翻訳唱歌と国民形成 明治時代の小学校音楽教科書の研究

著者名
佐藤慶治
価格
定価 4,070円(税率10%時の消費税相当額を含む)
ISBN
978-4-7985-0272-4
仕様
A5判 上製 246頁 C3073
発行年
2019年12月
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内容紹介

本書は、明治期の小学校における唱歌教育を概観し、翻訳唱歌そのものについて、また、翻訳唱歌が当時の唱歌教育の形成ひいては国民形成において果たした役割を論じるものである。

「翻訳唱歌」とは「仰げば尊し」や「蛍の光」などに代表される、西洋の楽曲が日本語に翻訳され、学校教育に用いられた歌曲のことである。重要なこととして、翻訳唱歌の歌詞は原曲の歌詞内容から改変されたものが多く、必ずしも正確な訳出ではない。しかしたとえば、賛美歌歌詞におけるGod という単語が「天皇」に変えられ、大まかな歌詞のストーリーはそのままに「天皇」を讃える歌詞に改変されるなど、原曲歌詞が当時の日本の文脈に合わせて翻案された翻訳唱歌の歌詞も多い。このような翻訳唱歌の歌詞と原曲歌詞との比較を中心として、明治期の唱歌教育における「西洋文化の受容と改変」を分析することにより、その差異から明治政府が国民形成を行う上で必要としていた教育要素が導き出され、さらには明治期を通じた唱歌教育の発展を論じることができる。

本書ではこの視点を軸に、明治期の唱歌教育における翻訳唱歌を中心とした「西洋文化の受容と改変」について分析を行った。それにより翻訳唱歌の果たした役割を導き出し、さらには戦前の日本におけるナショナル・アイデンティティを創出するための教育政策、すなわち国民国家創出に向けた国家戦略を明らかにしている。

明治期における音楽教科書を作成したのは、当時の文部省の音楽取調掛という部局であった。明治期にはまず官製の『小学唱歌集』が編纂され、その後、民間製唱歌教科書も作られるようになった。本書では、こうした音楽教科書において、西洋の音楽文化が翻訳唱歌という日本の文脈に合わせた形へと「加工」され、「忠臣愛国」・「儒教的教訓」・「日本の美」・「ジェンダー役割」などが形成されていく過程を論じた。また、こうした翻訳唱歌を含む明治時代の唱歌の作成に携わった伊澤修二、大和田建樹、田村虎蔵ら音楽教育関係者の業績や彼らの教育観、音楽観についても触れる。

翻訳唱歌の形成により、それまで存在していなかった「皆で歌える教育的な唱歌」という新しい「国民文化」の「型」が誕生し、その「型」はやがて「故郷」や「富士山」のような『尋常小学唱歌』における日本のオリジナル楽曲へと引き継がれていくのである。

目次

第1章 本書の概要と課題
 
 第1節 本書の視点
 第2節 先行研究、問題意識と研究課題
 
第2章 国民形成と「翻訳唱歌」
 
 章の導入
 第1節 国民国家論  明治期の国民形成と翻訳  
 第2節 コントラファクトゥーアに見る「翻訳唱歌」の一源流
 章のまとめ
 
第3章  『小学唱歌集』  歌詞分析を中心に  
 
 章の導入
 第1節 唐澤富太郎の歌詞分類
 第2節 ルーサー・ホワイティング・メーソンの教科書との比較
 第3節  「翻訳唱歌」の分析  君が代、忠君愛国、教訓  
 第4節  「翻訳唱歌」の分析  自然  
 章のまとめ
 
第4章 民間製唱歌集における西洋文化の受容と改変
 
 章の導入
 第1節 大和田建樹の『明治唱歌』における「高尚の域」
 第2節 伊澤修二の『小学唱歌』におけるジェンダー観
 第3節 田村虎臧の『幼年唱歌』と『少年唱歌』  「教科統合」の受容  
 章のまとめ
 
第5章 明治期を通じた唱歌教育の発展と「翻訳唱歌」
 
 第1節  『尋常小学唱歌』における結実
 第2節 結びに代えて
 
あとがき
人物資料

主要参考文献
索引(人名/曲名/原曲名/歌集名)

著者紹介

佐藤慶治(さとう けいじ)
 
国立音楽大学音楽学部声楽専修卒業。熊本大学大学院教育学研究科音楽教育コース修士課程、
九州大学大学院比較社会文化学府博士後期課程修了。博士(比較社会文化、九州大学)。
精華女子短期大学幼児保育学科専任講師。音楽教育学、比較文化学、児童文化論を専攻。
現在、日本学術振興会科学研究費(若手研究)を取得し、「NHK『みんなのうた』を中心とした
日本児童音楽文化の変遷に関する歴史社会学的研究」というテーマで研究を行う。
 
主要論文
「近代日本の文化形成と翻訳」(総合文化学研究所『総合文化学論輯』第5号、pp.1-16、2016年)
「明治期の唱歌教育における翻訳唱歌と国民形成」(学位論文、九州大学、2017年)
「1960-70年代におけるNHK『みんなのうた』と西洋ポピュラー音楽」(日本比較文化学会
  『比較文化研究』 第133号、pp.103-115、2018年)
「小学校音楽科歌唱共通教材の意義に関する考察──学習指導要領との関連性から──」
  (総合文化学研究所『総合文化学論輯』第10号、pp.1-12、2019年)など
 
著書
『楽譜が読めない先生のための音楽指導の教科書』(共著、明治図書出版、2019年)

学術図書刊行助成

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