内容紹介
国連の「持続可能な開発目標」(SDGs) の目標13「気候変動に具体的な対策を」および目標15「陸の豊かさも守ろう」に掲げられるように、世界の気候変動における具体的な対策において、森林資源保全に関する政策は、国際社会で認識された喫緊の課題である。しかし途上国における森林減少の課題は解決されておらず、持続可能な社会を指向する現在においても、再生可能資源である森林は熱帯地域等で減少が続き、半世紀に及ぶ問題となっている。
その解決に向けて、特に熱帯林を対象とする地域研究や林政学において、参加型森林管理(CBFM)の重要性が指摘されており、本書ではその事例として、森林面積が増加に転じているインドにおける森林パンチャーヤト(Van Panchayat:森林に関わる住民自治組織)に注目する。著者は、ヒマラヤ山麓に位置するウッタラーカンド州の森林パンチャーヤトに関する地域研究により、その制度や組織、住民参加の面から、課題について論じる。森林パンチャーヤトは、英植民地支配の歴史を有するインドにおいて、英国による植民地時代に「開発組織」として内発的に組織されたこと、細やかな管理規則と利用が定められた村落では住民の長年の経験によって蓄積されてきた知識が持続的森林管理につながること、森林管理への住民参加には意思決定の場、管理活動、管理プラン作成という3段階の参加があること、森林パンチャーヤト長や森林管理委員等の代表的な立場であることが意思決定の参加を高めること、そして女性と森林と関わりについて考察している。
本書は、熱帯林管理に関する地域研究や林政学の学術分野において、新たな事例分析に基づき参加型森林管理論に新規の知見と分析視座を加えており、学術的意義が大きいと認められる。