書評
沖縄タイムス 2012年6月30日 読書欄より
現状と課題 調査基に考察
本書は文科省科学研究費を受けた「沖縄の社会構造と生活世界」の研究成果報告書である。琉球大学の社会学専攻スタッフが2006年に実施した「沖縄総合社会調査」の結果を基調に,各人の専門分野(社会学・社会福祉学・マスコミ学)から関連データとの比較と考証を重ねた「沖縄の現状と課題」についての考察である。
構成は12章,著者は10人に及ぶ。2章では安藤が,結婚の必要性・理想とする子ども数・老親の扶養等に関する意識は沖縄が全国より高数値であり,家族価値観は沖縄が高いことを明らかにしている。同様の意識調査は家族社会学では定番であるが,沖縄においては初めてであり高く評価されてよい。3世代同居支持率の沖縄の低さについては結論を差し控えているが,沖縄の同世帯構成比率は47都道府県でも低位であり,むしろ首肯されうるものであろう。随所に沖縄・日本の家族研究の成果が織り込まれており,筆者の思考の広さと深さがうかがえる。
鈴木による3章では,開発や発展に関する県民意識は楽観的であり,開発主体も県民や県内企業であるべきだとの声が強いことがうかがえる。これをどのように捉えるかは意見の分かれるところである。筆者はこれまでのタイ・アジア研究に基づきながら「沖縄は本土との格差にとらわれずに主体性を持った内発的発展を打ち出すべき」だと結論づけている。グローバルな資本制経済の中で沖縄の主体性をどのように構築していくか。古くて新しく,不可避的な課題である。
4章では,外国人に対する意識は女性と若年層においてより肯定的であり,在日米軍基地の集中する沖縄的特徴として指摘されている。また付き合いの場所では,「飲食店」は極めて低く(4.6%),日常的な生活空間に広がっていることが析出されている。社会調査は時として俗説に訂正を迫るものでもある。
7章では,沖縄の<長寿の謎>と<社会関係資本>との連関について,地域組織・社会参加活動,民俗性,帰属意識,経済社会指標等の視点から客観的に照査され,沖縄社会の既存資源の豊かさと今後の政策展開の必要性が説かれている。同論文の先行研究・調査データの活用は重厚である。
本書には,詳細な「沖縄総合調査2006・調査票(集計結果)」が付加されている。今後の沖縄社会研究にとって貴重なデータアーカイブとなるであろう。
評者:金城一雄(沖縄大学教授)