ドイツ映画史の基礎概念 新世紀のディアスポラ

著者名
古川裕朗
価格
定価 3,520円(税率10%時の消費税相当額を含む)
ISBN
978-4-7985-0336-3
仕様
A5判 並製 282頁 C1074
発行年
2022年9月
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内容紹介

戦後のドイツ人は自身の〈ホーム〉を失ったディアスポラの民であり、人々は精神的故郷を求めてさまよい、さすらった。果たして現代のドイツ映画は〈ドイツ人のディアスポラ〉という戦後のビッグ・モチーフに対していかに応答したのだろうか?

21世紀以降のドイツ映画賞受賞作のうち、「移民」「ナチ」「東西ドイツ」を扱った諸作品を異文化理解の立場から紹介・解説する本書は、現代ドイツ映画史への格好の手引書であるといえよう。あらすじ、主題、メディア論的な意味を分析考察し、2000年代から2010年代にかけて生じた作品傾向の歴史的変容を基礎概念の提示と共に明らかにする。

本書において提示されるのは、「帰還」と「消失」、「和解」と「決別」、「再生」と「贖罪」という3組の対概念であり、それぞれ「移民」「ナチ」「東西ドイツ」を題材とした諸作品の理解に対応する。21世紀以降の受賞作において、2000年代の〈ホーム〉に「帰る/気づく」物語から、2010年代の〈ホーム〉を「失う/築く」物語への変容が確認され、本書の提示する3組の対概念はこのような変容を理解する上での有効な基礎概念となるであろう。

目次


 
 
  「同文化理解」から「異文化理解」へ/メディア論的考察/ドイツ映画賞/
  「作品」から「メディア」へ/「あらすじ」と「主題展開」/〈ドイツ人の
  ディアスポラ〉/新世紀のディアスポラ
 
第Ⅰ部 2000年代
 
 第1章 移民の背景を持つ者(帰還)
 
  1 《愛より強く》(2004年/金賞)
      トルコ・ナショナリズムからトルコ・ローカリズムへ  
  2 《タフに生きる》(2006年/銀賞)
      「統合の失敗」と「平行社会」  
  3 《そして、私たちは愛に帰る》(2008年/金賞)
      左翼テロリズムへの批判  
 
 第2章 ナチ・ドイツ(和解)
 
  1 《名もなきアフリカの地で》(2002年/金賞)
      故郷の再認  
  2 《ベルンの奇蹟》(2004年/銀賞)
      戦後の世代間葛藤  
  3 《白バラの祈り》(2005年/銀賞)
      天上への回帰  
  4 《四分間のピアニスト》(2007年/金賞)
      自己回帰する天才  
  5 《ウェイヴ》(2008年/銅賞)
      擬似ホームからの帰還  
  6 《ジョン・ラーベ》(2009年/金賞)
      ホームの死守  
 
 第3章 東西ドイツ(再生)
 
  1 《階段の踊り場》(2002年/銀賞)
      青い鳥症候群  
  2 《グッバイ、レーニン!》(2003年/金賞)
      嘘から生まれた真実  
  3 《幻の光》(2003年/銀賞)
      希望のポツダム広場  
  4 《何でもツッカー》(2005年/金賞)
      五分五分の決着  
  5 《善き人のためのソナタ》(2006年/金賞)
      アクチュアルな芸術劇場  
 
第Ⅱ部 2010年代
 
 第1章 移民の背景を持つ者(消失)
 
  1 《よそ者の女》(2010年/銅賞)
      トルコ的伝統と西洋近代の相克  
  2 《おじいちゃんの里帰り》(2011年/銀賞)
      血族共同体から歴史共同体へ  
  3 《女闘士》(2012年/銅賞)
      ネオナチの代償  
  4 《ヴィクトリア》(2015年/金賞)
      神としての資本主義  
  5 《女は二度決断する》(2018年/銀賞)
      ネオナチ化する犠牲者  
 
 第2章 ナチ・ドイツ(決別)
 
  1 《白いリボン》(2010年/金賞)
      破滅への序曲  
  2 《女闘士》(2012年/銅賞)
      金銭教育の末路  
  3 《コーヒーをめぐる冒険》(2013年/金賞)
      過去の弔い  
  4 《ハンナ・アーレント》(2013年/銀賞)
      理解か? 許しか?  
  5 《さよなら、アドルフ》(2013年/銅賞)
      連鎖の拒絶  
  6 《アイヒマンを追え!》(2016年/金賞)
      「ドイツの誇り」と「ドイツ人の誇り」  
 
 第3章 東西ドイツ(贖罪)
 
  1 《東ベルリンから来た女》(2012年/銀賞)
      エデンの園の東  
  2 《誰でもない女》(2014年/銅賞)
      「生命の泉」の真実  
  3 《ヘビー級の心》(2016年/銀賞)
      幻のロス五輪  
  4 《グンダーマン》(2019年/金賞)
      東ドイツのボブ・ディラン  
 
 
  移民の背景を持つ者/ナチ・ドイツ/東西ドイツ/新世紀のディアスポラ
 
  
  あとがき
  作品リスト
  索引

著者紹介

古川裕朗(ふるかわ ひろあき)
広島修道大学教授
慶應義塾大学文学部哲学科美学美術史学専攻卒業
大阪芸術大学大学院芸術文化研究科博士課程後期修了
博士(芸術文化学、大阪芸術大学)
2004年 広島修道大学専任講師
2008年 ハンブルク大学客員研究員
2011年より現職
専攻は美学・芸術文化学

学術図書刊行助成

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