地域のレジリエンスを高める環境科学
内容紹介
私たちは、地球環境に負荷をかけ続けた結果として、気候変動等の環境変化による問題に直面しています。これらの問題は、昨今の異常気象や自然災害にみられる通り、突如として、私たちの生活や社会に深刻な影響をもたらします。先の状況に対応するためには、「逆境に強くある」社会をつくることが求められているといえます。
今、世界では、「逆境に強くある」社会に必要な資質として、レジリエンス(Resilience)が注目されています。レジリエンスとは、「弾力性(強靱さ)」「復元(回復)力」「適応性」等と定義される概念です。レジリエンスは、当初、自然科学系の専門家が自然環境の大きな変化を捉える時の考え方として展開されてきました。しかし近年では、「『逆境に強くある』社会を設計・デザインするためには何が必要なのか」との問いのもと、人間社会を主な対象とする社会科学系の専門家によるレジリエンスの概念を活用した研究も実施されています。
本書は、「逆境に強くある」社会をつくるために必要な見方や知識について、近年の調査研究の成果を踏まえて、3つの切り口から論じています。第1は、問題を引き起こす主要な環境変化を理解するために必要な基礎的知識です。本書では、主として、気候変動、大気汚染、地下水汚染、火山変動を取り上げます。第2は、問題の解決に寄与する技術の現状と課題です。本書では、主要な技術の一つである、地熱発電、リサイクルバイオ技術、都市緑地の整備技法、自然災害に関わる情報提供手法を論じます。そして第3は、問題の解決の方法を模索する社会の対応です。本書で主に取り上げられるのは、地方公共団体による資源管理に関わる取組と自然災害からの復興における地域社会の対応です。そして最終的には、本書の内容にもとづき、「逆境に強くある」、すなわちレジリエントな地域社会のあり方を考究します。
目次
口絵
はじめに
第1章 環境と環境問題のとらえ方
第1節 環境とは
第2節 環境を考える上で重要な視点
主体と環境の関係/空間と時間の広がり
第3節 環境問題の推移
第4節 プラネタリーバウンダリーからみた環境
第5節 レジリエントな社会の構築に向けて
第2章 気候変動のメカニズムと対策
第1節 地球大気と気候変動
第2節 地球大気の物理過程と気候
気候とは/太陽放射と地球放射/地球のエネルギー収支/気温と降水量、風
第3節 気候変動のメカニズム
温室効果気体の影響/エアロゾル粒子と雲の影響
第4節 気候変動のこれまで・これからとその対策
IPCCとは/これまでの気候/これからの気候/気候変動の緩和策と適応策
第3章 大気汚染のメカニズムと対策
第1節 地球大気と大気汚染
第2節 地球大気の組成と大気化学過程
地球大気の組成/化学物質の放出・吸収/化学物質の反応および変質/
化学物質の湿性および乾性沈着
第3節 大気汚染のメカニズムと影響
窒素酸化物・硫黄酸化物と酸性降下物/光化学オキシダント/エアロゾル粒子
第4節 大気汚染物質の計測と緩和・適応
大型の測定器によるモニタリング/小型計測器による大気環境や個人曝露量の
詳細な把握/大気汚染の緩和と適応に向けて
第5節 大気環境問題の解決に向けて
第4章 地下水汚染対策とその回復の特徴
第1節 水循環における地下水の役割
第2節 地下水汚染の実態
地下水汚染の種類/身近な地下水汚染である硝酸性窒素/硝酸性窒素汚染の
実態と対策/地下水汚染対策の難しさ
第3節 島原湧水群における地下水汚染からの回復
噴火前の貴重な先行研究/硝酸性窒素汚染の視覚化/噴火前後の島原湧水群の
水質変化/自然災害と湧水の水質変化
第4節 地下水からみるレジリエントな社会環境
第5章 雲仙火山との共生を考える
第1節 活火山と雲仙
第2節 1663年と1792年の噴火の概要
第3節 1990〜1995年噴火
噴火の経緯/火砕流と土石流による災害
第4節 雲仙火山のマグマシステムと地熱資源
島原半島の温泉/1990〜1995年噴火から得られた知見/雲仙火山の地熱資源
第5節 日本の地熱発電の歴史と課題
第6節 島原半島ジオパーク
第7節 火山との共生
第6章 循環型社会の構築に貢献するリサイクルバイオ技術
第1節 レジリエントな循環型社会の構築に重要な7つのR
第2節 日本における廃棄物の排出状況とリサイクルの現状
第3節 廃棄バイオマスを原料として有用化学品を生産するリサイクルバイオ技術の
開発研究
第7章 都市と緑地のこれまでとこれから
第1節 緑地とは
第2節 レジリエントな社会の形成に寄与する都市緑地
第3節 都市緑地の形成と果たしてきた役割
都市公園/街路樹
第4節 レジリエントな社会形成と「負」の生態系サービス
第5節 緑地を活用したレジリエントな社会構築に向けて
第8章 豪雨や台風による災害リスクと避難行動
第1節 気候変動リスクの緩和策としての防災・減災
第2節 豪雨・台風の近年の発生傾向
第3節 水害・土砂災害・高潮災害の近年の発生傾向
第4節 ハザードマップ 浸水想定区域と土砂災害警戒区域
災害種別のハザードマップの特徴/実際の災害ハザードマップと確認時の留意点
第5節 防災河川・気象情報及び避難情報と避難行動
防災河川・気象情報/避難情報/避難行動/警戒レベルと避難行動/住民の実際の
避難行動(令和元年台風第19号)
第9章 地方公共団体に期待される役割
第1節 地域レジリエンスの向上に関する地方公共団体の役割
第2節 地方公共団体とその権能
地方公共団体とは/地方公共団体の条例制定権
第3節 地熱資源の利用と地域的な合意の重要性
地熱資源利用の重要性/地熱発電の現状/地域的な合意の重要性
第4節 雲仙小浜温泉に関する事例 小浜温泉バイナリー発電所の実証実験
雲仙市の概要と特徴/小浜温泉における地熱発電の構想と失敗/雲仙市の発足と
地域の取り組み主体の発足/小浜温泉バイナリー発電所の設置と稼働/小浜温泉
バイナリー発電所における実証実験の成果
第5節 温泉熱利用と温泉資源の保護の両立に向けた取り組み
温泉熱利用による地熱発電の普及と、温泉資源の保護の重要性/雲仙市条例の
制定/雲仙市条例の制定の経緯/雲仙市条例の概要/雲仙市条例の特徴と限界/
雲仙市条例の適用の状況
第6節 地方公共団体に期待される主動性と先導性
第10章 災害に向き合う社会環境とは
第1節 災間の社会に生きること
第2節 「復興」を目指すとはどういうことか
第3節 「時間」とその「変化」がもたらすもの
第4節 レジリエントな「復興」のゆくえ
第5節 災間のフィールドワークの可能性
第11章 レジリエントな地域社会の構築に向けて
第1節 地域のレジリエンスを高める緩和策と適応策
緩和策/適応策
第2節 対策が求められる問題の特徴と対応
多面性と関連性/不確実性/不可視性/社会の変動性
第3節 レジリエントな社会に向けての心がけ
索引
著者紹介
編著者
渡辺貴史(わたなべ たかし)第1章・第7章・第11章
長崎大学総合生産科学域(環境科学系)教授
黒田 暁(くろだ さとる)第10章・第11章
長崎大学総合生産科学域(環境科学系)准教授
著 者
馬越孝道(うまこし こうどう)第5章
長崎大学総合生産科学域(環境科学系)教授
利部 慎(かがぶ まこと)第4章
長崎大学総合生産科学域(環境科学系)准教授
河本和明(かわもと かずあき)第2章・第3章
長崎大学総合生産科学域(環境科学系)教授
菊池英弘(きくち ひでひろ)第9章
長崎大学総合生産科学域(環境科学系)教授
中山智喜(なかやま ともき)第2章・第3章
長崎大学総合生産科学域(環境科学系)准教授
仲山英樹(なかやま ひでき)第6章
長崎大学総合生産科学域(環境科学系)教授
吉田 護(よしだ まもる)第8章
長崎大学総合生産科学域(環境科学系)准教授