内容紹介
本書はまず,20世紀初頭に行われた台湾旧慣調査の「最終報告書」である『臺灣私法』に対して,不動産に関する「舊慣」の記述を素材とし,その先行報告書を含めたテキスト群に徹底して層位学的分析(critique stratigraphique)を施すことを第一の作業とする。それによって,『臺灣私法』に至る過程において何を論拠に何処までの議論がなされたのか,その思考の変遷・推敲の過程を辿り,或いは棄てられ,或いは採用される可能性のあった記述との間の緊張関係に目を向け,最終的な記述が選択されたことの意味を再定位する。さらに本書は,同報告書の作者達に関する人物研究(prosopography)から導かれる諸文献をも考察に含め,調査活動自体が否応なく巻き込まれた歴史的背景から,その意味を再確認する試みでもある。東洋法制史学の出発点に位置する重要なテキストでありながら,その本格的な分析が放置されてきた『臺灣私法』の再定位作業は,現在の我々のアジア認識に大幅な再考を迫る諸要素を多く提示するものである。