J. A. ホブスンの新自由主義 レント論を中心に

著者名
大水善寛
価格
定価 3,740円(税率10%時の消費税相当額を含む)
ISBN
978-4-7985-0015-7
仕様
A5判 上製 176頁 C3033
発行年
2010年3月
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内容紹介

 ホブスンは1858年の誕生から1940年に逝去するまでの間に,ジャーナリステックな観点から経済理論,政治思想,失業,貧困,教育,議会改革等に関する多数の著作を残している。彼の著作は時論的であったため,ホブスンを体系的に理解しようという試みはあまり見受けられなかった。したがって,ホブスンの評価は,レーニンによる帝国主義論の先駆者,ケインズによる有効需要論の先駆者としての評価をはじめとして,近年,クラークやフリーデンらが提起した新自由主義の代表者としての再評価のように,時代とともに変容しているが,その評価は断片的であったと言える。しかし,最近,新自由主義者ホブスンを評価する際,過少消費説との関連から考察していることが多く見受けられるようになった。だが,この研究では,新自由主義と過少消費説の内容と歴史的意義に留まるため,それを統合する枠組みとして何らかの理論,すなわち体系のコアとなる理論が必要とされる。つまり,ホブスン研究に新たな視座を提出するために,これまであまり研究の対象となっていない「レント論」という新たな理論を用いて,ホブスン体系を再構成しようというのが本書の研究である。
 つまり,ホブスンは19世紀後半から第1次大戦にかけて,イギリスの政治・経済を如実に観察・分析し,痛烈な批評を残しているが,彼の理論が断片的に取り上げられ,時論的に解説されてきたと言えよう。しかし,1990年以降,ホブスンの理論・政策・思想を体系的に捉えようとする動きも見られるようになった。本書もこうした動きの一環である。本書は,これまでの研究では余剰が過少消費説という観点から主に述べられてきたのに対し,余剰がレント論によって説かれていることを認識し,それを基底にホブスンの理論・政策・思想が構成されていることを理論的・概念的に再構成・再解釈しようとするものである。
 再構成するため,まずレント論を抽象的概念としてのレント,具体的認識可能な概念利益,政策的概念としての利益から再構築し,次いで,レント論では価格論として提示されているのに対し,過少消費説では実物面から説かれている余剰概念について,レント論がより一般的な分析装置と捉えることができることを明らかにする。こうしたステップを踏むならば,ホブスンの主張する政治改革・経済政策の根幹にレント論があると言っても異議は起こるまい。とすれば,新自由主義の基底にもレント論があるということになろう。
 19世紀後半から20世紀前半のイギリスの政治・経済的変化に対応するために考案されたホブスンの「新自由主義(New Liberalism)」の考え方は,昨今興隆を極めた「ネオ・リベラリズム(Neo Liberalism)」の自由放任主義的,夜警国家的,市場至上主義的経済運営の行き詰まりを予測でき,またポスト・ネオ・リベラリズムを思考するにあたって,新たな視座を提供できよう。

「はしがき」より

目次

 はしがき
 
序 本書の課題と構成
 
第1章 ホブスンとその時代
  1. 19世紀末から第1次大戦期におけるイギリス  歴史的背景  
  2. ホブスンの思想形成過程
  3. ホブスン研究史とその問題点
 
第2章 レント論
  1. レント論の系譜と広がり
  2. レント論の構造
    2.1 レント
    2.2 利益
    2.3 余剰
  3. レント論の視座からの過少消費説,社会改革,新自由主義
 
第3章 過少消費説
  1. 過少消費説の流行  ケインズの評価を手がかりに  
  2. 過少消費説の定式化
  3. 過少消費説と失業
  4. 過少消費説と帝国主義
 
第4章 社会改革の思想
  1. 経済政策
    1.1 失業対策
    1.2 貧困対策
  2. 政治改革
    2.1  私有財産制度の修正と社会立法
    2.2  教育改革
    2.3  議会改革
  3. 国家の役割  新しい自由主義の展望  
 
第5章 新自由主義思想におけるホブスンの歴史的位置と意義
  1. ホブスンの新自由主義
  2. ケインズの新自由主義
  3. 新自由主義の再評価  クラークとフリーデンの所説を中心に  
 
結語
 
 参考文献
 索引

著者紹介

大水善寛(おおみず よしひろ)
1949年,北海道生まれ。
國學院大學大学院経済学研究科博士後期課程単位取得満期退学。
九州産業大学大学院経済学研究科博士後期課程修了(経済学博士)。
現在,青森中央学院大学准教授。
著書:
『マクロ経済学の基本』(共著 晃洋書房)
『地域経営の改革と創造』(編著 透土社・丸善)
『現代社会におけるグローカル視点』(編著 ぎょうせい) 他
翻訳:
ハンス・ブレムス著『経済学の歴史』(共訳 多賀出版)
論文:
「J.A.ホブスンのレント論の再構成  新自由主義的社会改革の基礎理論  」(経済学史研究50(1))
「J.A.ホブスン研究  レント論と新自由主義的改革思想  」(博士論文) 他

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