内容紹介
・悪定義問題とは
数理計画では,計画を担当する人の認識により解くべき問題の意味合いが異なっていたり(悪定義問題),問題解決のアルゴリズムの構築が難しい(悪構造問題)場合があり,さらには総合的判断により制約条件が変化する(フレキシブル制約)場合もあり得る。これらを広義の悪定義問題(Ill-defined problem)として捉えており,本書では悪定義問題の解決のための種々の数理手法について説明する。
・悪定義問題を対象とする数理計画
建設土木工学,都市環境工学,人工環境工学,船舶海洋工学などの基盤的工学分野では,新規計画の中でも類似形態の計画と設計に対する咀嚼と実現化の能力は優れているのに対し,全く新しい構想に対するプランニング能力は必ずしも十分には発揮し得ていないが,プランニングそのものが典型的な悪定義問題である。さらに,近年関心が高まっている環境問題は利害や既得権なども絡んだ典型的な悪定義問題であり,関与する人の意識を高め,その推進を説得するだけの材料を必要とする。
本書では悪定義問題の解決を図る手段となる種々の数理手法について適応例を通して学び,それをもとに問題の対応力を増すことを期待している。なお,ここで用いる数理手法の適用例は数理手法の応用だけでなく,解くべき問題の生起する理由・背景や得られた解の解釈の仕方についても参考のために述べている。
・内容の構成
本書は2編より構成されており,(1)数理計画の性格と数理モデルの構築,(2)悪定義問題の解決のための数理手法について説明している。
I. 数理計画の構造性
新規システムや機能計画に対する良い設計解を得るためには,解くべき問題の性格・構造を的確に捉えて,それに合った数理モデルを構築し,問題に適合した数理手法を活用することが不可欠である。ここでは,新規システム計画や機能計画などのための思考過程,問題の性格・構造の分類およびそれに適した数理モデルについて説明する。
II.悪定義問題へのアプローチ
種々の計画・設計要因の組合せからなる悪定義問題では,最終的には人による総合的な判断により解決・決定することになるが,このために的確な判断を支援するための材料を提供することが求められる。悪定義問題へのアプローチのためには,その問題の性格に適合した数理モデルを構築できるかが解決の成否を決めることになる。ここでは,悪定義問題に関わる数理モデルを分析・解析モデル,予測モデル,最適モデル,評価モデルおよび信頼性モデルに分けて説明する。