日本式教育の海外展開とインパクト 往還する高専/KOSENと日本式国際学校の新潮流
内容紹介
高等専門学校いわゆる「高専」は近年、アジア各国で注目され、高専をモデルにした教育機関が相次いで設立されるようになっている。海外展開については日本の高専も積極的な支援や協力をしており、KOSENは高専教育の代名詞ともなっている。また学力の習得に加えて徳育を重んじる日本の教育内容や教育方式は、海外で高く評価され、日本式の国際学校も設立されている。こうした日本式教育の輸出と輸入に際しては、受入国の教育文化風土を尊重するともに、受入国の教育行政においては日本式教育をベースにしながらも、自国の伝統を踏まえた主体的なカリキュラム開発が行われている。
本書ではまず日本の高専教育を取り上げ、その歴史と現状を述べたあと、国際化と国際協力という往還的取組みによって高専の教育組織とカリキュラム改革に生じた変化を、教員や学生を対象とした実態調査で明らかにする。そしてそこからはとりわけ多文化カリキュラム構築の課題が示される結果となった。次に日本式教育の海外展開については、日本式教育がどのように評価され受け入れられているのか、日本式国際学校の事例調査により明らかにする。
本書は中国、モンゴル、ベトナム、タイそして日本における高専/KOSENや日本式教育の実態調査を通して、日本式教育の往還が日本および受入国の双方にもたらす教育効果を明らかにするものであり、グローバル時代における教育改革の課題と展望が示されるだろう。
目次
はじめに
第1部 高専の国際展開による国内インパクト
第1章 国立高専の国際展開の概要
はじめに
1.高専制度
1-1 高専制度の創設
1-2 高専の教育課程
(1) 高専制度創設期
(2) 1991年の法改正
(3) 国立高専の独立行政法人化
2.国立高専の国際活動
2-1 外国人留学生受入れ事業
2-2 各高専独自の国際交流活動
2-3 国際協力事業
2-4 国立高専の独立行政法人化を契機として
(1) 第1期中期目標(2004年4月1日〜2009年3月31日)
(2) 第2期中期目標(2009年4月1日〜2014年3月31日)
(3) 第3期中期目標(2014年4月1日〜2019年3月31日)
(4) 第4期中期目標(2019年4月1日〜2024年3月31日)
3.海外展開事業受入れ国の期待
おわりに
第2章 高専教育の学習方略から見た特徴
はじめに
1.アクティブラーニングとは 自己調整学習によるアプローチ
2.自己調整学習の視点からみた高専教育の特徴
3.国内の国立高専における学びと教育
(1) 宇部工業高等専門学校
(2) 仙台高等専門学校
(3) 苫小牧工業高等専門学校
4.高専教育における主体的に学ぶ意欲
おわりに 高専教育における学習方略をめぐって
第3章 高専の国際化による教育変化
はじめに
1.国際交流事業による教育の変化
1-1 外国人留学生
(1) 長期留学生
(2) 短期留学生
1-2 日本人学生
2.海外展開事業による教育の変化
おわりに
第4章 高専の国際展開における組織変化
宇部高専を事例として
はじめに
1.国内高専を取り巻く我が国の教育制度改革
2.高等教育機関としての国際化 米国の国際化方略を参考に
3.高専の組織的国際化へ 宇部高専を事例に
おわりに
第5章 国内高専学生に見る国際化への意識と課題
1.はじめに 国内高専の国際化が高専生に与えたインパクト
2.国内高専生の学習動機付け・キャリアレディネス・国際交流経験の関係
2-1 高専生4年生の結果から
2-2 高専生5年生の結果から
3.国内高専生の進路意識に高専での国際交流経験が関係しているのか?
4.国内高専生の進路希望に高専内の国際交流経験が関係しているのか?
5.まとめ 高専生にとってキャリア意識を徐々に高める効果がある国内高専の国際化
第6章 海外留学生から見た高専教育の影響と課題
はじめに
1.高専における留学生受入れ
1-1 留学生10万人計画
1-2 留学生30万人計画
1-3 留学生40万人計画へ
2.高専留学生へのアンケート調査
2-1 アンケート調査の概要
2-2 調査対象者の属性について
2-3 アンケートの分析
(1) 学習面における課題
① 留学生の学習面での適応
② 高専教育の課題
(2) 生活面における課題
(3) 受入制度についての課題
(4) 高専教育への評価
おわりに
第2部 海外から見た高専教育・高度専門職業教育の特徴
第7章 海外から見た高専教育制度の特徴
はじめに
1.比較点の検討
2.比較分析
2-1 ドイツ、イギリス、フランス
(1) 入学者の属性
(2) 卒業者像・取得資格・進路
(3) 分野
(4) カリキュラム
(5) 教員の学歴資格
2-2 カンボジア、タイ、ベトナム
(1) 入学者の属性
(2) 卒業者像
(3) 取得資格・進路
(4) 分野
(5) カリキュラム
(6) 教員の学歴資格
3.高専の教育制度的特徴
おわりに
第8章 中国の高等職業教育の国際化および海外提携の展開
はじめに
1.中国の高等職業教育における改革方向と国際化の現状
1-1 職業・普通教育間の協調的発展と相互融合
1-2 産学融合度の向上
1-3 職業教育における国際協力メカニズムの確立と健全化
2.中国の高等職業教育における国際化の特徴
2-1 高等職業教育発展の重要目標としての国際化
2-2 評価指標としての国際協力
2-3 推進エンジンとしての中外協力による学校運営
2-4 新たな経路としての高等職業教育の「海外進出」
3.湖北省の高等職業教育における現状と国際化の特徴
3-1 湖北省の高等職業教育における国際化の特徴
3-2 中日協力実践例:湖北交通職業技術学院
中日自動車短期大学協力プロジェクト
4.中日高等職業教育協力の方向性
(1) トップレベルでの設計の拡大および中日高等職業教育の協調的発展の共同計画
(2) 中日高等職業教育の第三国における協力を強化する
(3) 中日高等職業教育の新興産業分野における協力を強化する
(4) 地域間の交流協力を推進する
おわりに
第3部 海外のKOSEN教育と国際連携
第9章 ベトナム工業短期大学におけるKOSEN教育導入の取組み
はじめに
1.ベトナム工業短大の教育制度と5年一貫コースに向けてのベトナム政府の取組み
1-1 ベトナムの教育制度におけるベトナム工業短期大学の位置づけ
1-2 5年一貫コースに向けてのベトナム政府の取組み
2.各パイロット校のKOSEN Modelコースのカリキュラムとモデルコアカリキュラムとの比較
2-1 ベトナムKOSENモデルプログラム(VKMP)の概要
2-2 VKMPのカリキュラムの設計方法について
3.KOSEN Model協議会によるKOSEN Modelプログラム(VKMP)のPDCAサイクルの評価について
4.各パイロット校のKOSENコースと現状について
おわりに
第10章 日本式高専教育の実践について
モンゴル国における日本式高専教育実践への協力を通じて
はじめに
1.日本の高専による支援体制
2.専門科目教員研修(日蒙相互渡航)
3.課外活動研修
4.マネジメント研修
5.キャリア教育
6.国立高専教育国際標準認定制度(KIS)にむけて
7.日本式高専教育の現状と課題
第11章 タイにおける高専教育の展開
赴任教員への聞取調査を中心に
はじめに
1.タイにおける高専教育の導入背景
2.タイ高専の事業概要
3.タイ高専支援についての赴任教員の語り
3-1 赴任教員の役割
3-2 「手が動く学生」「地域に密着した日本高専」「親身な指導」
3-3 まとめ上手で積極性のあるタイ高専の学生
3-4 インターンシップ必修、実践的卒業研究に取り組むタイ高専
3-5 両国の学生交流
おわりに
第4部 日本式国際教育の海外展開とその教育的意義
第12章 柳川高等学校附属タイ中学校での日本式教育の導入と接続
はじめに
1.設立の経緯
2.教育理念
3.組織体制と運営
4.タイの教育制度との関係と学校カリキュラム
5.日本語教育の体制
6.柳川高等学校との接続
7.九州大学教育学部との連携
8.柳川高等学校附属タイ中学校における初期の課題と現在の課題
おわりに 日本式教育の中高大の教育接続
第13章 ベトナム日本国際学校における多文化カリキュラムの運営
はじめに
1.日本国際学校について
1-1 学校設立の経緯
1-2 学校の特徴
(1) 建学の精神と教育方針
(2) 各段階の教育目標とカリキュラム
1) 幼稚園
2) 小・中・高校
1-3 授業の様子
2.日本国際学校の課題
2-1 組織体制
(1) 校長
(2) 副校長/ケンブリッジ・プログラム・ディレクター
(3) 小学校・中学校・高校の責任者
(4) 部局長(チーフ・オブ・スタッフ)
2-2 日本国際学校における多文化教育の課題
おわりに
第14章 中国における日本式学校の事例 その現状と課題
はじめに
1.「信男」における日本式教育の在り方
1-1 中国における日本式教育と「信男方式」の独自性
1-2 「信男」の教育理念
1-3 「信男」の運営と組織体制 文来校を例に
1-4 「信男」のカリキュラム
1-5 小括:「信男」における日本式教育の性格
2.中国における日本式学校の実態と課題
2-1 現地調査から導かれる2つの視点
2-2 「信男」の中に見られる学校の諸像
(1) プログラムの複雑化 文来校
(2) 教科脱却的な実践 浦東校
(3) 地域性による新たな挑戦 深圳の第三高校(三高校)と承翰校
2-3 「信男」諸分校から見える中国における日本式学校の課題
(1) 生徒の多様性への対応
(2) ネイティブ日本人の役割
(3) 理念的なギャップ
(4) 学校についていけない不適応の子ども
3.中国における日本式教育がもたらす示唆
3-1 指導観の違い
3-2 「自主性」言説の再考
3-3 「弱者への配慮」の原理
おわりに
第15章 モンゴルにおける日本型学校経営の定着とそのインパクト
新モンゴル小中高一貫学校における20年間の経営実践の事例
1.モンゴル初の日本型高校
1-1 新モンゴル高等学校の誕生
1-2 山形県立西高等学校をモデル校に
1-3 モンゴルにおける教育制度改革への貢献
2.カリキュラム編成とその特徴
2-1 教育方針と「日本型」の捉え方
2-2 カリキュラムの特徴
2-3 部活動や課外学習
3.卒業生の進路状況
3-1 国内大学への進学
3-2 海外留学
3-3 キャリア開発センターの取り組み
3-4 卒業のない学校
4.日本型教育の借用の借用
4-1 公立学校の経営改善するプロジェクトの実施(2回目の借用の始まり)
4-2 残された課題と結論
第5部 日本式教育の海外展開とインパクト
第16章 教育の借用と受容の理論的枠組みに関する一考察
はじめに
1.意思決定プロセスから現地化(indigenisation)への注目の高まり
2.教育借用/教育移植研究の類型化
(1) 借用の動機づけに着目する研究
(2) 導入後の展開と定着に着目する研究
3.輸出側と輸入側の相互変容を捉えるための理論的枠組みの検討
第17章 高専の海外往還に伴う海外KOSENと国内高専へのインパクト
1.高専の輸出による人・カリキュラム・教授方式・価値の受容と変容
2.海外KOSENにおける高専教育の選択的受容 ベトナムを事例に
2-1 カオタン工業短期大学(CTTC)の事例
2-2 商工短期大学(COIT: College of Industry and Trade)の事例
3.海外KOSENにおける高専教育の制度的受容と調整 モンゴルを事例に
3-1 制度・運営と協力体制
3-2 カリキュラムの特徴
3-3 高等教育としての法的規制と調整
4.協力・支援・交流の持続的深化による海外の受容側の変化
5.国際交流と海外協力支援の往還による国内へのインパクト
6.国内の高専内での国際化に対応した分割的,包括的組織化
6-1 国際交流、英語教育、海外研修
6-2 国際交流事業と協力事業を共有する組織体制
6-3 国際化に向けたカリキュラム改革
7.国際交流と協力支援事業による教育インパクトの可能性
第18章 海外の日本式学校からいかに学ぶか
1.はじめに 日本式学校研究の概要
2.モンゴルにおける日本式学校の導入と工夫
2-1 教育体制の工夫:日本語教育・日本語併用の授業
2-2 国際連携と進学ルート:留学と国内進学との併願
2-3 学校の縦と横のアイデンティティ形成
2-4 組織運営における日本式学校運営の取込
2-5 教員間の共同と自主性に基づく競争:教員の成長
3.ベトナムでの日本式学校の導入事例における組織体制とカリキュラム
3-1 海外連携による交流研修と留学
3-2 日本語教育の向上と機関連携による教育環境づくり
3-3 3つの組織文化による多課程式学校運営
3-4 多文化融合方式のカリキュラムの配分と融合
4.総合的考察:新カリキュラム編成とそれを支える組織の課題
おわりに
おわりに
著者紹介
〈編著者〉
竹熊尚夫(たけくま ひさお)はじめに、第4章共著、第8章共著、第17章、第18章、おわりに
九州大学大学院人間環境学研究院(教育学部)教授(比較教育学)。九州大学大学院
教育学研究科博士後期課程、日本学術振興会特別研究員、九州大学教育学部附属比較
教育文化研究施設助手などを経て現職。博士(教育学、九州大学)。
主要著書
『マレーシアの民族教育制度研究』(九州大学出版会、1998年)
“Comparative Education at Universities in Japan”, in Charl Wolhuter, et al. (eds.),
Comparative Education at Universities World Wide, (2nd Ed.)
(Sofia; Bureau for Educational Service, 2008)
「多民族社会における教育の国際化への展望」望田研吾 編著『21 世紀の教育改革と教育交流』
(東信堂、2010年)
「学校プリントの伝統的価値とこれからの役割」(竹熊真波との共著)
李暁燕編著『学校プリントから考える外国人保護者とのコミュニケーション』
(くろしお出版、2023年)
〈執筆者〉
日高良和(ひだか よしかず)第1章、第3章、第4章共著
宇部工業高等専門学校・嘱託教授
伊藤崇達(いとう たかみち)第2章、第5章共著
九州大学大学院人間環境学研究院・准教授
木村拓也(きむら たくや)第5章共著、第12章共著
九州大学大学院人間環境学研究院・教授
竹熊真波(たけくま まなみ)第6章、第13章共著
筑紫女学園大学・教授
牧 貴愛(まき たかよし)第7章共著、第11章共著、第12章共著
広島大学大学院人間社会科学研究科・准教授
下田旭美(しもだ あさみ)第7章共著、第11章共著
広島商船高等専門学校・准教授
趙晋平(チョウ シンペイ)第8章共著
武漢理工大学・教授
中野陽一(なかの よういち)第9章
宇部工業高等専門学校・教授
岩熊美奈子(いわくま みなこ)第10章
都城工業高等専門学校・教授
ダオ・ベト・アイン(Dao Viet Anh)第13章共著
ベトナム日本国際学校・副理事長
魯林(ロ リン)第14章共著
信男教育学園・理事長
閔楽平(ビン ラクヘイ)第14章共著
九州大学大学院人間環境学府・博士課程
ジャンチブ・ガルバドラッハ(Janchiv Galbadrakh)第15章
新モンゴル学園・理事長
福田紗耶香(ふくだ さやか)第16章
長崎大学多文化社会学部・助教