果を専門家以外の読者にも届けるべく工夫を凝らした啓蒙書である。

目次

はじめに

 

   第1部 ダイオキシン被曝の社会史

 

第1章 ベトナム「枯葉作戦」

 

 ベトナム戦争での「枯葉作戦」
 「枯葉作戦」のもたらしたもの

 

第2章 「カネミ油症」食品公害事件

 

 「ダーク油」によるニワトリ大量死と農林省の怠慢
 「油症」の発生と患者切り捨て
 原因物質はPCBではなくダイオキシン類
 「ピンホール説」の誤り
 「ダイオキシン類の中毒」を認めたくない厚生(労)省
 「油症被害者」と「市民団体」との共同行動
 「人権救済」勧告から「救済の総合的な推進に関する法案」成立へ
 「油症患者」の示す全身病=AhRの多機能性を反映

 

第3章 「セベソ」農薬工場爆発事故

 

 事故の発生
 多国籍企業の企業秘密と行政の無策
 ダイオキシン汚染の公表と強制疎開
 リー報告書
 土壌除染とバーゼル条約
 健康追跡調査
 事故による問題提起

 

第4章 『沈黙の春』から『奪われし未来』へ

 

 『沈黙の春』
 『複合汚染』
 ウィングスプレッド宣言
 『奪われし未来』
 外因性内分泌攪乱化学物質
 日常の中のダイオキシン被曝

 

インターミッション  基礎知識の整理  

 

   第2部 ダイオキシン受容体研究の科学史

 

第5章 AhR研究の前史

 

 薬物代謝は酸素を必要とする酵素反応である
 「チトクロームP450」の発見
 ミクロゾームの電子伝達系と薬物代謝活性
 外来性化学物質による薬物代謝酵素の誘導

 

第6章 AhRは「内・外」環境を繫ぐ

 

 マウスでのAHH誘導能の系統差を規定=”Ah locus”
 TCDDは強力なAHH誘導能を持つ
 非応答性マウスでの受容体変異
 TCDD結合因子(受容体)が細胞質に存在する
 ”誘導剤・AhR”は核へ移行する
 AhRが制御するP1-450以外の薬物代謝酵素
 P450の可溶化・精製
 化学発がん物質による発がん
 化学発がん物質は体内で活性化されて発がん性を示す
 エームス試験法の開発
 ヒト異物代謝型P450による代謝的活性化
 代謝的活性化の具体例
 P450遺伝子のクローニング
 ”誘導剤結合AhR”と遺伝子の接点:XREの同定
 ARNTクローニング
 AhRの遺伝子クローニング
 P450遺伝子多型と発がん感受性  SNPの先駆け  

 

第7章 AhRによる遺伝子転写調節

 

 AhRとARNTのドメイン構造の解析
 AhRのリガンドによる活性化
 細胞質でのAhR複合体
 核膜の通過(核内移行と核外輸送)
 核内でのAhR転写誘導複合体形成
 遺伝子発現の抑制機構
 マウスAhRの多様性とヒトAhR
 AhR遺伝子欠損マウスでの毒性評価
 P450の超遺伝子族としての確立
 AhRの分子進化と生物進化
 核内受容体によるP450転写制御

 

第8章 AhRの本来的な生物機能と毒性発現

 

 無脊椎動物AhRの生理機能
 AhR・ARNTの発生過程での発現
 脊椎動物AhRの生理機能

 

考 察 「科学者・専門家」と「市民」

 

 「原発」事故と「放射線医療専門家」
 「ダイオキシン類」被曝と「科学者」
 「体制内化された科学」
 「帝国主義的再編」に反対する戦い
 大学闘争後の大学の質的変遷
 大学院重点化政策
 「研究のプロジェクト化」と国家によるコントロール
 「科学行政」の「情報公開」を
 「安全性の哲学」
 「因果関係」と「蓋然性」
 これからの科学

 

参考資料・文献

 

『ダイオキシンと「内・外」環境 その被曝史と科学史 』について  大村恒雄(九州大学名誉教授)

 

あとがき

 

索 引

著者紹介

川尻 要(かわじり かなめ)
昭和41年3月 千葉県立佐原高等学校卒
昭和45年3月 東北大学理学部生物学科卒
昭和48年3月 九州大学大学院理学研究科修士課程修了
昭和52年7月 九州大学大学院理学研究科博士課程修了(理学博士)
昭和52年8月~平成5年3月 埼玉県立がんセンター研究所 生化学部
 (昭和60年10月~昭和61年9月 アメリカNIEHS, NIH留学)
平成5年4月~平成10年3月 埼玉県立がんセンター 研究所 生化学部長
平成10年4月~平成20年3月 埼玉県立がんセンター 臨床腫瘍研究所 主席主幹
平成20年4月~平成24年3月 埼玉県立がんセンター 臨床腫瘍研究所 専門員
現在 同研究所 客員研究員

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