ヒマラヤの森はなぜ守られたのか
インド・ウッタラーカンド州における森林パンチャーヤトの資源管理

著者名
長濱和代
価格
定価 2,970円(税率10%時の消費税相当額を含む)
ISBN
978-4-7985-0341-7
仕様
A5判 並製 216頁 C3061
発行年
2022年12月
ご注文
  • 紀伊國屋
  • amazon
  • honto
  • セブンネットショッピング
  • 楽天ブックス

内容紹介

国連の「持続可能な開発目標」(SDGs) の目標13「気候変動に具体的な対策を」および目標15「陸の豊かさも守ろう」に掲げられるように、世界の気候変動における具体的な対策において、森林資源保全に関する政策は、国際社会で認識された喫緊の課題である。しかし途上国における森林減少の課題は解決されておらず、持続可能な社会を指向する現在においても、再生可能資源である森林は熱帯地域等で減少が続き、半世紀に及ぶ問題となっている。

その解決に向けて、特に熱帯林を対象とする地域研究や林政学において、参加型森林管理(CBFM)の重要性が指摘されており、本書ではその事例として、森林面積が増加に転じているインドにおける森林パンチャーヤト(Van Panchayat:森林に関わる住民自治組織)に注目する。著者は、ヒマラヤ山麓に位置するウッタラーカンド州の森林パンチャーヤトに関する地域研究により、その制度や組織、住民参加の面から、課題について論じる。森林パンチャーヤトは、英植民地支配の歴史を有するインドにおいて、英国による植民地時代に「開発組織」として内発的に組織されたこと、細やかな管理規則と利用が定められた村落では住民の長年の経験によって蓄積されてきた知識が持続的森林管理につながること、森林管理への住民参加には意思決定の場、管理活動、管理プラン作成という3段階の参加があること、森林パンチャーヤト長や森林管理委員等の代表的な立場であることが意思決定の参加を高めること、そして女性と森林と関わりについて考察している。

本書は、熱帯林管理に関する地域研究や林政学の学術分野において、新たな事例分析に基づき参加型森林管理論に新規の知見と分析視座を加えており、学術的意義が大きいと認められる。

目次

 まえがき
 用語の定義
 図表および写真一覧
 
第1章 世界の森林減少と参加型森林管理
    ──森を守るために
 
 第1節 研究背景と目的
  1.世界の森林減少
  2.参加型森林管理
    参加型森林管理の出現と国・地域での実践/参加型森林管理の課題
  3.研究の視座
    持続的な森林管理の定義/国・地域での参加型森林管理の展開/参加の種類と定
    義/コモンズ論における持続的な森林管理の指標/女性の森林利用と管理/地域
    組織との関係性──基礎集団と機能集団/インドでの展開と森林パンチャーヤト
  4.研究目的──持続的な森林管理の特性を解明する
 第2節 森林管理における住民自治組織
  1.森林パンチャーヤトへの着目
  2.既往研究からの発展
 第3節 研究方法
  1.調査地の概要
  2.データの収集方法
    文献収集と統計資料調査および翻訳/村落での先行調査と複数村での構造的面談
    調査/参与観察と面談調査/樹木調査
 第4節 本書の構成
 
第2章 州の森林制度と地域規則の展開
    ──森林パンチャーヤトに関する州制度および村落制度の解明
 
 第1節 インド・ウッタラーカンド州における森林パンチャーヤト制度の創出と変遷
     ──森林パンチャーヤトがウッタラーカンド地方に出現したのはなぜか
  1.州の林地区分とその位置づけ
  2.規則制度の変遷
    村落共有地から植民地支配へ/ウッタラーカンド地方での抑圧と森林パンチャー
    ヤトの創出/森林パンチャーヤトの制度の変遷
  3.森林パンチャーヤトの現状
  4.考 察
 第2節 地方における制度の解明と分析
  1.24村落での予備調査
    パンチャーヤト林の面積と存続年数/森林パンチャーヤトの口座額/森林パン
    チャーヤトが組織される村落の標高/活動的でない組織の状況
  2.4村落での本調査
    各村落の概要/各村落における地域規則/世帯調査の結果/森林調査の結果
 第3節 考 察
 
第3章 村落での森林利用管理の実際と住民の意識
    ──パンチャーヤト林の管理と利用
 
 第1節 研究課題
 第2節 結 果
  1.地域規則の解明
    D村のマイクロプランの結果/初代森林パンチャーヤト長への面談調査と参与観
    察/住民世帯への構造的面談調査と参与観察
  2.森林管理委員の特性
  3.女性の森林利用と森林管理委員への参加
    森林管理委員である女性たちとの面談/管理委員でない女性たちとの面談/森林
    管理委員となることを阻む要因
 第3節 考 察
 
第4章 森林パンチャーヤトの資源管理における住民組織と参加
    ──ヒマラヤの森はなぜ守られたのか
 
 第1節 総合考察
  1.既往研究の整理と研究目的
  2.パンチャーヤト林の形成過程と制度の変遷
  3.森林パンチャーヤトの組織の特性
  4.新たな参加の段階と形態
  5.森林管理委員の傾向と女性の参加
 第2節 結 論
  1.参加型森林管理の類型の再検討
  2.森林管理における住民参加の3 段階
  3.外部組織と地域住民による「森林利用知」
  4.内発的な「開発組織」としての森林パンチャーヤト
 第3節 今後の課題と提案
  1.本研究における限界と課題
  2.インドヒマラヤの特殊性
  3.女性による森林管理の課題
  4.住民自治組織の自律性
 
 あとがき
 初出一覧
 参考・引用文献
 付録資料
 索 引

著者紹介

長濱和代(ながはま かずよ)
 
愛知教育大学教育学部数学科卒業。学士(教育学)。
筑波大学大学院生命環境科学研究科修了。修士(環境科学)。
東京大学大学院新領域創成科学研究科単位取得退学。博士(農学、筑波大学)。
東京都小学校教員(荒川区・足立区)を経て、現在、
日本経済大学経営学部教授,東京大学大学院農学生命科学研究科農学研究員、
環境探究学研究会理事、ハンズオン・マス研究会幹事。
日本環境教育学会員、日本森林学会会員、日本南アジア学会他に所属。
2021年まで林野庁林政審議会委員,2020年まで松戸市環境審議会委員等を
務めた。2022年から福岡県感染症協議会委員。
 
【主要著作】
編 著:
『学校教育の未来を切り拓く探究学習のすべて─PC×R サイクルによる指導原理と評価法」(合同出版、2022)
共 著:
『環境教育辞典』(教育出版、2013)
『辞典持続可能な社会を作る』(教育出版、2018)
  “Responding to the Environmental Crisis”(南山大学社会倫理研究所、2016)他

学術図書刊行助成

お勧めBOOKS

若者言葉の研究

若者言葉の研究

生きている言語は常に変化し続けています。現代日本語も「生きている言語」であり、「…

詳細へ

犯罪の証明なき有罪判決

犯罪の証明なき有罪判決

冤罪はなぜ起こるのか。刑事訴訟法は明文で、「犯罪の証明があった」ときにのみ、有罪…

詳細へ

賦霊の自然哲学

賦霊の自然哲学

物理学者フェヒナー、進化生物学者ヘッケル、そして発生生物学者ドリーシュ。本書はこ…

詳細へ

帝国陸海軍の戦後史

帝国陸海軍の戦後史

近代日本のなかで主要な政治勢力の一翼を担った帝国陸海軍は、太平洋戦争の敗戦ととも…

詳細へ

構造振動学の基礎

構造振動学の基礎

本書の目的は,建物・橋梁・車両・船舶・航空機・ロケットなど軽量構造物の振動現象を…

詳細へ

九州大学出版会

〒814-0001
福岡県福岡市早良区百道浜3-8-34
九州大学産学官連携イノベーション
プラザ305
電話:092-833-9150
FAX:092-833-9160
E-mail : info@kup.or.jp

このページの上部へ