内容紹介
南スーダンについて
長年にわたる内戦の末、2011年、南スーダンは悲願であった独立を達成した。しかし、さまざまな機関による平和構築や開発支援もむなしく、独立後には各地では武力衝突が相次ぎ、新国家はふたたび内戦状態へと陥った。
予言者について
スーダン地域の政治軍事情勢と密接にかかわりあってきたのは、地域社会に存在する「予言者」をはじめとする宗教的職能者たちである。彼らは、時代の権力者に「魔術師」や「呪医」などとみなされ迫害されながらも、地域社会の平和を構築しようと試み、時として人々を紛争へと動員していった。
本書について
本書は、スーダン地域における「予言者」の歴史的生成過程を明らかにするとともに、ヌエル社会において語り継がれてきた予言が、人びとの紛争経験や出来事をどのように形づくってきたのかを、約19か月の現地調査に基づき明らかにしようとするものである。19世紀に存在したヌエルの予言者ングンデンによってつくられた予言の歌は、現在に至るまで歌い継がれ、ヌエルの人びとが苦難の経験を語るすべとなってきた。「エ・クウォス」とは、ヌエルの人びとがさまざまな出来事に直面した際に「予言が成就した」という意味合いで用いる表現である。本書は、内戦、平和構築、悲願の国家独立、そして再び内戦へと突入する南スーダンの動乱の時代に、予言者への信念と疑念の間で揺れるヌエルの人びとが、さまざまな想像力とともに不幸や不条理を語る技法を探究したものである。