内容紹介
不幸な歴史的経緯で開始された日本の朝鮮半島統治が1945年に終焉した後,韓国人による日本民俗研究は,韓国民俗学会の強いナショナリズム体質と自民族文化優越主義が災いして,韓国内においてタブー視されてきた。伊藤亜人教授(東京大学)・嶋陸奥彦教授(東北大学)らの日本人研究者が韓国内でのフィールド・ワークを通して数多くの高論を発表してきたが,この数年前まで本書の著者である故金宅圭教授をはじめとする少数の研究者のみが関心を持つに過ぎず,韓国民族学会の大半は,日本民俗研究に特別な関心を向けなかった。1945年以降,すでに50年経過したのにも拘わらず,長期間滞日しながら実施された金宅圭教授による本格的な民俗学的フィールド調査が,最初の記念碑的業績であることは,如実にこの韓国民俗学会の風潮を物語っているだろう。
学界の重鎮であった金宅圭教授が,国際化が叫ばれる今日的状況において,その閉鎖的な体質の打破を強力に主張し,日韓相互理解の観点に立ち,率先して公表した研究成果が,本書である。
日本語古典文をも自由自在に読解できる流暢な日本語運用能力を駆使して,金宅圭教授の問題関心は多様な分野に向かっている。古代から現在へと通事的な時間軸に沿った民俗文化の変容,そして食文化から親族組織にわたる共時的な幅広い民俗文化の理解など,本書で展開された論点は実に興味深い。個々の論文は,宮城県,石川県,そして九州各地で実施されたフィールド・ワークの豊かな結実である。
それ故に,本書は,韓国人のための日本民俗の紹介書であると同時に,日本民俗文化に対する韓国人研究者が映し出した鏡でもある。本書の刊行を契機として日本と韓国の両国における相互理解が進み,21世紀に向けて新しい両国関係が構築されることを強く期待したい。