内容紹介
演劇の近代は16世紀ロンドンで幕を開けた。従来アマチュアや旅役者一座が担ってきた猥雑で豊穣な演劇文化の伝統は、常設の公衆劇場を拠点に活動する商業劇団へと継承された。新しい時代の劇作家や俳優たちが直面した課題は、「消費者としての観客」という、より多様で、無定形で、御しがたく、得体の知れない集団を相手に、ウケる芝居を継続的に生み出していくという、これまでにない難題だった。共同体的(コミュナル)な演劇から商業的(コマーシャル)な演劇へ。記号的な熱演からより自然な写実的演技へ。イギリス演劇はかつてない革新の局面へと突入していく。
本書は、近代初期イギリス演劇がその黄金時代に到達するまでの展開を、本邦初訳を含む四作品で辿る。伝説的なブリテン王による王国分割が引き起こす悲劇『ゴーボダック』(ノートンとサックヴィル)、シェイクスピア劇でも言及される往年の大人気作『キャンバイシーズ ペルシア王カンビュセスの生涯』(トマス・プレストン)、アーサー王伝説に取材した法学院劇の代表作『アーサー王の悲運』(トマス・ヒューズ)、旧約聖書に登場するダビデ王を扱う『ダビデとバテシバ』(ジョージ・ピール)を清新な日本語訳で収録。各作品をより深く理解するための作品解説、より楽しく鑑賞するための詳細な訳注を付す。