内容紹介
パトチカは,フッサールやハイデガーに学んだチェコ20世紀を代表する哲学者として知られるが,激動のチェコ20世紀に三度大学を追われ,最後は官憲の取り調べのなかで死去した。
彼は現象学や歴史哲学の研究で知られるが,彼の祖国が生んだ17世紀の教育思想家コメニウスの研究にも多くの業績を残した。コメニウスを近代教育の先駆者として位置づける啓蒙主義的な解釈も歴史的な断絶を強調する実証主義的な解釈も批判する彼の方法論は,思想史研究のひとつの範型といえる。同時に彼は,過去の思想が現在に語りかけてくることの意味を考えた。これは,そのアクチュアリティーが問われている人文科学への問題提起と見なすことができよう。
パトチカは,コメニウスを17世紀知識革命における,デカルトに代表される自然科学,ホッブズに代表される国家哲学,ヴィーコに代表される歴史学の成立と並んで,世界を教育の相から見た第4の潮流を代表する哲学者として位置づけた。
他方,パトチカ自身の現象学や哲学的素養をもとにコメニウスのテクスト解釈から引き出された,転回,贈与,光のアナロジー,開けた魂といったキーワードは,現代の教育やコミュニケーションを考える際の手引きを与えてくれる。
パトチカのコメニウス論は1940年代から1970年代に至るが,本書は代表的な論文・著作8編から構成。教育学的知識がなくても読めるように解説と訳注を充実させ,人名・事項索引も収録。