幕末明治初期の洋式産業施設とグラバー商会
19世紀の国際社会における技術移転とイギリス商人をめぐる建築史的考察

著者名
水田 丞
価格
定価 5,940円(税率10%時の消費税相当額を含む)
ISBN
978-4-7985-0205-2
仕様
B5判 上製 238頁 C3052
発行年
2017年3月
その他
2019年 日本建築学会著作賞受賞
平成30年(第31回) 日本産業技術史学会賞受賞
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内容紹介

幕末から明治初期に建設された産業施設は近代日本の曙をつげる遺産であり、「明治日本の産業革命遺産」として高く評価されている。では、このような産業施設は19世紀の中後期、イギリスが世界各地へ進出していた国際社会においてどのように評価できるのか。

本書は、幕末明治初期の洋式産業施設における技術の移転について、イギリス商人グラバー商会の関与という視点から建築学的な考察をおこなったものである。研究の対象となる産業施設は、幕末の長崎居留地の茶再製場、奄美大島製糖工場、鹿児島紡績所、小菅修船場、大阪造幣寮の5つである。本書ではこれらの施設について、内外の史料を博捜しながら工場建設の経緯を明らかにし、グラバー商会の関与を考察、また工場の建築形式を復元的に考究した。そして同時代の国外の産業施設と比較することで、幕末明治初期日本の洋式産業施設の国際的な性能を検討した。以上から、洋式産業施設の建設と技術の移転に対するイギリス商人グラバー商会の関与の意図について考察している。最後に結論において総括し、グラバー商会の洋式産業施設建設に対する関与の仕方や意図の変遷、グラバー商会が関与した技術移転の構造、そして19世紀の国際社会における幕末明治初期の技術移転の位置づけについて考察した。

目次

 凡 例
 
序 章
 
第1節 本書の課題
第2節 既往の研究
第3節 研究の方法・資料と本書の構成
 
第1章 外国人居留地の茶再製場
 
はじめに
第1節 長崎居留地における茶再製場の建設と操業の経緯
1.操業の開始からイギリスへの出荷計画の失敗
2.再製場の設備拡充とJM商会の支援
3.内外の市場動向と再製場の操業
4.機械式茶再製の試み
第2節 茶再製場の建築と再製装置
1.外国人居留地の茶再製場
2.諸外国の事例との比較
3.グラバー商会の茶再製場の建築と再製装置
 
第2章 奄美大島製糖工場
 
はじめに
第1節 設立の経緯と顚末
1.慶応年間以前における薩摩藩製糖略史
2.奄美大島製糖工場建設の経緯
3.T. J. ウォートルス関与の意義
4.奄美大島製糖工場の設立・経営とグラバー商会
第2節 奄美大島製糖工場の復元的考察
1.『白糖の製造』が伝える奄美大島製糖工場の実態
2.19世紀の技術英書等にみる製糖工場
3.比較考察と復元
4.労働者数の比較
5.奄美大島白糖製造工場の技術的性能と役割
第3節 4工場の立地環境と遺物の分析
1.4工場の立地と役割
2.建築関連遺物の検討
第4節 在来式の製糖技術からみた洋式製糖工場の考察
1.慶応年間以前における奄美大島の製糖技術
2.明治以降の奄美大島の製糖技術
3.奄美大島在来製糖業における慶応年間の洋式製糖工場の役割
 
第3章 鹿児島紡績所
 
はじめに
第1節 沿 革
1.鹿児島紡績所建設前後における薩摩藩の紡績業
2.鹿児島紡績所の建設経緯とイギリス資本および技術者の関与
3.世界的綿花不足と鹿児島紡績所の創業
第2節 建設関連資料と関連遺物による鹿児島紡績所建物の復元
1.鹿児島紡績所の青焼き図面
2.鹿児島紡績所建物の外観
3.先行研究における復元配置図
4.紡績工場建物の断面構成
第3節 鹿児島紡績所と19世紀後期の紡績工場の建築形式
1.19世紀後半における紡績工場建築の形式
2.19世紀後半における鹿児島紡績所設計案の建築形式
3.類型化より見た日本国内の紡績工場と鹿児島紡績所の意義
 
第4章 長崎小菅修船場
 
はじめに
第1節 操業当初期の施設配置と設備の仕様について
1.建設の経緯
2.初期の配置計画と敷地造成の方法
3.各設備の当初仕様
第2節 日英の技術比較からみた日本のパテントスリップと小菅修船場の性能
1.19世紀のイギリスにおけるパテントスリップの発明と技術的変遷
2.明治時代の日本に建設されたパテントスリップ
3.19世紀後期の各国におけるパテントスリップ
 
第5章 大阪造幣寮
 
はじめに
第1節 大阪造幣寮創業時の外国人技術者の雇用とグラバー商会
1.イギリス資本の関与からみたウォートルスの雇用
2.造幣寮におけるウォートルスの地位
第2節 香港造幣局との比較を通じた大阪造幣寮鋳造場の性能
1.大阪造幣寮鋳造場の平面計画
2.香港造幣局の建築史的概要
3.香港造幣局と大阪造幣寮鋳造場の平面計画
 
結 論
 
第1節 グラバー商会が関与した洋式産業施設の性格とその推移
第2節 幕末明治初期の技術移転とイギリス商人
1.技術移転をめぐるグラバー商会と日本人間での構造
2.洋式技術を構成するモノ 輸入品と現地調達品による混成的な造営 
3.洋式技術を構成するヒト 外国人技術者の種類と分掌 
4.明治初期の洋式技術の移入における外国資本の関与
第3節 19世紀国際社会における幕末明治初期の洋式産業施設
1.洋式産業施設の造営をめぐる技術移転の国際的な拡がり
2.19世紀の国際社会における幕末明治初期の洋式産業施設
 
初出一覧
あとがき
人名索引
事項索引

著者紹介

水田 丞(みずた すすむ)
2001年 鹿児島大学工学部建築学科卒業
2006年 九州大学大学院人間環境学府博士後期課程修了,博士(工学)
日本学術振興会特別研究員PD(京都工芸繊維大学),英国ロンドン大学客員研究員を経て
現 在 広島大学大学院工学研究院助教
 
主要論文
「ジャーディン・マセソン商会横浜店の商館再建計画 慶応大火による被災から新商館入居
  までの経緯を中心とした考察 」(『日本建築学会計画系論文集』第654号,2010年)
‘Patent slipways of Bakumatsu and Meiji Japan: 1861-1900s’, Construction History:
  International Journal of the Construction History Society, Vol. 30, No.1, 2015.

その他

[お詫びと訂正]
水田丞『幕末明治初期の洋式産業施設とグラバー商会―19世紀の国際社会における技術移転とイギリス商人をめぐる建築史的考察―』(2017年3月31日初版発行分)に誤りがございましたので、正誤表の通り訂正いたします。謹んでお詫び申し上げます。
学術図書刊行助成

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