帝国法制秩序と樺太先住民 植民地法における「日本国民」の定義

著者名
加藤絢子
価格
定価 4,180円(税率10%時の消費税相当額を含む)
ISBN
978-4-7985-0327-1
仕様
A5判 上製 250頁 C3032
発行年
2022年3月
ご注文
  • 紀伊國屋
  • amazon
  • 楽天ブックス
  • セブンネットショッピング

内容紹介

19世紀半ば以降、日本とロシアはサハリン島に進出し、以後同島は両国の国境地域となった。近世末の日露雑居期から第二次大戦までに起きた度重なる国境変動は、アイヌ、ウイルタ、ニヴフ、エヴェンキなど現地先住民の生活に大きな影響を与えた。

日本の主な支配地域であったサハリン南部(「樺太」)の先住民は、その少数性などから日本の植民地政策上さほど重要視されておらず、台湾や朝鮮のような植民地統治に対する激しい抵抗もみられなかった。また、第二次大戦後、台湾や朝鮮の民族籍を持つ者は平和条約発効とともに日本国籍を喪失したが、樺太の先住民の一部は戦後も日本国籍の保持が認められた。

このように樺太先住民は、台湾・朝鮮と異なる植民地としての歴史的背景を持つが、国民統合や戦後補償の観点から従来の植民地研究のなかでは台湾・朝鮮と同じ枠組みで語られることが多かった。そのようななかで本書は樺太先住民に対する法政策に注目し、帝国法制のなかで「辺境」の先住民がいかなる法的地位の変遷をたどったのか、その関連法の制定と運用をみていき、法秩序上の「国民」とは何か分析する。

目次

序 章 植民地研究と法
 
 第1節 従来の植民地法研究の視角
  敗戦による植民地出身者の日本国籍喪失/植民地統治における法の役割  属人
  法と属地法/帝国研究のなかの植民地法研究
 第2節 植民地研究における樺太
  樺太における異民族の少数性と日露関係史/樺太の法域の特徴:本国政府との関
  係  植民地の権限と司法制度から/樺太先住民の法的地位/先行研究における
  樺太像  移民・国境・辺境/樺太先住民に関する法制度史的研究
 第3節 本書の構成
  樺太先住民と国境変動  研究対象期間の設定/本書の構成と研究手法/資料表
  記上の注意
 
第1章 日露のサハリン領有と先住民への対人主権
 
 第1節 日露によるサハリン島の共同領有
  対人主権の並存/現地の行政機関/司法行政
 第2節 自国民としての保護
  事件の概要/信服と外交のための公平な裁判
 第3節 ロシア帝国臣民としての配慮
  樺太千島交換条約におけるサハリン先住民の国籍規定/ロシアによるサハリン先
  住民の保護/ロシア臣民となった先住民への日本側の対応先住民の保護/小括
 
第2章 異法域としての樺太の誕生
 
 第1節 樺太の統治方針と特例規定
  樺太の統治方針/勅令による特別規定の制定/内地人と先住民の各属人法の関係
  /「土人ニ関スルコト」の詳細についての規程/保護政策のための例外規定
 第2節 漁業権にみる保護政策の背景
  樺太における植民と先住民/ロシア統治下での漁場経営/日本人漁業者との関係
  /樺太島漁業仮規則の制定/漁場入札からの排除と「土人漁場」の設立/漁業仮
  規則改正案から「土人漁場」設置へ/保護政策への反対/小括
 
第3章 先住民の法的地位の「内地化」過程
 
 第1節 旧慣調査の状況と近代法の適用
  帝国秩序としての植民地法と、その運用実態/旧慣適用の実態/裁判所の旧慣調
  査/司法機関以外の調査との相違/古老の語り/判例からみる旧慣適用の実態/
  1930年代前後の判例/先住民の特例規定に対する意見
 第2節 自治制度の整備にともなう先住民の法的地位の把握
  地方自治の充実と徴税のための戸籍法施行/樺太先住民の国籍/「土人戸口届出
  規則」の改正/戸口調査の実態/戸籍法施行の延長上の徴兵令施行/小括
 
第4章 先住民の越境と集住地の形成
 
 第1節 北樺太撤退と先住民の越境
  国境変動による人の移動/先住民の越境/事例1:ヤクート人ヴィノクーロフ/
  事例2:生活苦による移住
 第2節 集住地「オタス」の形成
  樺太アイヌ以外の集住地「オタス」/オタス形成の背景/小括
 
第5章 先住民の国籍  無国籍から日本臣民へ  
 
 第1節 領有初期の樺太先住民の国籍  日露講和条約と政府の認識  
 第2節 ソ連国籍の確認と先住民による請願運動
 第3節 日露講和条約の再解釈
  旧慣を適用基準とした樺太アイヌへの戸籍付与/小括
 
第6章 先住民の引揚げ
 
 第1節 樺太先住民の「引揚げ」
  ソ連の参戦と緊急疎開、引揚げの停止/樺太先住民の引揚げ/移住者数
 第2節 引揚げ後の状況
  日本へ引き揚げた理由/網走周辺への居住/引揚げ後の生活/小括
 
第7章 帝国臣民の定義
 
 第1節 戦前の臣民の定義
  帝国憲法制定時の臣民/植民地領有後の臣民の区分/太平洋戦争以降の臣民の区
  分/小括
 第2節 戦後の臣民の定義
  小括
 
第8章 先住民の就籍とその法理
 
 第1節 戦後の帝国臣民の法的地位
  大日本帝国の崩壊と「台湾人」・「朝鮮人」の国籍喪失/樺太を本籍とする戸籍
  を持つ者の場合/樺太先住民の場合/樺太の主権
 第2節 樺太先住民の就籍における戸籍と国籍の法理
  就籍手続き上で生じた疑義/樺太先住民をめぐる日ソの対人主権/戦後の旧樺太
  における残留日本臣民のソ連国籍取得の背景/残留日本人に準じた国籍処理
 第3節 帝国法制の法理における日本国籍の得喪
  戦後の法制秩序における戸の役割/小括
 
終 章 樺太における属人法の性質
 
 第1節 サハリン島をめぐる日露統治と先住民の国籍
 第2節 内地人社会の形成と先住民の法的地位
 第3節 平和条約と樺太先住民の就籍の法理
 
 あとがき
 参考文献
 注
 索 引

著者紹介

加藤絢子(かとう あやこ)
 
2012年 日本学術振興会特別研究員(DC2)
     九州大学大学院比較社会文化研究院博士後期課程単位取得退学
2015年 九州大学百年史編集室テクニカルスタッフ(~2017年)
2019年 博士(学術、九州大学)
     九州大学大学院比較社会文化研究院特別研究者(~現在)
2020年 九州国際大学 非常勤講師(~現在)
 
主要論文:「樺太先住民の国籍:無国籍から日本臣民ヘ」(『北海道・東北史研究』第8号、2012年)
主要著書:「『樺太庁報』にみるサハリン先住民」(E.A.イカニカワ、A. A.ステパネンコ編『文学と定期
      刊行物におけるサハリンとクリル諸島 研究論文集成』サハリン総合大学、分担執筆、2013年)

学術図書刊行助成

お勧めBOOKS

若者言葉の研究

若者言葉の研究

生きている言語は常に変化し続けています。現代日本語も「生きている言語」であり、「…

詳細へ

犯罪の証明なき有罪判決

犯罪の証明なき有罪判決

冤罪はなぜ起こるのか。刑事訴訟法は明文で、「犯罪の証明があった」ときにのみ、有罪…

詳細へ

賦霊の自然哲学

賦霊の自然哲学

物理学者フェヒナー、進化生物学者ヘッケル、そして発生生物学者ドリーシュ。本書はこ…

詳細へ

帝国陸海軍の戦後史

帝国陸海軍の戦後史

近代日本のなかで主要な政治勢力の一翼を担った帝国陸海軍は、太平洋戦争の敗戦ととも…

詳細へ

構造振動学の基礎

構造振動学の基礎

本書の目的は,建物・橋梁・車両・船舶・航空機・ロケットなど軽量構造物の振動現象を…

詳細へ

九州大学出版会

〒819-0385
福岡県福岡市西区元岡744
九州大学パブリック4号館302号室
電話:092-836-8256
FAX:092-836-8236
E-mail : info@kup.or.jp

このページの上部へ