18世紀ニューイングランド漁業のグローカル・ヒストリー
タラ商人の書簡から読み解く環大西洋世界・地域社会・独立戦争への道

著者名
藤井太郎
価格
定価 5,500円(税率10%時の消費税相当額を含む)
ISBN
978-4-7985-0388-2
仕様
A5判 上製 176頁 C3022
発行年
2025年6月
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内容紹介

「このように、タラ漁業とそれに付随した干しダラ輸出業は、当時のニューイングランド経済最大の富の源となっていたのである」(本文序章より抜粋)

本書は、植民地期ニューイングランドの基幹産業だったタラ漁業と干しダラ輸出業に着目し、同植民地の経済発展及びイギリス本国からの経済的自立化、そして独立戦争へ至るプロセスについて考察したものである。その際本書では、当該期のニューイングランドを代表するタラ漁業・タラ交易都市マーブルヘッド(マサチューセッツ植民地)がケーススタディとして取り上げられ、同都市のタラ商人が遺した書簡史料を手がかりとしながら、環大西洋史とマーブルヘッド地域社会史が織りなしたグローカル・ヒストリーが描き出される。

本書は全3部8章から構成されている。マーブルヘッド漁業の経済発展プロセスが検討される第1部では、第1章で18世紀以前に同漁業が、ロンドン商人・ボストン商人の統括する「17世紀型」サプライチェーンの下請け・孫請け部門として機能していたことが示される。第2章では、18世紀前半に、マーブルヘッド漁業が自前の船舶を用いながら、環大西洋世界の3地域  タラ漁場としてのニューファンドランド島沖の海域、タラ市場としての西インド諸島(特に仏領)及びイベリア半島  と直接結びつくことで、飛躍的な経済発展を遂げるプロセスが検討される。第3章では、「17世紀型」サプライチェーンに従属していたボストン商人が、生存戦略として仏領との密貿易網を開拓していくプロセスが検討される。

第2部では、マーブルヘッド漁業の経済的自立化が取り上げられる。まず第4章では、18世紀後半における実際のタラ商人の書簡史料と牧師の自伝を用いて、イギリス本国からの経済的自立化という観点から、マーブルヘッドの経済発展プロセスが再検討される。第5章では、経済発展及び自立化のプロセスに伴い、マーブルヘッドの地域社会内部において新旧両商人層の転換が生じていたこと、そして同コミュニティを繁栄へと導いた新興商人たちは、地域社会の公益を重視し、積極的に地域社会の問題解決に取り組んだことが検討される。

第3部では、18世紀半ばまでに構築されたニューイングランド漁業の環大西洋交易網が、1760年代以降、本国の帝国政策と衝突することで、同漁業が、アメリカ独立戦争へと傾倒していくプロセスが検討される。第6章では、仏領カリブ産の糖蜜輸入を巡って、英領カリブの砂糖利害との対立が、また第7章では、ニューファンドランド島の資源とイベリア市場を巡って、本国の漁業利害との対立が描かれる。そしてその調整にあたった本国議会は、常にニューイングランド漁業に犠牲を強いる政策  それぞれ砂糖法(1764年)及び規制法(1775年)  を打ち出し、同漁業の反発を招くこととなった。さらに第8章では、イギリス海軍の強制徴募に関する帝国政策運営においても、本国議会がニューイングランドの漁業コミュニティを犠牲にし、その結果、同地域の漁業利害、そしてさらに同植民地がアメリカ独立戦争へと傾倒していったことが検討される。

目次

 はじめに
 

 
 第1節 タラ漁業の重要性
 第2節 「グローカル」的視角からのアプローチ  環大西洋史と地域社会史との接合  
 第3節 本書の課題と構成
 
   第1部 18世紀ニューイングランド漁業の環大西洋的な経済発展プロセス
 
第1章 下請け・孫請け部門としてのマーブルヘッド漁業
 
第2章 18世紀前半におけるマーブルヘッド漁業の経済発展プロセス
 
 第1節 ニューファンドランド沖への漁場の拡大
 第2節 西インド市場
 第3節 仏領西インド諸島との密貿易
 第4節 イベリア市場
 
第3章 17世紀型サプライチェーン崩壊とボストン商人による密貿易の開拓
 
 第1節 ボストン商人の生存戦略  1720年代のキャンソを事例として  
 第2節 ボストン商人による密貿易ネットワークの開拓
 
   第2部 18世紀ニューイングランド漁業によるイギリス本国からの経済的自立化
 
第4章 マーブルヘッド漁業の経済的自立化
 
 第1節 ジョン・バーナード牧師の功績
 第2節 ゲリー家の書簡史料から見えてくるマーブルヘッド漁業の経済的自立化
 
第5章 地域社会のリーダーとして  マーブルヘッド・ジェントリの形成  
 
 第1節 新旧商人エリート層の入れ替わり
 第2節 マーブルヘッド・ジェントリの形成  地域社会への積極的関与と富の還元  
 
   第3部 ニューイングランド漁業の環大西洋交易網とイギリス重商主義体制との衝突
 
第6章 砂糖法の成立  西インド諸島派との対立  
 
 第1節 西インド諸島派の不満
 第2節 砂糖法をめぐる論争
 
第7章 規制法の成立  ニューファンドランド島をめぐる対立  
 
 第1節 イングランド西部地方商人による季節性漁業とニューファンドランド漁業
 第2節 イングランド西部地方商人の不満とイギリス海軍による取締り
 第3節 規制法の成立とその影響
 
第8章 イギリス海軍への反発  イギリス海軍の強制徴募を中心に  
 
 第1節 18世紀前半におけるニューイングランド漁業とイギリス海軍
 第2節 18世紀半ば以降における強制徴募関連の法体制の変化と反強制徴募
 第3節 1775年におけるアメリカ貿易法の撤廃
 
終章
 
 参考文献一覧
 あとがき
 索引

著者紹介

藤井太郎(ふじい たろう)
 
熊本県八代市出身。熊本大学大学院社会文化科学教育部にて博士(文学)の学位を取得。
熊本大学(2024年度及び2025年度)及び熊本学園大学(2024年度)にて非常勤講師と
して勤務。専門は、初期アメリカ史、環大西洋史、漁業史、海事史、社会経済史。
 
主要論文
「18世紀ニューイングランド漁業の環大西洋的発展と経済的自立化──マサチューセッツ
  植民地マーブルヘッドを事例として──」『西洋史学論集』第60号、2023年。

学術図書刊行助成

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