犯罪の証明なき有罪判決 23件の暗黒裁判

著者名
吉弘光男・宗岡嗣郎 編
価格
定価 3,520円(税率10%時の消費税相当額を含む)
ISBN
978-4-7985-0323-3
仕様
A5判 並製 320頁 C1032
発行年
2022年2月
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内容紹介

冤罪はなぜ起こるのか。

刑事訴訟法は明文で、「犯罪の証明があった」ときにのみ、有罪判決において「刑の言渡し」ができ(刑訴法333条)、「犯罪の証明がないときは、判決で無罪の言渡しをしなければならない」(刑訴法336条)と規定する。しかし日本の刑事裁判実務では、裁判官の「自由心証主義」が過度に重視され、現行法上の有罪判決の前提である「犯罪の証明」が軽視されてきた。その結果、「裁判官の自由な判断」により誤った有罪判決を生み出す「暗黒裁判」が後を絶たない。

本書では、70数年に及ぶ現行憲法・刑事訴訟法の下で、絶えることなく続発する誤判事件の実態について、最初期から現代にいたる膨大な誤判例の中から23件の裁判を分析することで、誤判の決定的な原因を探った。そこには、別件逮捕を用いた自白獲得や共謀共同正犯の承認、情況証拠のみに基づく事実認定、捜査段階の調書への全面依拠、客観性を欠く供述証拠の「真偽」の判断等、憲法が保障する被疑者・被告人の人権を無視した実務の実態があった。本書はとくに論理的可能性と実在的可能性の違いに着目し、主観的・情緒的な「心証形成」を制約する、客観的・理性的な「証明」の論理を示すことによって、裁判官が誤判を犯す原因を明らかにし、冤罪を防止するための方策を提言する。

目次

 はじめに
 凡  例
 
 プロローグ:松橋事件が教えるもの
  1.任意捜査の一典型
  2.自白内容と立件
  3.犯罪の証明なき有罪判決  (1)凶器の形状と創傷の不一致
  4.犯罪の証明なき有罪判決  (2)確定審の自白評価
  5.M自白は「真」か「偽」か  真偽の基準
  6.自由心証主義の跳梁
 
1.0.暗黒裁判の原点
 
 1.1.帝銀事件  別件逮捕と自白による処罰・死刑
  1.1.1.別件逮捕と自白
  1.1.2.自白内容は支離滅裂であった
  1.1.3.自白と「そこに・あった・事実」との不一致
  1.1.4.毒殺行為のトリック
  1.1.5.自白の「真偽」の証明基準
 1.2.練馬事件  裁判を受ける権利の否定
  1.2.1.事件の概要と1審判決
  1.2.2.暗黒裁判を支えた最高裁判決
  1.2.3.他人の自白で罪になるか
  1.2.4. 「裁判を受ける権利」とは国家に対する被告人の反論権である
  1.2.5.警察には「誰から」でも自白を取れるノウハウがある
 1.3.八海事件  映画「真昼の暗黒」のモデル
  1.3.1.映画「真昼の暗黒」のモデル
  1.3.2.4人が長斧で頭部を打ち下ろせばどうなるか
  1.3.3.裁判官の検察追随傾向
  1.3.4.検察官化する裁判官
  1.3.5.事実を直視(直観)しない「空虚な認識」
 1.4.松川事件  戦後最大のフレームアップ
  1.4.1.調書裁判への姿勢
  1.4.2.2つの可能性概念  論理的可能性と実在的可能性
  1.4.3.裁判官による認識の真実性
  1.4.4.真偽は「神のみが知る」のではない
 1.5.菅生事件  警察権力とは何か
  1.5.1.事件の概要
  1.5.2. 「氏名不詳の者」とは誰か
  1.5.3.国家権力の赤裸々な実態  フレームアップ
  1.5.4. 「裁判への抜きがたい不信」  中野好夫の指摘
  1.5.5.権力の侍従となった裁判官
 
2.0.死刑再審事件の明暗
 
 2.1.免田事件  物証が証明した被告人の無罪
  2.1.1.事件の概観  別件逮捕と自白
  2.1.2.有罪判決は自白調書の「上書き」である
  2.1.3.再審開始決定  「そこに・あった・事実」の直視(直観)
  2.1.4.再審無罪判決の概観
  2.1.5.現実を直視(直観)した裁判官
 2.2.財田川事件  冤罪を作る検察官、それを隠す裁判官
  2.2.1.検面調書を「上書き」した判決
  2.2.2.検察は「秘密の暴露」を作り出した
  2.2.3.最高裁の「財田川決定」から再審開始決定へ
  2.2.4.本件は警察・検察によるフレームアップである
  2.2.5.主観的な「心証形成」と客観的な「証明」
 2.3.松山事件  警察は襟当に大量の血痕を付着させた
  2.3.1.見込み捜査で別件逮捕し,自白が取れれば立件する捜査
  2.3.2.警察「ストーリー」の不自然性
  2.3.3.古畑鑑定が決定的であった
  2.3.4.血痕をめぐる疑問点  警察による証拠の偽造
  2.3.5.裁判官は,何故,警察の犯罪的不法を指摘しないのか
 2.4.島田事件  「自由心証」の絶対視が誤判を生み出す
  2.4.1.そもそもAには嫌疑も何もなかった
  2.4.2.Aの自白内容と公判での否認
  2.4.3.なぜ1審は再鑑定を必要としたのか
  2.4.4.古畑鑑定の非科学性が暴露された
  2.4.5.嫌疑を作出する警察・検察とそれを庇う裁判所
 2.5.福岡事件  忘れられた死刑誤判事件
  2.5.1.逮捕から死刑判決まで
  2.5.2.強盗殺人の共謀と実行行為の認定
  2.5.3.共犯者の供述調書が「真である」ことは証明されていない
  2.5.4.何故「そこに・あった・事実」を見ないのか
  2.5.5.再審請求棄却と死刑執行
  2.5.6.忘れてはならない事件
 2.6.菊池事件  差別と誤判そして死刑執行
  2.6.1.ダイナマイト事件
  2.6.2.殺人事件
  2.6.3.FによるHの殺害行為は全く証明されていない
  2.6.4.確定1・2審は憲法の保障する「裁判」ではなかった
  2.6.5.菊池事件に対する現代の課題
 
3.0.暗黒裁判を基礎づけた最高裁・田中コート
 
 3.1.三鷹事件・砂川事件  暗黒裁判を基礎づけた田中耕太郎
  3.1.1.調書裁判の確立
  3.1.2.三鷹事件  共産党を狙った「空中楼閣」
  3.1.3.刑事「裁判を受ける権利」とは「検察に反論する権利」である
  3.1.4.砂川事件  憲法の対極にいた最高裁長官
  3.1.5.田中の「判検一体」という反憲法的理念
 3.2.松川事件大法廷判決  暗黒裁判の事実認定論
  3.2.1.松川事件大法廷判決について
  3.2.2.田中耕太郎の論理  「木を見て森を見失わないこと」
  3.2.3. 「事案の真相」を無視するフレームアップの論理
  3.2.4.真理とは言明と事実の一致である
  3.2.5.現代まで継承される田中の論理
 3.3.差戻し後の八海事件  調書裁判の「暗闇」の中で
  3.3.1. 「真昼の暗黒」は序章にすぎなかった
  3.3.2.実在的な「そこに・あった・事実」を直視した事実認定
  3.3.3.下飯坂判決  理性なき「心証」の暴走
  3.3.4. 「検察庁裁判部第1小法廷」判決
  3.3.5.偽証の立件  検察が常用する犯罪的な捜査手段
  3.3.6.犯人性が証明されていない有罪判決
 3.4.横浜事件と特高警察・思想検事  最高裁判所判事の資格
  3.4.1.思想検事が最高裁判事になった
  3.4.2.横浜事件  特高警察・思想検事によるフレームアップ
  3.4.3.思想検事は拷問と一体であった
  3.4.4.池田による松川事件の事実認定  調書への絶対的信頼
  3.4.5.裁判官の第1の仕事  それは検察の主張をチェックすることである
 3.5.松川事件に見る暗黒裁判の核心  真を偽とし、偽を真とする呪術
  3.5.1.伝統的真理論
  3.5.2.不可知論的な真理論
  3.5.3.不可知論の「擬制された真実」が誤判の根源である
  3.5.4.有罪の「心証」ではなく,有罪の「証明」が必要である
  3.5.5.裁判官の創作による死刑判決
  3.5.6.暗黒裁判の論理  論理的可能性
 
4.0.暗黒裁判は収束していない  今も続いている調書裁判
 
 4.1.布川事件  調書裁判と自由心証主義の暴走
  4.1.1.自白があれば,起訴され,有罪となる
  4.1.2.確定判決における認定の杜撰さ
  4.1.3.供述調書の「変転・混乱・矛盾」を検証すべきである
  4.1.4.検察は証拠を隠していた
  4.1.5.検察官による供述内容の「暗示・誘導」
  4.1.6.警察・検察と共に冤罪を作り出す裁判官
 4.2.貝塚事件  「判検一体」となった犯罪的第1審公判
  4.2.1.検察の主張を無条件で肯定した1 審判判決
  4.2.2.自白「調書に・書かれた・事実」は事件の実在的な事実と一致しない
  4.2.3.1審裁判官は,一体,何を見ていたのだろうか
  4.2.4.本件捜査は明らかに「犯罪」である
  4.2.5.裁判官は捜査官の不法を「より軽く」「より緩やかに」捉える
 4.3.足利事件  論理的可能性への立脚は誤判の根源である
  4.3.1.見込み捜査とDNA鑑定への過信
  4.3.2.裁判官はただ「調書に・書かれた・事実」だけを見ていた
  4.3.3.自白「調書に・書かれた・事実」は「そこに・あった・事実」と一致しない
  4.3.4. 「論理的可能性」を使えばいかなる事実認定も「可能」である
  4.3.5.高木コートの事実認定は「創作」である
 4.4.東電OL殺人事件  警察は決定的な無罪証拠を隠していた
  4.4.1.1審判決は無罪であった
  4.4.2.高木コートは実在的事実を直視(直観)しない
  4.4.3.論理的可能性に立脚した「事実」認定はありえない
  4.4.4.実在的可能性に立脚した「事実」認定だけが許される
  4.4.5.証拠によらない事実認定
  4.4.6.検察は被告人に有利な決定的物証を隠匿していた
 4.5.飯塚事件  創作の中で死刑を認めた裁判官
  4.5.1.見込み捜査,死刑判決,そして死刑執行
  4.5.2.認定された事実と7つの間接事実の「総合評価」
  4.5.3.一瞬の目撃だが、あまりにも詳細な目撃証言
  4.5.4.血液型鑑定に対する確定1審判決の決定的な欺瞞
  4.5.5.DNA型鑑定に対する確定1審判決の決定的な欺瞞
  4.5.6.再審請求審の成果
 4.6.地裁所長襲撃事件  調書は自由自在に作出される
  4.6.1.事件の概要
  4.6.2.別件逮捕と警察によるストーリーの形成
  4.6.3.少年らの供述の検討
  4.6.4.警察・検察ストーリーが崩壊した瞬間
  4.6.5.少年審判をめぐる裁判官の「有り様」
 4.7.東近江患者死亡事件  裁判官は検事の主張を疑わない
  4.7.1.捜査  根拠なき「見込み」と「供述調書」による補強
  4.7.2.公判  調書の形式論理的整合性の検証
  4.7.3.再審  誤判の可能性の指摘
  4.7.4. 「犯罪の証明」  これだけが有罪判決の前提である
  4.7.5.刑訴法1条の「事案の真相」とは何か
  4.7.6.はたしてN自白は「真である」のか
 
 エピローグ:恵庭殺人事件  再審無罪判決を求める
  1.本件ストーリーを支える情況証拠
  2.殺害方法と遺体の移動  Mに実行行為は可能か
  3.遺体の焼損方法  10?の灯油で可能なのか
  4.情況証拠の検証
  5. 「アリバイ崩し」の欺瞞
  6.ガリレオ裁判に似た刑事裁判実務
  7.結  語
 
 あとがき

著者紹介

執筆者紹介(氏名:勤務先・職位/最終学歴・修了年次/主要著書・論文、50音順、*は編者)


内山真由美(うちやま まゆみ)

佐賀大学経済学部准教授

九州大学大学院法学府博士後期課程単位取得退学(2010年)

「医療観察法と精神医療」内田博文・佐々木光明編『〈市民〉と刑事法[第4版]』所収(日本評論社、2016年)


梅﨑進哉(うめざき しんや)

西南学院大学法科大学院教授

九州大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学(1985年)

『刑法における因果論と侵害原理』(成文堂、2001年)


大場史朗(おおば しろう)

大阪経済法科大学法学部教授

神戸学院大学大学院法学研究科修了(2013年)

「現代警察活動とわたしたち」内田博文・佐々木光明編『〈市民〉と刑事法〔第4版〕』所収(日本評論社、2016年)


大藪志保子(おおやぶ しほこ)

久留米大学法学部教授

九州大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学(1999年)

「薬物依存と刑罰」内田博文・佐々木光明編『〈市民〉と刑事法(第4版)』所収(日本評論社、2016年)


岡田行雄(おかだ ゆきお)

熊本大学大学院人文社会科学研究部(法学系)教授

九州大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学(1996年)

『少年司法における科学主義』(日本評論社、2012年)


櫻庭 総(さくらば おさむ)

山口大学経済学部教授

九州大学大学院法学府博士後期課程修了(2010年)

『ドイツにおける民衆扇動罪と過去の克服』(福村出版、2012年)


平井佐和子(ひらい さわこ)

西南学院大学法学部教授

九州大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学(2001年)

「ハンセン病問題における司法の責任」西南学院大学法学部創設50周年記念論文集『変革期における法学・政治学のフロンティア』所収(日本評論社、2017年)


福永俊輔(ふくなが しゅんすけ)

西南学院大学法学部教授

九州大学大学院法学府博士後期課程単位取得退学(2009年)

「フランス性犯罪規定の改正」(西南学院大学法学論集52巻1号、2019年)


宗岡嗣郎*(むねおか しろう)

久留米大学法学部特任教授

九州大学大学院法学研究科博士後期課程修了(1984年)

『犯罪論と法哲学』(成文堂、2007年)


森尾 亮(もりお・あきら)

久留米大学法学部教授

九州大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学(1995年)

「刑事立法の活性化と罪刑法定主義」森尾他編『人間回復の刑事法学』所収(日本評論社、2010年)


森川恭剛(もりかわ やすたか)

琉球大学人文社会学部教授

九州大学大学院法学研究科博士後期課程修了(1995年)

『沖縄人民党事件』(インパクト出版会、2021年)


吉弘光男*(よしひろ みつお)

久留米大学法学部教授

九州大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学(1988年)

「『合理的疑いを超える証明』に関する一考察」内田博文先生古稀祝賀論文集『刑事法と歴史的価値とその交錯』所収(法律文化社、2016年)

学術図書刊行助成

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