朝鮮前期の国家と仏教 僧尼管理の変遷を中心に

著者名
押川信久
価格
定価 6,600円(税率10%時の消費税相当額を含む)
ISBN
978-4-7985-0333-2
仕様
A5判 上製 342頁 C3022
発行年
2022年6月
その他
第13回 九州大学出版会・学術図書刊行助成 対象作
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内容紹介

従来、朝鮮王朝政府は、建国以来、朱子学を国家の根本思想とする「崇儒政策」を実施する一方で、高麗時代に隆盛した護国仏教を排斥・抑圧する「斥仏政策」「抑仏政策」を推進したとされてきた。ところが、従来の研究は、新国家の形成理念である朱子学と個人の信仰である仏教が朝鮮社会で共存していた状況を考慮せず、「崇儒」と「斥仏」「抑仏」を安易に結びつけていた。また、「斥仏政策」「抑仏政策」の概念が生み出された背景についても、関心が乏しかった。

他方、近年、韓国の学界を中心に、近代以来の研究史を展望した上で、通説であった「斥仏政策」「抑仏政策」の概念を史実に即して検証する傾向が現れている。しかし、「斥仏政策」「抑仏政策」にかわる新たな通念を生み出すには至っていない。

そこで、本書では、15~16世紀における王朝政府の仏教政策の展開を実証的に検討した。その結果、王朝政府は、15~16世紀を通じて、僧尼を国家体制の枠内に収め、国家による土木事業の遂行や王室主催の仏事の開設に活用しようと模索していたのであり、決して「斥仏政策」「抑仏政策」という、仏教界に敵対的な政策を推進していたのではなかったことが明らかとなった。

本書の視点と成果は、日本はもちろん、韓国をはじめとする海外の学界でも、朝鮮時代仏教政策史研究に対して新たな刺激を与え、学術的議論を促すことが期待できよう。また、15~16世紀における日本と朝鮮の交流では、高麗版大蔵経や仏教絵画など、多くの文物が朝鮮から日本に伝来したが、その伝来の経緯については、従来、日本側の視点から議論されることが多く、朝鮮側の視点からの指摘は充分でなかった。本書は、これらの文物が朝鮮を離れた背景を王朝政府内部の動向から理解する上で、ひとつの糸口を与えるものともなるだろう。

目次

 凡 例
 
序 章
 
 はじめに
 一 日本・植民地朝鮮における朝鮮前期仏教政策史研究
  (一) 研究の黎明
  (二) 高橋亨の研究
  (三) 日本における1945年以後の研究
 二 韓国における朝鮮前期仏教政策史研究
  (一) 李相佰・韓㳓劤の研究
  (二) 李相佰・韓㳓劤以後の研究
  (三) 近年の研究
 三 本書の構成
 
第一章 朝鮮王朝建国当初における僧徒の動員と管理
 
 はじめに
 一 僧徒政策整備の背景  高麗時代の国家・社会と僧徒の動向  
  (一) 高麗時代の国家・社会と僧徒
  (二) 度牒発給の開始
 二 朝鮮王朝建国当初における僧徒の動員
  (一) 宮闕造営と僧徒の動員
  (二) 僧徒の動員の特徴
 三 朝鮮王朝建国当初の僧徒管理
  (一) 度牒発給規定の整備
  (二) 動員された僧徒に対する度牒の発給
 おわりに
 
第二章 『経国大典』度牒発給規定成立の経緯とその意義
      世宗代~成宗代における僧徒政策の推移  
 
 はじめに
 一 僧籍の作成
 二 僧人号牌法の施行
 三 公私賤への度牒の発給
 四 『経国大典』度牒発給規定の制定
 おわりに
 
第三章 成宗代における度僧法存廃論議の展開
 
 はじめに
 一 度僧法存廃論議の開始
  (一)「禁僧節目」の制定  度牒の発給による僧徒管理の方針の再確認  
  (二) 成宗23年(1492)10月の司憲府上啓
 二 仁粋大妃・仁恵大妃の慈旨下教
 三 「節目」の制定  度僧法存廃論議の結末  
 おわりに
 
第四章 『経国大典』度僧条削除の経緯  燕山君代・中宗代における僧徒政策の推移  
 
 はじめに
 一 燕山君の仏教・僧徒に対する基本姿勢
 二 燕山君代における度牒発給の再開
 三 甲子士禍以降の僧徒政策
 四 『経国大典』度僧条の削除
  (一) 削除案の提起
  (二) 削除の決定
 おわりに
 
第五章 『経国大典』度僧条削除後における僧徒の行状をめぐる論議
 
 はじめに
 一 金湜等の逃亡事件への僧徒の関与をめぐる論議
 二 仏事開催の是非をめぐる論議
 三 僧徒の紛擾事件をめぐる論議
 おわりに
 
第六章 中宗代後半における僧徒への号牌の発給
 
 はじめに
 一 号牌発給手続の整備
 二 土木事業への僧徒の動員
  (一) 犬項における堤防の築造
  (二) 安興梁蟻項における漕渠の掘削
 三 土木事業の頓挫と僧徒の処遇
 おわりに
 
第七章 明宗代における僧徒政策の再開と廃止
 
 はじめに
 一 両宗の復立
 二 明宗7年(1552)における度牒発給の再開
 三 僧科の再開
 四 両宗・僧科の廃止
 おわりに
 
第八章 明宗代における地方寺院の組織運営  安峯寺の事例を中心に  
 
 はじめに
 一 両宗の復立・僧科の再開と地方の寺院
 二 安峯寺の組織運営
 三 王朝政府の仏教政策と安峯寺の僧の動向
  (一) 僧科の再開と安峯寺の僧
  (二) 安峯寺の僧の維那叙任
 おわりに
 
第九章 15世紀・16世紀初頭の朝鮮における尼僧管理の推移
 
 はじめに
 一 朝鮮王朝建国当初における尼僧の行状
  (一) 朝鮮王朝建国当初の浄業院
  (二) 世宗代における浄業院の廃止
 二 世祖代における尼僧管理体制の構築
 三 成宗代の尼僧管理をめぐる論議
  (一) 士族婦女剃髪の禁止
  (二) 都城内外の尼院の整理
 四 燕山君代における尼僧の還俗強制と尼院の撤去
 おわりに
 
終 章
 
 年表
 15・16世紀朝鮮王室系図
 参考文献
 初出一覧
 あとがき
 요약(朝鮮語要旨)
 事項索引
 人名索引

著者紹介

押川信久(おしかわ のぶひさ)
 
北海道大学文学部卒業。九州大学大学院人文科学府博士後期課程単位修得退学。博士(文学、九州大学)。
九州大学大学院人文科学研究院助教を経て、現在、九州大学文学部非常勤講師・久留米大学非常勤講師・
下関市立大学非常勤講師・福岡大学人文学部非常勤講師。
 
〔主要業績〕
「15世紀朝鮮の日本通交における大蔵経の回賜とその意味  世祖代の大蔵経印出事業の再検討  
  (北島万次・孫承喆・橋本雄・村井章介編著『日朝交流と相克の歴史』校倉書房、2009年)
「16世紀の日朝通交における大蔵経求請交渉の推移」(『福岡大学人文論叢』第45巻第3号、2013年)
「倭乱における義兵僧の処遇」(『年報朝鮮学』第20号、2017年)など。

その他

 訂正(2022年6月30日初版発行分)
 
175頁【図】キャプション2行目
 誤:1915年側図
 正:1915年測図
 
198頁6行目(史料B 1行目)
 誤:命じて復立禅教両宗を復立せしむ。
 正:命じて禅教両宗を復立せしむ。
学術図書刊行助成

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