サービス論争の300年 欲求の視点に基づく一般理論の提案

著者名
高 晨曦
価格
定価 9,680円(税率10%時の消費税相当額を含む)
ISBN
978-4-7985-0360-8
仕様
A5判 上製 440頁 C3033
発行年
2023年10月
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内容紹介

「経済のサービス化」が世界経済を席巻するなか、サービスまたはサービス経済の特徴と性格をどう捉えるべきかを巡る「サービス論争」は未だ解決されていない。本書は、この長き論争で提起されているいくつかの重大な課題の解決に方法論的革新を提供することで、論争の決着を目指すものである。

3世紀も続く「サービス論争」は古典と現代の断絶に起因する。古典学説が与えた厳密なサービスの経済学的定義がなければ、サービス論は経済学の理論体系に取り組まれない。サービス経済の特徴を描く現代理論がなければ、サービス論は現実から離れる机上の空論になってしまう。しかし現在、サービスに関する古典学説と現代理論が完全に分断されている。課題の決着は古典と現代を統合し、サービス提供にかんする一般理論を構築することに求められる。

一方、「サービスとは何か」というミクロ問題と古典学説の課題、「経済のサービス化」というマクロ現象と現代理論の関心事はいずれも「サービス」への需要形成に対する説明を必要としている。したがって、本書は古典と現代、ミクロとマクロ、理論と現実を統合できる「欲求」視点の導入試みる。

古典学説の課題にたいして、古典と現代の断絶の起因である生産的労働と不生産的労働への古典学説の「二重の規定」を「欲求」視点で分類することで、①近代経済学が立脚する第一の定義は古典学説の時代背景への誤読から生まれたこと;②経済分析の有効な対象である第二の定義は「現代のサービス」とは根本的に違う「古典的サービス」に対応していることが明らかになり、サービス提供にかんする一般理論の構築は古典的サービスと現代の「サービス」との統合に具体化される。

古典的サービスと現代の「サービス」は全く異なる範疇だが、いずれも独自の方法で「欲求」視点と繋がり、前者は直接的欲求の充足に関与する労働であり、後者は社会的欲求に対応する労働である。したがって、古典的サービスと現代の「サービス」に対応する異なる「欲求体制」への分析を軸に、欲求体制の移行を説明することで両者を統合できる。統合の完成により、「経済のサービス化」への厳密な、科学的分析が可能になる。

「経済のサービス化」への科学的分析は、現代理論の弱点、すなわち「財―サービス」の二元論は科学的分析に相応しくない点を意識し、広く社会科学的な視点をまとめ、現代の「サービス」とさまざまな欲求との関係を明らかにして、欲求理論に取り込むことから始まり、欲求理論を在来の経済学体系に接続することで完成する。現代の「サービス」に対応する「必要な欲求の体系」の諸特徴を経済学的に規定することで、「サービス産業」への需要形成は欲求の経済学理論を通して説明され、経済学の「理論」は再びサービス経済の「現実」を射程に入れられる。

目次

第一章 理論と現実のミスマッチ
 
 はじめに
 第一節 「サービス」産業とサービス理論のミスマッチ
  問題の所在
  1. 「第三次産業」の合理性
   (1) 論争の起点・「収入の弾力性」理論の提出
   (2) 収入の弾力性理論への批判
   (3) 形式理論(素材論的立場)の延長線にある「第三次産業」論
  2. 「財 サービス」二元論の登場
   (1) 物質性と有形性の掛け違い(Mistaking tangibility for materiality)
   (2) 標準産業分類(SIC)
   (3) 「サービス」産業の物質的・非物質的性格
  3. 現代「サービス」の社会的性格(生産性と価値形成性)
   (1) 現代「サービス」の機能:広告・宣伝を中心に
   (2) 現代「サービス」への投資は生産的か
   (3) 現代「サービス」の価値形成・不形成性
  結び
 第二節 史的唯物論の射程・前資本主義社会に対する構造分析の可能性
  問題の所在
  1. 非資本主義社会の「下部構造」は経済的諸関係だろうか
  2. 「経済的下部構造」と「上部構造」の関係
  3. 前資本主義社会における史的唯物論の射程
   (1) 資本主義社会の自己認識の道具としての史的唯物論
   (2) 機能のヒエラルキーと制度のヒエラルキー
  結び
 第三節 欲求体制の歴史的理論
  1. 先行研究の到達点
   (1) アグネス・ヘラーの『マルクスの欲求理論』
   (2) 労働の体系と欲求の体系:杉原四郎
   (3) 労働者階級の欲望論:村串仁三郎
   (4) 神谷明,的場昭弘の議論
  2. 先行研究の限界と問題の所在
  3. マルクスの欲求体制の歴史的再編成
   (1) 経済的形態規定の外部にある自然的欲求
   (2) 欲求体制の歴史性と社会性:社会によってつくりだされる欲求の範疇
   (3) 直接的欲求と社会的欲求
  4. 最初の歴史的欲求としての直接的欲求
  5. 労働者の直接的欲求から必要な欲求へ
   (1) 資本のもとへの労働の形式的包摂・直接的欲求のための生産の崩壊
   (2) 社会的使用価値の生産
   (3) 労働者の必要:形式的包摂・実質的包摂
  6. 必要な欲求
  結び
   (1) 欲求の視点は古典と現代とをつなぐ架け橋になりうる
   (2) サービス提供の一般理論は必然的にサービス提供の歴史理論である
 
第二章 古典派経済学の課題
 
 はじめに
 第一節 スミスの生産的労働への二つの基準
  1. 生産的労働の規定に埋め込まれたサービス労働
  2. 生産的労働:第一の,本源的な基準
  3. 生産的労働:第二の,副次的な基準
 第二節 現物サービス:古典的サービスを「財 サービス」二分法から捉える誤り
 第三節 サービスの古典的規定:スミスの時代の社会経済的環境の変化
  1. サービス関係とサービスへの「形態的・歴史的」解釈
  2. 生産的労働への第二の基準の歴史的背景:スミス時代の労働の形態
 第四節 サービスの古典的規定:素材主義的解釈および資本主義的生産的労働の拡張
 まとめ
 
第三章 サービス提供の古典的形態:直接的欲求のための生産の解体
 
 はじめに
 第一節 負の因果性の打破
  1. 最初の障壁:蓄えの合理性と余剰の創出
  2. 第二の障壁:社会の階層化および剰余生産の強制
  3. 第三の障壁:社会的欲求およびその代理人の登場
 第二節 商人資本が媒介する社会的使用価値の生産
  1. 商人が果たす資本の本来の機能・問屋制
  2. 流通資本としての商人資本の特殊な機能
 第三節 直接的欲求を中心とする欲求体制の解体
  1. 高利貸資本の直接的欲求を中心とする欲求体制への侵食
  2. 土地の収奪・資本の本源的蓄積
   (1) 農地・共有地の略奪
   (2) 負の因果性:社会的自己防衛による抵抗
  3. 植民地における直接的欲求のための生産の破壊
 第四節 サービス関係の壊滅と生産的労働の形成
  1. 直接的欲求のための手工業生産
  2. 商人と職人の階級闘争:家内工業とプロト工業化の発展
  3. ツンフト合同
  4. 労働のサービス形態から労働の資本主義的形態へ:資本のもとへの労働の形式的包摂
  5. 農業労働の資本主義的生産労働への転換
 第五節 「現代サービス」の前提:資本主義的欲求体制の確立
  1. ファクトリーとマニュファクチャーにおける労働過程の相違
  2. 資本主義的欲求体制の形成:「必要な欲求」の範疇
  3. 新産業にとっての「有利な歴史的諸関係」
  4. 資本主義的欲求体制における支配的欲求
 
第四章 近代社会科学の課題
 
 第一節 サービス労働論争
  1.「サービス」の前史:Dienstとしてのサービス
   (1) サービス一般
   (2) 生産サービス
   (3) サービス(Dienst)と効用(Services)
   (4) サービス(Dienst)と欲求
  2. 各国におけるサービス労働論争とその評価
 第二節 「サービス」産業の経済学説史
  1.「第三次産業」の合理性論争
   (1) 「否定の形」で定義される「第三次産業」
   (2) 資本と雇用の流動に基づく収入の弾力性理論
   (3) 経済進歩と「第三次産業」
   (4) コメント:素材主義的解釈の延長線にある「第三次産業」論
  2. 流通・消費サービスと欲求の操作
   (1) バトンは社会学者の手に渡された
   (2) 生産と欲求・「サービス」の機能
   (3) 消費の「論理」から消費の「機能」へ
   (4) 消費者選択の他律性
   (5) 欲求を統制するメカニズム(計画化体制・抑圧的な全体)
  3. コスト病と公的「サービス」
   (1) 「選択」されない行政による公的「サービス」
   (2) コスト病
   (3) 公害
   (4) 解決の展望はどこに
  4. 労働者の分化・変革の抑制
   (1) 「テクノストラクチャー」と技術者専門家「階級」
   (2) 「サービス」産業の発展段階論(ベル)
   (3) 欲求の疎外と労働者の分化
  5. 批判理論からの反省
 
第五章 資本主義的欲求体制に組み込まれている資本による「サービス」提供
 
 第一節 サービスの古典理論から現代理論へ
 第二節 資本主義的欲求体制における「サービス」提供:社会的再生産の全契機の資本の必要な欲求への従属
  1. 必要な欲求の「法則」性
  2. 資本主義的経営の成立条件:新しい部門の進出への資本の躊躇
  3. 不生産的諸部門における資本主義的経営の成立:「経済のサービス化」と階級間の力関係の推移
   (1) 消費過程における資本主義的経営の社会的優位を保障する社会的条件の形成:
       労働者階級に有利な歴史的諸条件と階級間の妥協
   (2) 広告業を代表とする流通過程における資本主義的経営の成立
   (3) 消費諸部門における資本主義的経営の成立
   (4) 社会的再生産の諸過程を跨ぐ部門における資本主義的経営の成立
   (5) 直接的生産過程以外の諸部門における資本主義的経営の成立と「経済のサービス化」
   (6) 階級間の力関係の逆転と「経済のサービス化」の新しい段階
  4.「法則」の徹底,必要な欲求の範囲が支配する賃金と労働時間
 第三節 労働者の必要な欲求の対象範囲:賃金の限界と労働日の限界との代替効果
 付論 「サービス利潤」の可能性:剰余価値の分配の仕組み
  1. 資本による「個人サービス」の供与にかかわるジレンマ
  2.「個人サービス」供与の資本主義的形態:労働手段と労働力の現物貸付
  3.「サービス」商品の擬制:「サービス利潤」と「サービス価格」
  4. 国民所得の再分配とサービス提供部門の収入の源泉
  結論
 
 参考文献
 あとがき

著者紹介

高 晨曦(こう しんぎ)

九州産業大学経済学部専任講師。博士(経済学、一橋大学)。
サービス論、デジタル労働、欲求理論、資本主義成立史を含む政治経済学の幅広いテーマに関心がある。
経済学の手法のみならず、思想史、社会史、社会学、人類学、比較政治学などの視野を入れる総合社会
科学的なアプローチで、社会経済の課題を歴史的・ダイナミックに捉えたい。

2016年7月、中国・清華大学社会科学学部卒業。
2018年4月、一橋大学経済学研究科経済理論修士課程修了。
2021年4月、一橋大学経済学研究科総合経済学博士課程修了。
一橋大学経済学研究科特任講師を経て、2022年4月より現職。

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