内容紹介
本書は戦後米国の歴代政権が実施した福祉国家政策を分析することによって,何故1997年以降に「福祉切捨て就労強制政策」が強行されるに至ったかを歴史的に解明している。
まず序章は本書の分析視角である「二分法」(社会保険優遇と福祉抑制)が既に成立時の社会保障制度に内在しており,以後絶えず福祉の抑圧要因として働いてきたことを明らかにしている。次の第1章は1950年代に老齢年金が老齢扶助に代わって社会保障の中核となり,福祉も減少傾向を辿って「二分法」の正しさが証明されたかのように見えた時期を分析している。第2章は1960年代に入り,母子家庭が老人に代わって公的扶助の中心となり再び福祉を膨張させ,新たな福祉拡充策が実施されることになった点を明らかにした。1960年代の偉大な社会計画は社会復帰政策(教育・訓練)によって福祉母親の就労と自活を促し貧困の撲滅を図ったが頓挫した。ニクソン政権も最低所得保障を導入して経済的誘因によって貧民の就労を促そうとしたが,「給付に値しない勤労可能貧民」への所得保障には強い反発があり,老人,盲人,障害者など「給付に値する貧民」に限定した補足的保証所得のみが制度化された。以後福祉切捨ての標的は「給付に値しない貧民」に限定され,給付と引き換えに就労を求められることになった。第3章はレーガン政権が福祉給付の削減と勤労要件の強化を図ったが,勤労貧民の就労は促進されず,次のブッシュ政権では福祉受給が逆に膨張し,そのためにクリントンが1996年個人責任勤労機会調整法を成立させ,福祉制度の62年の歴史に終止符を打つ決定を行ったことを明らかにした。第4章は州政府が1988年家族援護法(州の裁量で福祉を抑制できる連邦規制免除)に基づいて「脱福祉勤労」計画を実施し,既に福祉削減に成果を挙げている点を解明している(福祉受給者は1993―99年に1,410万人から630万人に減少)。終章はメディケイド(医療扶助)など高齢者(給付に値する貧民)が主たる受給者となっている制度も母子家庭扶助の切捨てを梃子にして削減の対象に含められつつある現状を指摘し,米国社会でも急速に進展しつつある高齢化への影響を展望しながら,その教訓を補論「高齢社会日本の介護政策」を踏まえた上で考察する。