内容紹介
本著はエネルギー分散を伴う固体の動力学と関連し、動摩擦、衝撃及び高速破壊の基礎メカニズムが議論されている。本著は4章からなり、第1章では各章の導入説明、第2章では動摩擦の実験とモデル解析、第3章では斜め衝撃挙動に及ぼす動摩擦の実験とモデル解析、第4章では脆性材料を伝播する高速亀裂の実験解析がなされている。内容は以下のとおりである。
摩擦は日常的に観察される物理現象の一つであり、その研究は古くからなされている。静的条件下での摩擦力 F は垂直荷重 N に比例し、摩擦係数 μ を用いて、F = μN で記述されている。この法則は静的条件下では詳細に調べられているものの、動的条件下での適応性は明らかにされていないのが現状である。第2章では、潤滑及び乾燥斜面での滑り実験及びモデル解析を行い、動摩擦力 Fd が接触面積 A と滑り速度 v に大きく依存すること、すなわち動摩擦力が表面係数 λ を用いて Fd = λAv で記述できることが提唱されている。さらに提唱式がより複雑な摩擦現象であるスティック・スリップや掘り起し現象にも適応できることが示されている。
第3章では、斜め衝撃現象に及ぼす摩擦効果が実験及びモデル解析により考察されている。実験では、ゴルフボールを剛体壁に高速衝突させた際に生じるスピン量、また透明樹脂との衝撃からボールの接触面積 A の変化挙動が実測されている。スピン量の時間変化は、表面係数 η’ と接触面積 A の時間微分 dA/dt を用いて、F = μN + μη’dA/dt で記述できることが示されている。またモデル解析により、この経験式と第2章での提唱式 Fd = λAv は等価となることが示唆されている。斜め衝撃を受けるゴルフボールは接触面との摩擦により、せん断振動を発生する。この振動現象を提唱式 Fd = λAv から導かれた弾性球モデルで表現できることが示されている。
高速破壊はエネルギー分散を伴う固体動力学に関連した現象の一つであり、脆性材料での亀裂は高速で進展し、加速・減速に伴い、亀裂の分岐・停止を生じる。この現象は、動摩擦におけるステック・スリップと定性的に等価である。第4章では、動的亀裂進展がコーステック法と超高速カメラの応用により実測されている。そして亀裂先端の応力場に及ぼす亀裂速度と加速度効果が解析されており、応力場が速度に依存するばかりでなく、加速度にも大きく影響されることが示されている。高速破壊におけるエネルギー分散を調べるため、破壊面の形成、さらに亀裂の分岐現象が詳細に調べられている。これらの実験解析により、亀裂先端応力場が亀裂速度と加速度の関数として記述できるなど破壊力学において重要なメカニズムが提唱されている。