要請としてのカント倫理学

著者名
細川亮一
価格
定価 6,380円(税率10%時の消費税相当額を含む)
ISBN
978-4-7985-0070-6
仕様
A5判 上製 376頁 C3012
発行年
2012年3月
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内容紹介

 カント倫理学の核心は「あなたの意志の格率が,つねに同時に普遍的立法の原理として妥当しうるように行為せよ」という根本法則のうちにある。この根本法則は「純粋理性の唯一の事実」として与えられているが,その「与えられている」は「与える」ことを遡示している。このことは「私はかく意志し,かく命令する(sic volo, sic jubeo)」の意志から理解されねばならない。この意志は根本法則を与える意志(sic volo)である。そして立法する意志は命令する(sic jubeo)が,この実践的命題としての命法は要請である。つまり立法する意志は根本法則を要請として意志する。
 本書は,純粋実践理性の根本法則を理性の事実から意志へ,さらに実践的命題としての要請へと問い深めることによって,カント倫理学を意志の要請として捉える。そしてカント倫理学を批判哲学のうちに正しく位置づけるために,コペルニクス的転回と超越論的哲学の理念を解明する。要請としてのカント倫理学は最後に要請としての哲学という理念に至る。

目次

序 要請としてのカント倫理学
 
第一章 事実
  第一節 理性の事実
    一 「理性の事実」の用例とその核心
    二 経験的事実でなく、純粋理性の唯一の事実である
    三 理性の事実の候補
    四 根本法則へ至る論理の飛躍
    五 即時の死刑という脅しのもとで
    六 たとえファラリスが偽証せよと命じても
    七 なすべきが故になしうる
    八 「なしうる」の条件としての自由
    九 選択意志の自由
  第二節 定言命法の法式
    一 定言命法の諸法式とその関係
    二 三つの原理
    三 三つの法式
    四 自律の法式
    五 Recht (法則、権利、正義)との類比
    六 『実践理性批判』における根本法則と範型
  第三節 道徳法則の演繹と自由の演繹
    一 自由と道徳法則は相互に遡示しあう
    二 人倫の形而上学から純粋実践理性の批判への移行
    三 『基礎づけ』における演繹
    四 理解不可能性を理解する
    五 無条件的に実践的なものの我々の認識はどこから始まるのか
    六 道徳法則の演繹の不可能性と意志
    七 実践的要請として必然的である
 
第二章 意志
  第四節 私はかく意志し、かく命令する
    一 ユヴェナリスの言葉
    二 数学における sic volo, sic jubeo
    三 Sollen-Wollen
    四 根源的に立法する(sic volo, sic jubeo)
    五 意志から法則が生じ、選択意志から格率が生じる
    六 法則によって命令する者は立法者である
  第五節 普遍的法則になることを意志しうる
    一 格率の道徳的判定の基準としての「意志しうる」
    二 格率が普遍的法則になる
    三 意志の自己矛盾
    四 目的論?
    五 一つの自然を創造する意志
    六 自殺
    七 偽りの約束
    八 才能の開発
    九 他人を助ける
    十 volo, Wollen との一致
  第六節 意志主義  ルソーからカントへ
    一 感情(欲求能力の第一の内的根拠)
    二 ルソーとは誰か
    三 『エミール』のルソー?
    四 良心と自然法?
    五 一般意志のルソー
    六 定言命法の法式へ
    七 自律思想の継承
    八 法の倫理学
    九 道徳法則が善の概念を規定し可能にする
 
第三章 要請
  第七節 純粋実践理性の根本法則は要請である
    一 何故幾何学の要請が語られたのか
    二 理論的命題としての要請と実践的命題としての要請
    三 ユークリッド幾何学の要請
    四 証明できない確実な実践的命題としての要請
    五 定言命法は要請である
    六 純粋実践理性の根本法則は根本要請である
    七 数学的な論述形式
    八 カント倫理学のアルケー
    九 理性の事実は意志の要請として定立される
  第八節 最高善の促進は要請である
    一 義務→最高善の可能性の要請→最高善の可能性の条件の要請
    二 道徳法則→最高善の促進(義務)?
    三 最高善の可能性の要請
    四 自由の要請と神と不死性の要請
    五 実践理性は道徳法則を超えて自己を拡張する
    六 実践理性は自己を拡張する
    七 「最高善を促進せよ」は要請である
  第九節 要請論としての法論
    一 法論における三つの要請
    二 要請としての法の法則と道徳法則
    三 演繹は要請に基づく
    四 実践理性はアプリオリな要請によって自己を拡張する
    五 公法の要請と自然法
    六 『純粋理性批判』から『人倫の形而上学』法論へ  Recht を介して
    七 Was ist Recht?
 
第四章 哲学
  第十節 コペルニクス的転回
    一 コペルニクスがモデル?
    二 二等辺三角形
    三 実験的方法
    四 経験的な原理に基づいているかぎりでの自然科学
    五 法則を自然から汲み取るのでなく、自然に指定する
    六 コペルニクス的転回のモデルは数学
    七 自ら作りうるもののみを洞察する
    八 ホッブズとヴィーコ、そしてカント
    九 現象の創造者
  第十一節 超越論的哲学
    一 nicht sowohl…sondern と überhaupt
    二 純粋理性の批判・超越論的哲学・形而上学
    三 独断のまどろみからの目覚め
    四 現象学から『純粋理性批判』へ
    五 形而上学の本質的に異なった二部門
    六 認識の起源に関しては超越論的、客観に関しては超越的
    七 存在論から超越論的哲学へ
    八 対象一般についての我々のアプリオリな概念に関わる認識
    九 対象についての認識様式に一般に関わる認識
  第十二節 要請としての哲学
    一 形而上学の第一部門と第二部門
    二 形而上学  自ら作る(selbst machen)
    三 『純粋理性批判』第二版から『実践理性批判』へ
    四 要請としてのカント倫理学
    五 立法者としての人間
    六 経験の可能性の条件と要請
    七 要請としてのカント哲学
 
  あとがき
 
  人名索引
 
  事項索引

著者紹介

細川亮一(ほそかわ りょういち)
1947年東京都に生まれる。1970年東京大学文学部卒業。1975年東京大学博士課程修了。
1984~1986年フンボルト奨学生としてドイツ留学。1995~1996年アメリカ合衆国留学。文学博士(東京大学)。
現在,九州大学大学院人文科学研究院教授。
著書:『意味・真理・場所』(創文社,1992年),『ハイデガー哲学の射程』(創文社,2000年),
『ハイデガー入門』(ちくま新書,2001年),『形而上学者ウィトゲンシュタイン』(筑摩書房,2002年),
『ヘーゲル現象学の理念』(創文社,2002年),『アインシュタイン物理学と形而上学』(創文社,2004年),
純化の思想家ルソー』(九州大学出版会,2007年),
道化師ツァラトゥストラの黙示録』(九州大学出版会,2010年)
訳書:『真理の本質について』(ハイデッガー全集 第34 巻,創文社,1995年)
編書:『幸福の薬を飲みますか』(ナカニシヤ出版,1996年)

学術図書刊行助成

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