内容紹介
本書は、古今東西の文学や思想に見られる様々な死生観と、現在の生命倫理の諸相という二つの領域を総合的に関連づけながら考察することにより、生と死に向き合うために必要な心構えや勇気、そして覚悟を読み取ることをめざすものである。
第Ⅰ部では、第Ⅱ部以降の各章の理論的な背景として、まず第1章で「気づかい」を具体例にして倫理学におけるアプローチを紹介し、第2章では宗教学の観点から、古今東西の様々な死生観の分類と位置づけのための基盤となる枠組みを提示している。
第Ⅱ部では、生命倫理の「現場」における生と死をめぐる様々な葛藤や議論、諸課題を取り上げている。まず第3章では、2016年の熊本地震での公衆衛生活動実践について述べ、第4章では弔いの儀礼をケア論の文脈で論じている。また第5章では、紛争解決学の観点からのアプローチの有効性を議論している。
第Ⅲ部では、内外の文学作品から古今東西の死生観を読み解いていく。第6章では明治期の日本における「天災」と、夏目漱石ならびにラフカディオ・ハーンの思考や想像力との関連について、第7章では中国古典小説にみる幽霊と冥界についてそれぞれ考察している。第8章では中世ドイツ文学からハルトマン・フォン・アウエの『哀れなハインリヒ』を読み解き、最後の第9章では、16世紀フランス文学を代表するプロテスタント詩人、アグリッパ・ドービニェについて論じている。
現代社会における先端医療技術の急激な進歩は、生の始まりと生の終わりにおいて、人間による技術的介入を広範囲に可能にし、それに伴って生と死の概念にも劇的な変化をもたらしている。そのような状況の中で、古今東西の様々な死生観を考察することは、生と死の意味を捉え直す際の手がかりとして、ますます重要になってきているといえよう。