内容紹介
本書はリーマン・ショックに対するFRB、欧州危機に対する欧州中央銀行、そして1990年代の金融危機に対する日本銀行、それぞれの危機対応策を比較検討したものである。各中央銀行のバランスシートの変化に焦点を定め、通常時の金融調節方法と危機対応策におけるそれぞれの特徴を明らかにすることを目指している。
たとえば市場機能の活用を重視する米国では、中央銀行の通常時の資金供給は、その額も方法も極めて限定的であった。そこに証券市場を震源地とする金融危機が発生したため、FRBは従来とは異なる方法での巨額の資金供給を実施することになる。
対照的に日本の場合、通常時から金融市場の日銀への依存度は高く、また金融政策は政府に従属的である。そして金融機関の破綻処理制度が未整備であった上に危機が「不良債権型」であったため、対応は漸進的となり、日銀は本来なら財政や預金保険が果たすべき役割も担うことになる。
他方、欧州の危機はギリシャやアイルランドなどのいわゆる周辺国で起こり、ドイツなどへの影響は軽微にとどまったため、中央銀行の資金供給は周辺国に集中した。その資金は中心国金融機関からの借入れの返済に充てられ、その結果、中心国では極端な金融緩和が発生した。つまり欧州の危機対応の特徴は、ユーロ圏内の不均衡(民間レベルでの周辺国から中心国への資本逃避と中央銀行レベルでの逆方向への資金供給)という形に現れており、その背景には財政の統合が進まない中で通貨(中央銀行)の統合が実施されたという、日本や米国とは異なる中央銀行制度の特徴がある。
さらに補論として、金融危機以降の世界的な金融規制改革と量的緩和政策における日本の特徴を取り上げている。金融危機後、欧米では公的資金の投入に対する世論の批判が強まり、それがベイルイン(預金者を含む債権者の損失負担による金融機関の再建・破綻処理)の導入へとつながるが、日本ではむしろ公的資金による救済策(ベイルアウト)が整備されてきた。また、量的緩和策の採用は三つの中央銀行に共通するが、日本では実勢からかけ離れた水準に物価目標が設定され、その結果、欧米とは異なった波及メカニズムに依存せざるをえなくなっている。その特徴を<2%>という目標、<2年>という期限の設定の意味を探るところから検討する。