島嶼地域の新たな展望 自然・文化・社会の融合体としての島々
内容紹介
沖縄や太平洋島嶼地域に代表される小島嶼地域は,大国のスタンダードによるグローバリゼーションの中で常に世界の「周縁」に置かれてきた。しかし今,島々の個性と多様性が再評価され始めており,これらを通して島嶼地域の存在感を示すことによって「中心」へと躍り出ることのできる時代へと移行しつつある。本書では,沖縄や太平洋島嶼地域が抱える諸問題を解決し,未来の展望を切り拓くための具体的な方策を提言すべく,様々な分野の専門家が多角的にアプローチすることによって「新しい島嶼学」の構築を試みる。
琉球大学国際沖縄研究所による研究プロジェクト「新しい島嶼学の創造 日本と東アジア・オセアニア圏を結ぶ基点としての琉球弧」の前半の成果をまとめた一冊。
目次
「国際沖縄研究所ライブラリ」刊行にあたって
まえがき
序章 「新しい」島嶼学 過去を振り返り,未来を見据える
第1節 はじめに
第2節 夢以外に何があるのか
第3節 島嶼の利益を前面に
第4節 数多くの取り組み
第5節 島嶼学とは何か?
第6節 「新しい島嶼学」とは?
第7節 島の中心性
第8節 過去はプロローグである
第1部 環境・文化・社会の融合体としての島嶼
第1章 島嶼社会の可能性と生物・文化多様性
第1節 はじめに
第2節 島の「豊かさ」と「貧しさ」
第3節 多様性とはなにか
第4節 日本列島のなかの離島
第5節 島嶼の未来
第6節 本当の「豊かさ」と離島
第2章 ブーゲンヴィル島(パプアニューギニア)の言語文化多様性
第1節 はじめに
第2節 ブーゲンヴィル:西欧世界との接触から今日まで
第3節 「村の地域語学校」(Viles Tokples Skuls)
第4節 内戦後の学校教育の状況
第5節 ブーゲンヴィルの言語文化多様性の未来に向けて
第6節 沖縄とブーゲンヴィル
第3章 島おこしと観光 「観光地」と「生活空間」の両立は可能か
第1節 「島」という夢
第2節 注目を浴びる島:屋久島
第3節 自然保護を重視している島々
第4節 瀬戸内海の島(1):観光空間の創出
第5節 瀬戸内海の島(2):交流する島
第6節 結論
第4章 ハワイにおける再生可能エネルギーの政策展開
第1節 はじめに
第2節 ハワイにおけるエネルギー事情―その特徴と課題
第3節 ハワイにおけるクリーンエネルギー普及の目標
第4節 再生可能エネルギー補助の経済学
第5節 クリーンエネルギー目標達成に向けた政策
第6節 今後のエネルギー・島嶼研究に関する示唆
第5章 太平洋島嶼の漁村における海洋管理責任と女性の役割 原点からの再考
第1節 はじめに
第2節 研究の背景
第3節 太平洋島嶼が抱える漁業の主要な問題
第4節 乱獲と資源管理
第5節 管理行動に対する倫理的な留意事項
第6節 海洋教育と学習環境
第7節 太平洋の島々の子どもたちの学習環境
第8節 変化をもたらす主体としての女性たち
第9節 ジェンダー問題の解決にむけて
第10節 結論
第6章 太平洋島嶼における地域主体型の漁業管理とその意義
第1節 はじめに
第2節 沿岸漁業の現状
第3節 持続可能性に対する脅威
第4節 地域主体型資源管理の合理性
第5節 地域主体型の漁業管理
第6節 取り組むべき課題
第7節 進むべき道
第7章 パラオにおける自然共生型地域計画
第1節 はじめに
第2節 地域分析の方法
第3節 自然と共生する暮らしの原型
第4節 近代の発展の光と影
第5節 自然共生型地域計画の展開
第6節 おわりに
第2部 琉球・沖縄からの発信
第8章 戦後沖縄における食事・栄養と食環境の変遷
第1節 はじめに
第2節 栄養転換とは?
第3節 沖縄における栄養転換を考える意義とは?
第4節 米国統治下における沖縄の栄養転換:脂肪を中心に
第5節 日本復帰後の沖縄の栄養転換:食塩と外食環境の変遷
第6節 今後の展望:「チャンプルースタディ」による試み
第7節 おわりに
第9章 沖縄におけるソーシャル・キャピタルと健康
第1節 ソーシャル・キャピタルと健康
第2節 沖縄のコミュニティにみるソーシャル・キャピタルの関連資源
第3節 沖縄における「健康の社会的決定要因」(social determinants of health)
第10章 離島における教育の情報化と広域連携の効果
第1節 はじめに
第2節 我が国の情報化と教育の課題
第3節 地域情報化の新しい方向性
第4節 地域とクラウドサービス
第5節 地域ICT利活用における課題
第6節 教育におけるクラウド活用
第7節 沖縄県宮古島市の教育情報化
第8節 おわりに
第11章 島嶼地域における環境と社会インフラ
第1節 環境と社会インフラの意味
第2節 島嶼地域の社会インフラ
第3節 島嶼地域に期待される環境像
第12章 消滅危機言語の教育可能性を考える 多様な琉球諸語は継承できるか
第1節 はじめに
第2節 琉球諸語の位置づけ
第3節 琉球諸語は多様で個性的な方言からなる
第4節 少数者の言語の変容と消滅の危機
第5節 消えゆく伝統文化と方言語彙
第6節 画一化
第7節 マイノリティの中のマイノリティ
第8節 方言教育の可能性
第9節 「方言のことを教える」
第10節 多様な方言の教育は可能か
第11節 おわりに
第13章 奄美・沖縄のサンゴ礁漁撈文化 漁場知識を中心に
第1節 島々を縁どるサンゴ礁の重要性
第2節 有形・無形のサンゴ礁漁撈文化
第3節 漁場知識としてのサンゴ礁地名
第4節 サンゴ礁漁撈文化の継承にむけて
第14章 沖縄から島嶼地域の海岸防災を考える
第1節 サンゴ礁と海岸地形が織りなす白砂の浜
第2節 サンゴ礁は天然の防波堤
第3節 サンゴ礁と津波
第4節 沖縄における海岸防災の知見を他の島嶼地域の海岸防災に活かす
第15章 離島の地理的特性が地方団体の経営効率性に与える影響
第1節 はじめに
第2節 総合的な効率性の測定と離島の有無
第3節 離島の地理的特性が技術効率性に与える影響
第4節 むすび
第16章 沖縄および太平洋島嶼の水利用と水源管理
第1節 はじめに
第2節 沖縄島の水資源と水利用
第3節 宮古島の水と地下ダム
第4節 太平洋島嶼地域の水資源と水利用の事例
第5節 おわりに―島嶼地域の水問題の解決に向けて
終章 自然・文化・社会の融合体としての島嶼地域と「新しい島嶼学」の展望
第1節 はじめに
第2節 島嶼における劣位性と優位性
第3節 沖縄の自然環境保全と適正活用
第4節 島嶼におけるキャリング・キャパシティの捉え方
第5節 各島の特性を踏まえた島嶼社会構築の必要性
第6節 むすび―「新しい島嶼学」の構築と人材育成の必要性
執筆者・訳者紹介
索引
著者紹介
【執筆者】(執筆順,*は編著者)
ゴッドフリー・バルダッチーノ(Godfrey Baldacchino) 序章
現職:マルタ大学教養学部社会学科教授,国際島嶼学会副会長(Professor of Sociology, Faculty of Arts, University of Malta; Vice-President, International Small Islands Studies Association)
専門:島嶼及び小島嶼国・地域に関する多角的研究
主要業績:
Baldacchino, G. (2013) The Political Economy of Divided Islands: Unified Geographies, Multiple Polities, Palgrave Macmillan.
Baldacchino, G. and E. Hepburn (2012) A different appetite for sovereignty? Independence movements in subnational island jurisdictions. Commonwealth & Comparative Politics, Vol. 50, No. 4.
湯本貴和(ゆもと たかかず) 第1章
現職:京都大学霊長類研究所社会生態研究部門生態保全分野教授
専門:生態学
主要業績:
Yumoto, T. and Y. Uesedo (2011) A future for tradition: cultural preservation and transmission on Taketomi Island, Okinawa, Japan. In: Baldacchino, G. and D. Niles eds. Island Futures, Springer.
湯本貴和(2011)「島の未来を考える」『科学』,81(8).
大西正幸(おおにし まさゆき) 第2章
現職:総合地球環境学研究所客員教授
専門:言語学,文学,言語教育
主要業績:
Onishi, M. (2012) A Grammar of Motuna. Lincom Europa.
Osada, T. and M. Onishi eds (2012) Language Atlas of South Asia, Harvard University.
フンク・カロリン(Carolin Funck) 第3章
現職:広島大学大学院総合科学研究科総合科学専攻社会文明研究講座准教授
専門:観光地理学
主要業績:
Funck, C. and M. Cooper (2013) Japanese Tourism: Spaces, Places and Structures, Berghahn.
フンク・カロリン(2009)「ブルーツーリズムをめぐるコンフリクト」神田孝治 編『観光の空間―視点とアプローチ』ナカニシヤ出版.
樽井 礼(たるい のり)第4章
現職:ハワイ大学マノア校経済学部准教授(Associate Professor, Department of Economics, University of Hawai‘i at Manoa)
専門:環境資源経済学,応用ミクロ経済学,応用ゲーム理論
主要業績:
Tarui, N., C. F. Mason, S. Polasky and G. M. Ellis (2008) Cooperation in the Commons with Unobservable Actions. Journal of Environmental Economics and Management, 55(1).
Tarui, N. (2007) Inequality and Outside Options in Common-Property Resource Use. Journal of Development Economics, 83(1).
ヴィナ・ラム−ビデシ(Vina Ram-Bidesi)第5章
現職:南太平洋大学科学技術環境学部海洋学科上級講師(Senior Lecturer, School of Marine Studies, Faculty of Science, Technology and Environment, University of the South Pacific)
専門:漁業管理,天然資源政策分析,海洋部門におけるジェンダー問題,沿岸と海洋の統合管理
主要業績:
Ram-Bidesi, V., P. N. Lal and N. Conner (2011) Economics of Coastal Zone Management in the Pacific, Gland, Switzerland: IUCN and Suva, Fiji: IUCN.
Ram-Bidesi, V. (2010) Employment Opportunities for Women in the Tuna Industry in Small Islands: Is it really restrictive? A case study of Fiji Islands. South Pacific Studies, 31(1).
ジョエリ・ヴェイタヤキ(Joeli Veitayaki) 第6章
現職:南太平洋大学科学技術環境学部海洋学科准教授(Associate Professor, School of Marine Studies, Faculty of Science, Technology and Environment, University of the South Pacific)
専門:人間生態学,人間による海洋資源の利用
主要業績:
Veitayaki, J., A. D. R. Nakoro, T. Sigarua and N. Bulai (2011) On Cultural Factors and Marine managed Areas in Fiji. In Liston, J., G. Clark and D. Alexander eds. Pacific Island Heritage: Archaeology, identity and community, ANU E Press, Canberra.
Veitayaki, J. (2011) Case Study 17 Integrated Coastal Management in Vanuaso Tikina, Gau Island, Fiji. In Wilkinson, C. and J. Brodie eds. Catchment Management and Coral Reef Conservation: a practical guide for coastal Resource managers to reduce damage from catchment areas based on case studies, Global Coral Reef Monitoring Network and Reef and Rainforest Research Centre, Townsville.
飯田晶子(いいだ あきこ)第7章
現職:東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻助教
専門:環境デザイン
主要業績:
飯田晶子(2012)「熱帯島嶼パラオ共和国における流域圏を基礎とするランドスケープ・プランニングに関する研究」東京大学,博士(工学)学位論文.
Liston, J. and A. Iida (in press, 2014) Legacies on the Landscape. In Balick, M. J., A. Hillmann Kitalong and K. Herrera eds. Ethnobotany of Palau: Plants, People, and Island Culture, The New York Botanical Garden/Belau National Museum.
等々力英美(とどりき ひでみ)第8章
現職:琉球大学大学院医学研究科准教授
専門:公衆衛生学,疫学
主要業績:
等々力英美(2013)「戦後沖縄の体重転換と社会経済的要因―経済・身体活動・食事・栄養転換と関連して―」,イチロー・カワチ,等々力英美 編著『ソーシャルキャピタルと地域の力―沖縄から考える健康と長寿』日本評論社.
Todoriki, H. (2010) Nutrition transition and nourishment policy in postwar Okinawa: Influence of US administration. In Laurinkari, J. ed. in cooperation with Veli-Pekka Isomäki, Health, Wellness and Social Policy: Essays in honour of Guy Bäckman, Europäischer Hochschulverlag, GmbH & Co.
白井こころ(しらい こころ)第9章
現職:琉球大学法文学部人間科学科准教授
専門:公衆衛生学・社会疫学
主要業績:
高尾総司・近藤克則・白井こころ・近藤尚己 監訳(2013)『ソーシャル・キャピタルと健康政策:地域で活用するために』日本評論社. [Kawachi, I., S. Takao and S. V. Subramanian (2013) Global perspective on Social Capital and Health, Springer.]
Shirai, K., H. Iso, T. Ohira, A. Ikeda, H. Noda, K. Honjo, M. Inoue and S. Tsugane (2009) Perceived Level of Life Enjoyment and Risks of Cardiovascular Disease Incidence and Mortality The Japan Public Health Center-Based Study. Circulation, 120(11).
三友仁志(みとも ひとし)第10章
現職:早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授
専門:情報通信(ICT)経済・政策・アプリケーション分析,交通を含めた社会インフラ政策
主要業績:
Mitomo, H., and T. Otsuka (2012) Rich Information on Environmental Issues and the Poor Reflections on Consumers’ Green Actions: A Behavioral Economic Approach. Telematics and Informatics, 29.
三友仁志(2008)「条件不利地域における情報格差と是正の方向性」『自治フォーラム』Vol.581.
堤純一郎(つつみ じゅんいちろう)第11章
現職:琉球大学工学部環境建設工学科教授
専門:建築環境・設備,環境影響評価・環境政策,環境技術・環境材料
主要業績:
浦野良美・中村洋 編著(1996)『建築環境工学』森北出版.
日本建築学会 編 (2002)『建築と都市の緑化計画』彰国社.
かりまたしげひさ(狩俣 繁久)* 第12章
現職:琉球大学法文学部国際言語文化学科教授
専門:琉球語学
主要業績:
かりまたしげひさ(2009)「琉球語音韻変化の研究」言語学研究会 編『ことばの科学』第12号.
かりまたしげひさ(2011)「琉球方言の焦点化助辞と文の通達的なタイプ」『日本語の研究』第7巻4号.
渡久地 健(とぐち けん)* 第13章
現職:琉球大学法文学部人間科学科准教授
専門:地理学
主要業績:
早石周平・渡久地健 編(2010)『海と山の恵み―沖縄島のくらし 2』ボーダーインク.
渡久地健・目崎茂和(2013)「正保琉球国絵図に描写された奄美・沖縄のサンゴ礁と港」International Journal of Okinawan Studies, Vol.3, no.2.
仲座栄三(なかざ えいぞう)第14章
現職:琉球大学工学部環境建設工学科教授
専門:海岸工学,水工学,防災工学
主要業績:
久保田徹・仲座栄三・稲垣賢人・R. Savau・M. Rahman・入部綱清(2013)「海岸丘と海岸林の複合作用が津波に及ぼす影響に関する研究」『土木学会論文集 B2(海岸工学)』Vol.69.
仲座栄三(2011)『相対性原理に拠る相対性理論』ボーダーインク.
獺口浩一(おそぐち こういち)第15章
現職:琉球大学法文学部総合社会システム学科准教授
専門:財政学,公共経済学
主要業績:
獺口浩一(2013)「非裁量要因を考慮した自治体病院の経営効率性」『琉球大学経済研究』第86号.
獺口浩一(2010)「地方税徴収効率の数量分析―地方団体間比較可能なベンチマーク的手法の検討と生産性評価―」『琉球大学経済研究』第80号.
廣瀬 孝(ひろせ たかし)第16章
現職:琉球大学法文学部人間科学科准教授
専門:自然地理学,地形学,水文学,水文地形学
主要業績:
廣瀬孝(2013)「沖縄島の水文環境―水資源・水利用と水収支」『琉球大学法文学部人間科学科紀要別冊 地理歴史人類学論集』第4号.
廣瀬孝・寒川拓磨・青木久・松倉公憲・前門晃(2012)「沖縄の第四紀琉球石灰岩に分布する円錐カルストに関する研究」『沖縄地理』第12号.
藤田陽子(ふじた ようこ)* まえがき,終章
現職:琉球大学国際沖縄研究所教授
専門:環境経済学
主要業績:
藤田陽子(2011)「太平洋島嶼国における自然環境保全とその利用に関する現状と課題―パラオ共和国を事例として」前門晃・梅村哲夫・藤田陽子・廣瀬孝 編著『太平洋の島々に学ぶミクロネシアの環境・資源・開発』彩流社,第3章.
土屋誠・藤田陽子(2009)『サンゴ礁のちむやみ 生態系サービスは維持されるか』東海大学出版会.
【訳者】
池田知世(いけだ ともよ)第5章
国連平和大学平和教育学修士課程(Master of Arts in Peace Education, The United Nations man-dated University for Peace)
専門:平和教育
岩木幸太(いわき こうた)第6章
国連平和大学国際法と紛争解決学修士課程修了(Master of Arts in International Law and theSettlement of Disputes, The United Nations mandated University for Peace)
専門:国際法,保護する責任(Responsibility to Protect),難民支援