「保護」と「分類」の教育社会史 アメリカ日本人移民の児童保護政策と中間団体

著者名
大森万理子
価格
定価 4,620円(税率10%時の消費税相当額を含む)
ISBN
978-4-7985-0340-0
仕様
A5判 上製 274頁 C3037
発行年
2022年12月
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内容紹介

20世紀前半のアメリカ・カリフォルニア州における日本人移民の児童保護をめぐって、「人種」のイデオロギーがいかに作用し、どのような「保護複合体」が生成、活動したのだろうか。本書では、日本人移民の児童保護政策と中間団体による事業の展開を分析し、「人種」によって子どもたちが分類、保護される過程について解明する。

第1部では、1900年代から1910年代のカリフォルニア州政府の児童保護政策について扱う。カリフォルニア州慈善矯正委員会は、要保護児童への対応を開始し、民間組織による孤児保護施設から、より「自然な家庭」を提供できる里親委託事業へ転換を図った。「白人」のクリスチャン・ホームの保持を掲げて「人種」別児童保護が構想された。この「人種」の差異は、知能テストという「科学」を利用して補強されていく。

第2部では、カリフォルニア州で日本人移民を対象として保護活動を展開し、州政府と日本人移民を媒介した中間団体に注目する。パリ外国宣教会の神父によって開始され、メリノール女子修道会に引き継がれた孤児院シスターズ・ホームと聖フランシス・ザビエル学校、日本人の社会事業家・楠本六一が設立した羅府日本人人道会と南加小児園に焦点を当てる。「人種」別の児童保護を中間団体がどのように解釈し、日本とアメリカの狭間でどのような保護事業を展開したのか。日本人移民の要保護児童が発見、教育される過程を考察する。

目次

 図表等目次
 凡 例
 
序 章 要保護児童の可視化/不可視化
 
 第1節 本書の課題
  1 アメリカの児童保護に関する歴史研究の整理
   児童保護と「心性」/児童保護と「人種」
  2 「保護複合体」への着目
 第2節 本書の射程
  1 児童保護の範囲
  2 対象の設定
 第3節 本書の構成
 
   第1部 カリフォルニア州慈善矯正委員会の「人種」別児童保護構想
 
第1章 要保護児童の「移民問題」
 
 第1節 慈善矯正委員会の創設
 第2節 要保護児童への着目──孤児保護施設と里親委託団体
  1 里親委託団体の重視──1904年〜1906年
  2 孤児保護施設の追加──1906年〜1908年
 第3節 児童保護における「移民問題」──クリスチャン・ホームの理想と「人種」問題
  1 全米慈善矯正会議での講演──オリエント移民の脅威
   移民コミッティーの開設/日本人移民の道徳水準
  2 チルドレンズ・カンファレンスでの講演──「人種」と宗教に適した家庭の選定
 第4節 民間孤児保護施設と里親委託団体に対する権限の確立
  1 最初の統計──1908年〜1910年
  2 要保護児童の確立──1910年〜1912年
 小 括
 
第2章 「人種」別児童保護構想の強化
 
 第1節 知能調査の発端──孤児保護施設に残された「精神薄弱児」の問題
 第2節 差異の強化──孤児院とマタニティ・ホームにおける知能検査
  1 孤児と未婚の母親の知能検査
  2 「人種」の差異と施設の必要性
   「精神薄弱児」の事例/「一般化」テストによる「道徳性」の測定/潜在的非行の事例
 第3節 分類の創出──公立学校における知能検査
 第4節 知能調査の影響──孤児保護施設の中の「精神薄弱児」の処遇
 小 括
 
   第2部 中間団体の保護事業
 
第3章 家庭生活の提供──シスターズ・ホーム
 
 第1節 シスターズ・ホームの設立
  1 日系カトリック信者からの要請
  2 カトリック宣教のための児童保護
   組織・職員/「クリスチャン化」と「アメリカ化」/孤児、貧困児、一時的に両親の世話を
   受けられない子どもたち
 第2節 「家庭的」な施設の創出
 第3節 「科学的慈善」への変容
 小 括
 
第4章 学校教育の提供──聖フランシス・ザビエル学校
 
 第1節 経路としての教育
 第2節 学校事業とその教育内容
  1 学校概況
  2 夏期学校事業の計画──路上からの隔離
  3 「アメリカ化」と日本語教育
 第3節 ジュニア・ハイスクールとハイスクールの設置構想
 小 括
 
第5章 移民家族の改良──羅府日本人人道会
 
 第1節 羅府日本人人道会の性格と活動
  1 日系キリスト教会員による結成
  2 保護事業の開始
 第2節 日本人移民女性の保護による「家庭復旧」
  1 写真結婚
  2 「酌婦」・「醜業婦」
  3 「家庭復旧」と「正式結婚」
 第3節 日本人移民の「保護されるべき」子どもの発見
  1 女性保護から児童保護へ
  2 保護が必要とされた子どもたち──貧困・通学怠慢・小児労働
 小 括
 
第6章 二重の人間形成──南加小児園
 
 第1節 南加小児園の児童保護事業
  1 保護される児童の増加
  2 家庭の代替としての小児園
 第2節 日本人としての人間形成
  1 日本語教育を通した人間形成
  2 越境する「陛下の赤子」
 第3節 補遺──戦後の小児園
  1 児童保護事業の再興
  2 里親家庭の条件
  3 資金募集──「日系人の子供は日系人の家に」
 小 括
 
終 章 移民の子どもの保護と分類
 
 第1節 本書の成果
 第2節 結論と今後の課題
 
 あとがき
 関連年表
 参考文献
 索引

著者紹介

大森万理子(おおもり まりこ)
 
2018年、九州大学大学院人間環境学府教育システム専攻博士後期課程単位取得退学。
博士(教育学、九州大学)。九州大学大学院人間環境学研究院学術研究員を経て、現在、
広島大学大学院人間社会科学研究科助教。専攻は教育社会史。
 
主な著作
“The Discovery of Feeblemindedness among Immigrant Children through Intelligence
  Tests in California in the 1910s”(Paedagogica Historica: International Journal of
  the History of Education Vol. 54, Issue 1-2, 2018)
「『アメリカ化』から『日系人の子供は日系人の家に』──羅府日本人人道会から南加小児園への
  展開(1912~1952年)を中心に」(土屋敦・野々村淑子編『孤児と救済のエポック──
  16~20世紀にみる子ども・家族規範の多層性』勁草書房、2019年)

学術図書刊行助成

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