知っておきたい水問題
内容紹介
世界の総人口が74億人を突破し、人口増加による急速な工業化、都市化、経済活動の拡大や生活水準の向上などに伴って、水の需要は増える一方です。しかし、未だに世界の多くの国々は水不足に悩まされていて、2025年には世界総人口の約45%が水資源の不足状態を経験するとも予想されています。世界を見渡してみると、日本のように蛇口をひねると安心して使える水がいつでも出てくる、という国はそう多くありません。さらに、有害物質の流出、下水処理施設の未整備による水質汚染問題も大きく、安全な水資源が確保できない地域も多いのが実情です。
また、これら水資源の問題は農産物の生産に影響を及ぼし、食料の持続的な供給も危ぶまれています。人間活動で用いる水資源の多くは一次生産に使われていて、日本国内では水資源の60%以上が農業で用いられています。世界全体では人口の増加に伴う食料需要を満たすため、水資源の70%近くが農業用水として利用されています。
1995年、世界銀行の副総裁が「21世紀は水をめぐる争いの世紀になるだろう」と述べました。21世紀、まさに水の世紀という言葉通り、地球は水資源の確保、その利用、争いや水質汚染など、様々な問題に直面しています。本書では、日本国内のみならず、海外も含めた水資源に関連するさまざまな問題を多様な角度で分析し、専門家ではない方にも分かりやすく紹介しています。地球人として共有する全世界的な問題である水問題を、一緒に考えてみませんか。
目次
まえがき
第1章 水問題とは
水問題の三つの側面/安全な飲み水/水資源はフローで考える/仮想水という概念/
食料自給率/ダムの運用/持続可能な社会のために
第2章 森林と水
森林とは/森林と環境問題/中国の森林の現状と課題/日本の森林の現状と課題/
森林管理による環境保全
第3章 見えない巨大水脈 地下水の今後
地下水とは何か/地下水に依存する人間/地下水の枯渇/深刻化する地下水汚染/
なぜ地下水は枯渇してしまうのか/地下水を守る取り組み
第4章 農業・農村における水の利用
世界の水需要/灌漑はなぜ必要か/灌漑・農業の多面的機能/灌漑の負の側面/
農業上の水利用の展望
第5章 水資源の利用をめぐる国際紛争の解決
国際公共財としての水/国際河川をめぐる対立と協力/国際法とは/
国際河川・越境地下水に関する国際法/国際河川の利用に関する理論的基盤/
国際法上の衡平原則/国際河川の利用をめぐり争われた国際判例
第6章 生物たちが守る飲み水の安全性
飲み水の安全性/原因がわからない水質汚染事故/生態系にダメージを与えた事故/
淡水プランクトンの利用/動物プランクトンの利用/二枚貝の利用/魚の利用
第7章 地域の水資源について
福岡市の水事情/大学移転と糸島地域/海水の浸入/地下水涵養量の確保
第8章 韓国の水問題
韓国の水事情/南江ダム/四大主要河川改修事業・ビフォー/
四大主要河川改修事業・アフター
第9章 バングラデシュの水問題
地形と気候/灌漑用水/ヒ素汚染/サイクロン被害/シェルターの建設
第10章 食品企業における地下水の利用と水資源の保全
人類と水資源/サントリーと水/サントリーの取り組み/
森林における地下水涵養の仕組み/水資源管理の連携/水資源管理の基準づくり
あとがき
執筆者一覧
著者紹介
◆編著者
沖 大幹(おき たいかん) 第1章、あとがき
東京大学生産技術研究所教授。博士(工学、東京大学)、気象予報士。
1989年、東京大学大学院工学系研究科修了。東京大学助手、同講師等を経て2006年より現職。2016年より国連大学上級副学長、国際連合事務次長補を兼務。2017年より総長特別参与。専門は土木工学で、特に水文学、 地球規模の水循環と世界の水資源に関する研究。気候変動に関わる政府間パネル第5次報告書統括執筆責任者、国土審議会委員ほかを務める。著書に『水の未来』(岩波書店、2016年)、『水危機 ほんとうの話』(新潮社、2012年)、『水の世界地図(第2版)』(監訳、丸善出版、2011年)など。 生態学琵琶湖賞、日経地球環境技術賞、日本学士院学術奨励賞など表彰多数。水文学部門で日本人初のアメリカ地球物理学連合フェロー(2014年)。
姜 益俊(かん いつじゅん) まえがき、第6章、第8章
九州大学留学生センター准教授。博士(農学、九州大学)。
1995年、韓国国立忠南大学自然科学部を卒業。1997年、九州大学大学院生物資源環境科学研究科に留学し、環境汚染物質の内分泌かく乱作用の影響を調べる研究を行った。2003年に学位を取得し、株式会社正興電機製作所に入社。研究開発や海外の技術営業などを経験した後、2007年、産学共同研究を目的とした九州大学大学院農学研究院寄付講座・客員准教授に就任。同研究院准教授を経て2015年より現職。著書に『社会人になる前に読んでおきたい! ビジネスコミュニケーション』(共著、九州大学出版会、2015年)、Atmospheric and Biological Environmental Monitoring(共著、Springer、2008年)、Ecotoxicology of Antifouling Biocides(共著、Springer、2008年)など。
◆執筆者(五十音順)
芦刈俊彦(あしかり としひこ) 第10章
サントリーグローバルイノベーションセンター株式会社専任上席研究員。博士(工学、大阪大学)。
1981年、大阪大学大学院工学研究科修士課程を修了し、サントリー株式会社入社。同社応用生物研究室、先進技術研究所所長、サントリービジネスエキスパート株式会社水科学研究所所長を経て現職。
井田徹治(いだ てつじ) 第3章
共同通信社編集委員・論説委員。
1983年、東京大学文学部を卒業し、共同通信社に入社。科学部記者、ワシントン支局特派員などを経て現職。気候変動枠組み条約締約国会議、ワシントン条約締約国会議、生物多様性条約締約国会議など多くの国際会議を取材し、世界各国での環境破壊の現状や環境保全、自然保護の取り組みなどを発信している。著書に『霊長類 消えゆく森の番人』(岩波書店、2017年)、『環境負債 次世代にこれ以上ツケを回さないために』(筑摩書房、2012年)、『見えない巨大水脈 地下水の科学』(講談社、2009年)など。
大槻恭一(おおつき きょういち) 第2章
九州大学大学院農学研究院教授。農学博士(京都大学)。
1986年、京都大学大学院農学研究科単位取得後退学。香川大学農学部助教授、鳥取大学乾燥地研究センター助教授、九州大学農学研究院助教授を経て2005年より現職。著書に『地域環境水文学』(共著、朝倉書店、2016年)、『森林水文学』(森林水文学編集委員会 編、森北出版、2007年)、『局地気象学』(共編、森北出版、2004年)など。
尾﨑彰則(おざき あきのり) 第9章
九州大学熱帯農学研究センター助教。博士(農学、九州大学)。
2006年、九州大学大学院生物資源環境科学府博士後期課程修了。学位取得後、日本学術振興会特別研究員(PD)、九州大学農学研究院特任助教、JICA草の根技術協力事業バングラデシュ現地調整員を経て現職。
凌 祥之(しのぎ よしゆき) 第4章
九州大学大学院農学研究院教授。博士(農学、九州大学)。
独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 農村工学研究所 農地整備部研究室長を経て、2010年より現職。著書に『地域環境水利学』(共著、朝倉書店、2017年)、『東アジア・東南アジアにおける農林水産業の持続的発展に資する生産基盤の環境保全と持続的開発』(共著、花書院、2015年)など。
西谷 斉(にしたに ひとし) 第5章
近畿大学法学部准教授。
2005年、中央大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学。近畿大学法学部講師を経て2009年より現職。著書に『法学─沖縄法律事情』(共著、沖縄新報社、2005年)、判例集に『国際法基本判例50(第2版)』(共著、三省堂、2014年)、論文に「国家の一方的行為と国際司法裁判所による法形成」浅田正彦・加藤信行・酒井啓亘 編『国際裁判と現代国際法の展開』(三省堂、2014年)など。
平松和昭(ひらまつ かずあき) 第7章
九州大学大学院農学研究院教授。農学博士(九州大学)。
1986年、九州大学大学院農学研究科博士後期課程修了。九州大学農学部助手、九州大学大学院農学研究院助教授を経て2005年より現職。著書に『東アジア・東南アジアにおける農林水産業の持続的発展に資する生産基盤の環境保全と持続的開発』(共著、花書院、2015年)など。
Abiar Rahman(ラフマン、アビアル) 第9章
Bangabandhu Sheikh Mujibur Rahman Agricultural University 教授。博士(理学、九州大学)。
Bangabandhu Sheikh Mujibur Rahman Agricultural University 講師を経て現職。
Lee Sangho(李 相浩、リ サンホ) 第8章
釜慶大学工学部教授。博士(工学、ソウル大学)。
韓国水資源公社勤務を経て1996年、釜慶大学工学部講師。同准教授を経て2007年より現職。