内容紹介
哲学的人間学の主題は,人間の「人格」である。観念論哲学によれば,人格は理性的な定立作用のうちにあり,実存哲学によれば想像力的な投企作用のうちにある。これら二つの主体性は,互いに異質的であり,さしあたり対立的関係のうちにあるが,その具体的かつ暫定的(不完全)な統一が人間の身体である。定立作用は「外側から見た身体」(ケルパー)を拠点としており,投企作用は「内側から見た身体」(ライプ)を拠点としている。しかし単独な人間身体(ライプケルパー)は,決して両者の完全な統一ではなく,いわゆる人間的矛盾をはらんでいる。ケルパーは法則的必然をふくむすべての三人称的次元(彼,彼女,それ)の原点であり,ライプは創造的自由をふくむすべての一人称的次元(我=モナド)の原点であるが,これら二つの原点を十全的に統一し,真の「人格」を実現するためには,両者を媒介する二人称的次元(なんじ)が必要である。「汝」は対向する身体をつらぬいて,両者の「間」に生起することによって,二つの主体性を共現在的に統一し,独立かつ共同的な「人格」を実現する。