魯迅野草と雑草

著者名
秋吉 收
価格
定価 5,800 円 (税別)
ISBN
978-4-7985-0191-8
仕様
A5判 上製 398頁 C3098
発行年
2016年11月
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内容紹介

「芸術的完成さでは魯迅のあらゆる作品中で第一位を占める」(竹内好『魯迅入門』)。この言葉に象徴されるように、散文詩集『野草』は中国近代文学史上最高の文学者たる魯迅の最高傑作として称えられてきた。本書はこの作品集を中心に、全く新たな観点から魯迅の文学を捉え直すことを試みる。例えば、タイトルの『野草(Ye-cao)』は日本語訳としても同じく『野草』とされてきたが、よりふさわしい日本語訳として初めて"雑草"を提起する。高潔で凜とした"野草"のイメージに反して、魯迅自身は実際にはそこに日本語"雑草"の大地に根を張る荒々しい力強さを託していた。既定の殻を脱し、魯迅を本来のテキスト、その実像に回帰させることが本書の一貫したテーマである。

全体は、序章を含む全4部13章と全篇の新訳たる『雑草』から構成される。材料としては、魯迅と敵対関係にあった文人や、日本を始めとする海外の文学など、従来の魯迅研究殿堂にて忌避或いは見落とされてきた対象を敢えて掘り起こし、一次資料を駆使した緻密な調査によって跡づけていく。その結果、魯迅の最高傑作が同時代の無名作家、そしてタゴールやツルゲーネフ、さらには芥川龍之介や佐藤春夫等の日本文学からの模倣に支えられていた多くの意外な事実が明らかになった。そこには、真の近代的文人たる魯迅の意識の深層が確かに根づいている。

次々に開示される新発見は刺激的で、読者の知的好奇心を大いに満たしてくれる。周知の魯迅像を覆す極めて斬新かつ実証的な文学研究。日本人にとっての魯迅とは「阿Q正伝」や「故郷」などの小説作品が中心であったが、その文学芸術の粋たる『野草』を繙くことの意味を本書は改めて教えてくれる。中国語『野草』を初めて日本語『雑草』と訳した最新の全訳も、こなれた日本語で分かり易い。

目次

 はじめに
 
序章 「野草(Ye-cao)」と「雑草」
 
 一 日本語と中国語
 二 魯迅における「野草(Ye-cao)」
 三 「野草(Ye-cao)」の翻訳を通して
 
  第I部 『野草』論
 
第1章 徐玉諾と魯迅
 
 一 二人の関係について
 二 散文詩人としての徐玉諾
 三 人と「亡霊(鬼)」の狭間で
 四 『野草』における徐玉諾
 五 出会いそして別れ
 
第2章 「犬の反駁」「論を立てる」の位置
 
 序
 一 従来の評価
 二 「犬の反駁」をめぐって
 三 晨曦「新亡霊協会」
 四 「犬の反駁」の素材
 五 「論を立てる(立論)」をめぐって
 
第3章 北京『晨報副刊』
 
 序
 一 「ツルゲーネフ散文詩五〇篇」訳載
 二 魯迅と『晨報副刊』
 三 与謝野晶子「雑草」掲載
 
  第II部 「影の告別」論
 
第4章 タゴール、徐志摩の影響
 
 一 「インドを除く」  タゴール排斥の意味  
 二 "詩人" 徐志摩と魯迅
 三 西洋との出会い
 
第5章 周作人の影
 
 序
 一 『野草』とエスペラント
 二 『野草』とボードレール
 三 佐藤春夫「形影問答」
 四 詩人としての周作人
 
第6章 「行く」か「留まる」か
 
 一 「住」の翻訳から
 二 「往」か「住」か
 三 「不愿住」の解釈について
 四 "異端" の説
 
  第III部 『野草』と日本文学
 
第7章 与謝野晶子
 
 一 周作人訳「貞操論」
 二 共有する「草」への情感
 三 魯迅の愛した"植物"
 四 魯迅と与謝野晶子
 
第8章 佐藤春夫
 
 一 従来の認識
 二 「影の告別」と「形影問答」
 三 佐藤春夫「私の窓」と掲載誌『中央文学』
 四 "詩人" 佐藤の終焉
 
第9章 芥川龍之介
 
 一 二人の出会い
 二 魯迅『野草』と芥川『わが散文詩』  「秋夜」と「秋夜」「椎の木」  
 三 魯迅『野草』と芥川『春服』  「旅人(過客)」と「往生絵巻」  
 四 魯迅の芥川評価をめぐって
 五 二人の「詩人」
 
  第IV部 「詩人」魯迅
 
第10章 「詩」への想い
 
 一 魯迅の「想い」
 二 芥川の「想い」
 三 二人の遺した「詩」
 四 詩人の別れ
 
第11章 「雑文家」への道
 
 序
 一 「詩人魯迅」の形成
 二 "詩" 集としての『野草』
 三 魯迅の文学
 
第12章 「野草」の成立
 
 一 魯迅と「『吶喊』の評論」
 二 成仿吾「詩之防御戦」
 三 『創造週報』をめぐって
 四 『野草』の命名について
 
新訳 散文詩集『雑草』
 
 題辞/秋夜/影の告別/乞食ぼくの失恋  古いにしえになぞらえた新しい戯れ歌/
 復讐/復讐(その二)/希望/雪/凧/美しい物語/旅人/死火/犬の反駁/
 失われたよき地獄/墓碑銘/崩れた線のふるえ/論を立てる/死後/このような戦士/
 利口ものとバカと召使い/秋枯れの葉/淡い血痕のなかで  幾人かの死者と生者と
 いまだ生まれざる者とを記念して/目覚め/
 
 魯迅『野草』関連年譜
 魯迅『野草』関連文献目録
 初出一覧
 あとがき
 人名索引

著者紹介

秋吉 收(あきよし しゅう)
 
九州大学大学院言語文化研究院准教授。
中国近現代文学、日中比較文学専攻。
九州大学文学部中国文学専攻卒業。同大学院文学研究科博士課程修了。博士(文学)。
 
編著に
『異文化を超えて  “アジアにおける日本” 再考』(〔比較社会文化叢22〕,2011 年,花書院),
『現代の日本における魯迅研究』(〔言語文化叢書22〕,2016 年,九州大学言語文化研究院),
共著に
『わかりやすくおもしろい中国文学講義』(2002 年,中国書店),
『彰化文学大論述』(2007 年,五南図書出版〔台湾〕),
『中心到辺陲的重軌与分軌 日本帝国与台湾文学・文化研究』(2012 年,台湾大学出版)
などがある。

書評

図書新聞第3290号(2017年2月11日付) 評者:小山三郎(杏林大学教授)
 
 西日本新聞「読書館」(2017年2月12日付 朝刊) 評者:佐竹保子(東北大学教授)
 
東方第435号(2017年5月5日発行) 評者:吉田富夫(佛教大学名誉教授)

学術図書刊行助成

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