内容紹介
イングランドの演劇は中世以来聖史劇や奇跡劇そして道徳劇を中心としていたが,16世紀後半に世俗的な大衆演劇が発達し,シェイクスピアの登場でひとつの絶頂期を迎えた。演劇が隆昌をきわめようとしていたちょうどその頃,宮廷祝典局長を検閲者とする演劇の統制制度が整った。以後演劇は1642年の劇場閉鎖まで,反逆罪や煽動罪を規定する布令に加えて,祝典局長の検閲による統制を受けた。本書は,その統制のありようを歴史的・実証的に跡づける。歴史家や演劇史家は英国ルネサンス期の演劇統制を禁圧的と把握する傾向が強いが,本書はこれに疑義を呈し,祝典局長と当時の役者・劇作家たちが興隆する演劇産業において共生関係にあったことを指摘し,祝典局長の検閲が実は演劇を保護し助勢したと論じる。本書は,英国ルネサンス期の演劇統制に関する本邦初の包括的研究書である。