信念の呪縛 ケニア海岸地方ドゥルマ社会における妖術の民族誌

著者名
浜本 満
価格
定価 9,680円(税率10%時の消費税相当額を含む)
ISBN
978-4-7985-0117-8
仕様
A5判 上製 544頁 C3039
発行年
2014年1月
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内容紹介

ケニア海岸部の諸社会においては、他人に神秘的なしかたで危害をもたらす「妖術」は、単なるファンタジーの対象ではなく、人々が日常生活において常に警戒し対処すべき中心問題の一つであった。それは今日なお周期的に発生する地域を挙げての「魔女狩り(抗妖術運動)」や、隣人や家族内での殺人などの深刻な社会現象をも引き起こしている。

本書は、妖術信仰を伝統的/近代的という視点から解放し、条件がそろえば任意の社会にインストール可能な一種のプログラムのようなものとして捉え、それを構成する信念セットと実践系が具体的な人々の生と社会状況の中でいかに再帰的(recursive)に「実行」されているかを、ケニア海岸部のドゥルマ人社会を対象におこなった現地調査の豊富なデータをもとに明らかにしたものである。妖術信仰という「プログラム」が個々人の経験の水準で、そして歴史と政治のマクロな水準で、それぞれどのように実行され、それがどのように自己に最適化した現実を生成し、自らをその力で支えるような構造になっているかを示すことを通して、信念一般のもつ呪縛性の謎に迫る。

単にアフリカの一社会に限らず、しばしば我々の社会においても、特定の信念に凝り固まった人々のあいだの、相互の対話すら不可能に見えるような溝がいたる所に走っている。こうした信念のカスケーディングとでも呼べる現象がどのようなプロセスの産物であるかを明らかにしていくうえでも、本書は有効な手がかりとなるであろう。

目次

序論  妖術信仰と信念の分水嶺  
 
    第1部 妖術の観念
 
第1章 ムハッソ(muhaso)と妖術  特殊技術としての妖術  
 
  第1節 薬の概念
  第2節 ムハッソを用いた妖術
  第3節 キラボ  ムハッソの正当な使用  
  第4節 ムハッソの想像力
 
第2章 夜の舞踏者  異常性としての妖術  
 
  第1節 食人と妖術使いの結社
  第2節 利己的な富の蓄積  キザの妖術  
  第3節 夜の裸踊り
  第4節 動物との異常な親和性
  第5節 妖術使いのイメージ
 
第3章 汚れを奪う者たち  万人に開かれた妖術  
 
  第1節 妖術使いを雇う
  第2節 「汚れ」を奪う
 
小括
 
    第2部 妖術に対する対処
 
第4章 妖術の治療  クブェンドゥラ(kuphendula)  
 
  第1節 フュラモヨのクブェンドゥラ
  第2節 施術の分析
  第3節 治療施術の意味
 
第5章 妖術に対する防御  防御施術  
 
  第1節 クフィニュワ・キルメ(ku-finywa chilume)
  第2節 埋設薬フィンゴの設置  屋敷全体に対する防御施術  
  第3節 防御施術の曖昧性
  第4節 ムハッソと施術師
 
第6章 妖術告発
 
  第1節 「死を探す(kutsakula chifo)」
  第2節 告発への戦術
  第3節 試罪施術
  第4節 試罪施術の意味
 
小括
 
補足  その他の対処  
 
    第3部 妖術世界を生きる
 
第7章 妖術の物語に「捕らえられる」ということ
 
  第1節 バラバラを待ちながら
  第2節 私は妖術についてまだ何も知らなかった
  第3節 妖術世界を生き始めること
  第4節 唐突な決着
 
第8章 ムァディガの復讐
 
  第1節 息子ズングの死
  第2節 不確実さの中で
  第3節 私はあきらめない
  第4節 報復施術の実行
 
第9章 証明された妖術使い  ローチャの災難  
 
  第1節 妖術使いの正体
  第2節 暴力の脅しの中で
  第3節 賠償交渉
  第4節 クハツァ実行
  第5節 ローチャ一家の退去
  第6節 キラボによる決着と妖術の物語
 
第10章 呪縛する物語
 
  第1節 災厄と物語
  第2節 呪縛する物語の特性
 
小括
 
    第4部 反復する抗妖術運動
 
第11章 抗妖術運動の歴史
 
  第1節 抗妖術運動の概観
  第2節 1980年以前の抗妖術運動
 
第12章 反転する物語  マジュトの抗妖術運動  
 
 第1節 マジュトとその施術
 第2節 妖術の物語の停止と復活
 第3節 Aタイプ抗妖術運動の反復
 
第13章 バラバラの抗妖術施術  Bタイプの熱狂と落胆  
 
 第1節 バラバラの噂
 第2節 実況中継のように
 第3節 妖術使い狩りの1日
 第4節 幻想のバラバラ
 第5節 Bタイプの熱狂と落胆
 
小括
 
    第5部 開発と妖術
 
第14章 抗妖術運動2006
 
 第1節 カロロの抗妖術運動の軌跡
 第2節 マンガレの抗妖術運動とその頓挫
 第3節 2006年の2つの抗妖術運動の特徴
 
第15章 行政と妖術信仰
 
 第1節 妖術法の精神4
 第2節 植民地行政と妖術  抗妖術運動の成立  
 第3節 独立ケニアにおける地域行政と妖術
 第4節 カジウェをめぐる2通の手紙
 
小括  妖術と開発の語り口  
 
結論
 
  引用参考文献
 
  あとがき  比較文化論風会話  
 
  索引

著者紹介

浜本 満 (はまもと みつる)

1952年生まれ
東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学
(社会学博士(一橋大学))
九州大学大学院人間環境学研究院・教授

『秩序の方法ケニア海岸地方の日常生活における儀礼的実践と語り』(弘文堂)
『メイキング文化人類学』(太田好信との共編著)(世界思想社)
「いかさま施術師の条件治療実践における見掛けの構築について」『九州大学大学院教育学研究紀要』

学術図書刊行助成

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