内容紹介
本書は,九州の古代・中世(6―16世紀)における絵画,彫刻,金工等の美術についての資料を確定し,美術編年史の基本をつくることを目的としている。対象とする年代は古代・中世であって,具体的には,仏教公伝(538)からキリスト教伝来(1549)までの美術史料がとりあつかわれる。仏教美術および神道美術が美術制作の根幹をなし,美術が公的で社会性をになった時代である。
これらの美術史料は,今のこる作品と歴史文献の参照とにもとづいて確定されたものである。銘文は,20世紀におけるいわゆる文化財調査をふくめた美術史研究により解読されたものが中心で,江戸時代後期(18,19世紀)の銘文もふくんでいる。歴史文献の参照は,20世紀の地方誌研究により公刊された文書記録を中心に,とくに近年の市町村史なども参考にしている。
以上のような考えにもとづき,本書は約1,300の史料を編年的に収録している。九州美術史の研究にとって不可欠な,はじめての基本史料集である。ひとつには美術編年史の基本となり,ふたつには美術の複合性,宗教的・文化的諸要素が複合し,中国・朝鮮および畿内美術の受容と九州美術の固有性とが複合することの認識の基本となろう。本書は,新しい美術史研究の方法を考え,深い美術体験の途を開くためにつくられている。
このような内容をさらに深めるために,参考文献と索引を付している。参考文献は,網羅的で 20世紀における美術研究を回顧してそれに感謝し,21世紀の研究に資するために,索引は作者・人名,作品,所蔵者・所在地を一覧してたたえ,分化した研究に資するために編まれている。