内容紹介
日本の近代化を支えた石炭産業。地下深くの坑道で体験した恐怖や不条理をキャンパスにぶつけた炭鉱夫がいた。生まれ育った故郷の炭鉱町の転変が創作の原風景となった美術家もいた。
本書は、北海道、常磐、宇部、筑豊、三池の主要産炭地の盛衰の歴史の中で、彼らが展開した美術活動を読み解くものである。また炭鉱の職場サークルが従業員の芸術文化活動に対して担った役割や、地域のサークル活動との関係を明らかにすることで、産炭地における文化的土壌の形成過程が解明される。
今日、炭鉱遺産は近代化産業遺産としても注目を集めており、炭鉱の記憶や産炭地の歴史に基づくアートプロジェクトも各地で展開されている。海外を含む産炭地の事例を紹介し、地域や美術史に新しい創造性をもたらすアートプロジェクトの可能性が示される。産炭地としての歴史を踏まえた美術表現が地域に対する誇りをよみがえらせ、衰退した地域の創造的な再生につながるのである。
なお本書においては著者自身も産炭地出身の美術家であり、炭鉱や石炭に関連する作品や美術活動を日本国内のみならず海外でも発表している。それらは美術館で展示されるにとどまらず、まちや学校、商店街や炭鉱遺産といった旧産炭地そのものをフィールドとしたり、市民や子どもたちを対象としたりしたものもある。そうした著者の美術活動に対する市民や専門家からの反響や評価を検証する。さらに、実際に炭鉱で働いていた美術家や、炭鉱をテーマとした美術活動の関係者へのインタビューなどから、近代産業としての炭鉱と美術の関係性が、理論と実践の両面から明らかにされる。
〈本書で取り上げた人物・事例・芸術活動ほか〉
山本作兵衛「炭坑記録画」/サークル村/野見山暁治/九州派/吉田利次/うたごえ運動/文化サークル活動/三池争議/嘉穂劇場/炭鉱住宅/三川坑炭塵爆発/宇部ビエンナーレ/川俣正「コールマイン」田川/安田侃「アルテピアッツァ美唄」/’文化’資源としての〈炭鉱〉展/炭鉱の記憶推進事業団/アントニー・ゴームリー「エンジェル・オブ・ザ・ノース」/近代化遺産/現代美術/アートプロジェクト/創造都市論