内容紹介
産業立地政策とは「産業 (企業) の望ましい立地を目指す政策」であるが、その「望ましさ」は政策に関わるプレイヤーによって異なり、「効率性」と「公正性」という二つの異なる論理を巡るプレイヤー間の対立や妥協のなかで揺れ動いてきた。
主要なプレイヤーの一つである通産省は、1960年代末まで経済成長優先の「効率性」に基づく政策を主張したが、産業立地政策の理念法ともいうべき「工業再配置促進法」の制定 (1972年) を契機に「公正性」つまり国土の均衡ある発展を追求するようになった。工業再配置政策は、田中角栄の政策ビジョン『日本列島改造論』のサブシステムであり、大都市圏から地方圏への工場移転政策を通じて、産業を所管する官庁である通産省が国土政策に乗り出す契機となった。また「テクノポリス法」(1983年) は、地方圏の先端技術産業集積と産学住のまちづくりとして世界的にも注目を集めたが、他省庁との関係からその理念を十分に発揮できたとは言い難かった。
1990年代後半になると、グローバリゼーションの進展に伴い産業立地政策は、その理念を「公正性」から「効率性」へと大きく転換し、国土の均衡ある発展を目指した産業立地関連諸法の多くが廃止された。
本書の目的は、戦後日本の産業立地政策のなかで特に重要な新産業都市・工業再配置政策・テクノポリスの理念および成果そして政策転換について解明することである。40年間というタイムスパンを通じた産業立地政策の理念の揺らぎを、政治家や中央省庁、地方自治体、経済界、学界やマスコミなどの多くのプレイヤー間の対立と妥協を通じた政策の形成と廃止のプロセスから明らかにする。