内容紹介
大学に社会から負託された使命をよりよく追求させるものは、大学の自律性か、それとも政府からの統制か。これは古くて新しい問いである。20世紀に公立高等教育機関のアクセス(量的拡大)とエクセレンス(学術的卓越性)を両立させた米国カリフォルニア州の高等教育マスタープランは、高等教育の機能別分化政策の成功例としてあまりに有名で、「カリフォルニア・アイデア」と称賛されてきた。特に、公立研究大学であるカリフォルニア大学(UC)の学術的卓越性は、同大学が有する州憲法に基づく高度な自治と共に、広く認知されてきた。
しかし、近年は深刻化する財政難のため、高等教育のアクセスもエクセレンスも危機に瀕しているとされる。また、同州では高等教育機関と州政府との間で政策調整に当たる「緩衝装置」であったカリフォルニア中等後教育コミッションが廃止されるなど、かつて称賛された分権的な性格にも変化が生じてきた。
こうした状況で、UCがアクセスとエクセレンスの両立という公的な使命を追求するためにより重要なものは、州民を代表する理事会に統治される公立大学としての自律性と、州民の代表であるはずの州政府からの公的な統制のどちらなのか。
本書は、UCの議事録、カリフォルニア州の議会資料や政策文書などの分析を行うことで、公的使命の追求を巡るUCと州議会・知事と対立を軸に「カリフォルニア・アイデア」を再検討し、この古くて新しい問いに答えようとする事例研究である。日本の高等教育の改革動向を考えるうえで、政策担当者、実務者、研究者必読の書。