発話解釈の語用論

著者名
大津隆広
価格
定価 4,180円(税率10%時の消費税相当額を含む)
ISBN
978-4-7985-0099-7
仕様
A5判 並製 232頁 C3082
発行年
2013年5月
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内容紹介

本書は,関連性理論に基づく語用論の研究書である。前半では,その基本的な概念や枠組みを整理した上で,語用論における重要な課題である会話の含意や発話行為などを関連性理論の視点から捉え直している。本書の後半はその事例研究である。英語の談話連結語after allや日本語の接続表現「だって」の多様な用法について,符号化された手続きを定義することでその一義的説明を行っている。一方,文法化の議論においても関連性理論の貢献は少なくない。18世紀と現代の2つのコーパスの比較に基づく after all の文法化の議論では,意味保持の観点から,その主観的(および間主観的)意味への意味変化について一義的説明を行っている。さらに,照応プロセスは,メタ表示に基づく認知能力に支えられたものであると指摘し,動詞句照応表現に符号化された手続き,照応表現と直示表現の手続きの違いについても言及している。
関連性理論は,言語的に非明示的な命題(概念表示あるいは想定)についても分析の対象とすることができるために,談話理論に比べて説明力のある認知語用理論だと言える。また,従来は別々の枠組みで説明されてきた,言語的・非言語的コンテクストでの発話解釈の仕組みを,語用論的推論とそれを制約する関連性の原理により,統一的に説明することが可能になる。

目次

    まえがき
 
第1章 発話解釈と関連性理論
 
    1.コミュニケーションの2つのモデル
    2.意図明示推論的コミュニケーション
    3.関連性の原理
    4.明示的伝達と暗示的伝達の区別
    5.発話解釈のオンライン過程
    6.言語表現に符号化された情報のタイプ
    7.談話連結語と発話解釈への手続き
    8.butの手続き的意味の一義的説明
 
第2章 グライスとレビンソンの会話の含意をめぐって
 
    1.グライスの会話の含意
      1.1 協調の原理
      1.2 会話の含意のタイプ
      1.3 協調の原理と発話解釈
    2.レビンソンの一般化された会話の含意
      2.1 Q含意
      2.2 I含意
      2.3 M含意
      2.4 衝突解決のスキーマ
      2.5 体系化されたGCIと発話解釈
    3.関連性理論からみたGCIおよびQ/M/I含意
      3.1 GCIおよびQ/M/I含意の明示性
      3.2 関連性の原理に基づく推論
    4.おわりに
 
第3章 発話行為およびポライトネスと発話解釈
 
    1.発話行為論における意味解釈
      1.1 発語内行為の成立と適切性条件
      1.2 発語内行為の確定
    2.バックとハーニッシュの発話行為スキーマ
    3.発話の力と高次表意
    4.ポライトネスと意味解釈
      4.1 発話解釈の補助手段としてのポライトネス
      4.2 ポライトネスと関連性
    5.おわりに
 
第4章 after allが符号化する手続き  譲歩と正当化の認知的基盤  
 
    1.譲歩的用法と正当化用法
    2.関連性理論におけるこれまでの説明
      2.1 Blakemore(2002),Carston(2002)
      2.2 Fretheim(2001)
    3.文脈想定再考  2項表示から3項表示へ
      3.1 譲歩における根拠
      3.2 正当化における先行想定
      3.3 3項表示に基づく推論スキーマ
    4.譲歩と正当化の一義的説明
      4.1 譲歩の手続き
      4.2 正当化の手続き
      4.3 譲歩的用法と正当化用法が共有する認知的基盤
    5.おわりに
 
第5章 「だって」の意味  想定の一致という接続関係  
 
    1.「だって」の多様な側面
    2.「だって」節が接続するもの
    3.一義的説明のこれまでの試み
    4.「だって」の意味再考
      4.1 発話解釈の推論スキーマ
      4.2 「だって」による正当化
      4.3 「だって」の情意性
      4.4 「だって」による同意や共感
    5.おわりに
 
第6章 概念と手続きの区別と文法化
 
    1.コーパスの比較によるafter allの用法の優位性の変化
      1.1 after allの用法の区別
      1.2  Letters of Delegates to Congress
      1.3 Collins Wordbanks
    2.after all の意味の通時的変化
      2.1 多様な用法の意味機能の拡張
      2.2 文法化への2つのアプローチ
        2.2.1  歴史語用論的アプローチ
        2.2.2  関連性理論のアプローチ
    3 手続きと主観性/間主観性
    4.おわりに
 
第7章 照応表現の理解とメタ表示
 
    1.多様な照応表現
    2.照応分析のこれまでの試みと問題点
      2.1 言語的制御と語用論的制御の二分法
      2.2 いわゆる先行詞をもたない照応
      2.3 Murphy(1985)の復元可能性の尺度
      2.4 第2節のまとめ
    3.動詞句照応のメタ表示的分析
      3.1 特殊な飽和としての照応プロセス
      3.2 言語的メタ表示と非言語的メタ表示
      3.3 類似性の程度と文脈想定の呼び出し可能性
    4.動詞句照応に符号化された一般的制約
    5.照応表現と直示表現の手続き
    6.おわりに
 
    まとめにかえて
 
    参考文献
    索引

著者紹介

大津隆広(おおつ たかひろ)
1961年,福岡県久留米市生まれ。九州大学文学部卒業,九州大学大学院文学研究科修士課程修了。
現在,九州大学大学院言語文化研究院准教授。専門は認知語用論。
 
[著書]
『発話と意味解釈』(言語文化研究叢書XII,九州大学言語文化研究院,2004年),
『ことばの標』(共編著,九州大学出版会,2005年),
『A Passage to English ?大学生のための基礎的英語学習情報』第5版(共編著,九州大学出版会,2007年)。
 
[論文]
「英語の談話連結語after all の手続き的制約と多義性について」(JELS 23, 2006年),
“A Cognitive Account of Anaphoric Expressions,” Current Trends in Pragmatics,
(Cambridge Scholars Publishing, 2007年),
“A Relevance-theoretic Account of Anaphoric Processes: the Application of Metarepresentation
and its Implications,” The Said and the Unsaid: Papers on Language, Literature and Cultural
Studies
,(University of Vlore “Ismail Qemali”, 2011年),他。

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