日本の近代美術とドイツ『スバル』『白樺』『月映』をめぐって

シリーズ名
九州大学人文学叢書 14
著者名
野村優子
価格
定価 4,000 円 (税別)
ISBN
978-4-7985-0254-0
仕様
A5判 上製 266頁 C3371
発行年
2019年2月
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内容紹介

西洋の油絵技法を取り入れて誕生した日本の洋画には、常に西洋美術受容の問題がつきまとう。その際に研究対象となるのは、いつもフランスであってドイツではない。たしかに日本が受け入れたのはゴッホやセザンヌなどフランス近代絵画であった。しかし、実際にはそれらはリヒャルト・ムーターやユーリウス・マイアー=グレーフェなどドイツ人美術批評家の書物を通じてもたらされていた。近代日本の西洋美術受容において、実践面ではフランスが重視されていたが、その一方で美術を言葉で支える思想面ではドイツが重要な役割を演じていたのである。

本書はこうした表面上には現れにくいドイツの影響を探るため、明治末期から大正にかけて創刊された『スバル』『白樺』『月映』を手がかりとして、これまで本格的に論じられることのなかった「日本近代美術におけるドイツ受容」の実相解明を思想と実践の二面から目指している。この三雑誌は、いずれも近代洋画の発展に貢献をなした文芸雑誌であるとともに、ドイツとの関わりも深い。『スバル』『白樺』では思想面での受容を、『月映』では実践面の受容を詳細にたどることができる。事実、『スバル』や『白樺』で美術批評を執筆していたのは木下杢太郎や武者小路実篤らドイツ文化の影響下にあった文学者であり、『月映』で活躍した恩地孝四郎はドイツ美術雑誌に親しんだ木版画家であった。恩地はカンディンスキーの木版画受容を通じて日本初の抽象画となる《抒情 あかるい時》を完成させている。ドイツと日本、美術と文学を横断する探究によって、ドイツは日本の近代美術に、思想面では本格的な美術批評の誕生を促し、実践面では木版画の再興と抽象画の成立をもたらしたことが明らかとなっていく。

目次

序 章
 
 第一節 高村光太郎「緑色の太陽」を出発点として
  (一) 高村光太郎と外国語
  (二) 先行研究
  (三) 研究の射程
 第二節 近代日本とドイツ
  (一) お雇い外国人
  (二) 文部省留学生
  (三) ドイツ諸都市の芸術活動
 第三節 ドイツ留学
  (一) 原田直次郎  一八八四年二月より一八八六年一一月まで
  (二) 巌谷小波  一九〇〇年一一月より一九〇二年九月まで
  (三) 山田耕筰  一九一〇年三月より一九一三年一二月まで
  (四) 澤木四方吉  一九一二年九月より一九一四年八月まで
 
第一章 『スバル』  日本近代美術批評の誕生  
 
 第一節 「緑色の太陽」
  (一) 高村光太郎とフォーヴィスム
  (二) 「HENRI-MATISSEの画論」
 第二節 明治末期の美術界と文学界
  (一) 「緑色の太陽」の読者
  (二)『スバル』と森鷗外の「椋鳥通信」
  (三) 明治末期の美術界と文学界
 第三節 日本近代美術批評の誕生
  (一) 日本近代美術批評に関する先行研究
  (二) 明治末期の美術批評
  (三) 木下杢太郎と独逸語系の拠点『スバル』
  (四) 美術批評とその担い手
  (五) 文学者による美術批評
  (六) 日本近代美術批評の誕生
 
第二章 ドイツ人美術批評家  マイアー=グレーフェの『近代芸術発展史』  
 
 第一節 ドイツ人美術批評家への憧れ
  (一) リヒャルト・ムーター受容
  (二) ユーリウス・マイアー=グレーフェ受容
 第二節 マイアー=グレーフェの『近代芸術発展史』
  (一) 執筆の背景
  (二) 序文に記された芸術観
  (三) 新しいドイツ美術のための提言
 第三節 「美術著述家」Kunstschriftsteller
 
第三章 『白樺』  マイアー=グレーフェの「ゴッホ論」と武者小路実篤のゴッホ受容  
 
 第一節 『白樺』のドイツ近代美術受容
  (一) マックス・クリンガー崇拝
  (二) ルートヴィヒ・フォン・ホフマンと第三王国
  (三) ハインリヒ・フォーゲラーとドイツ近代美術受容の幕引き
 第二節 『白樺』のゴッホ受容
  (一) 日本のゴッホ受容におけるマイアー=グレーフェ
  (二)『白樺』のゴッホ受容
 第三節 マイアー=グレーフェの「ゴッホ論」
  (一) ゴッホ神話の誕生
  (二) 「人間」ゴッホ
  (三) 「芸術家」ゴッホ
 第四節 武者小路実篤のゴッホ論
  (一) 「ゴオホの二面」
  (二) トルストイ主義から個人主義へ
  (三) マイアー=グレーフェの「ゴッホ論」を超えて
 
第四章 『月映』  近代日本の前衛美術受容と恩地孝四郎  
 
 第一節 一九一〇年代美術雑誌に見るドイツ美術受容
  (一) 近代日本におけるフランス美術
  (二) ドイツ美術雑誌と日本
 第二節 近代日本の前衛美術受容
  (一) フリッツ・ルンプフ
  (二) 木下杢太郎のカンディンスキー受容
  (三) フュウザン会による前衛美術批判
 第三節 恩地孝四郎の抽象木版画とカンディンスキー
  (一) 恩地作品の抽象化に関する先行研究
  (二) 創作版画運動
  (三)『月映』と竹久夢二
  (四) フュウザン会による木版画批判
  (五) 「デア・シュトゥルム木版画展覧会」
  (六) 「抒情」シリーズの誕生
  (七)《抒情『あかるい時』》
  (八) 恩地孝四郎の抽象木版画とカンディンスキー
 
終 章
 
 第一節 「生の芸術」論争と「絵画の約束」論争
  (一) 「生の芸術」論争
  (二) 「絵画の約束」論争
  (三) 「新旧」「芸術法則」もしくは「美術著述家」をめぐる論争
 第二節 「美術著述家」およびドイツ美術受容者の再評価
 第三節 一九一〇年代ドイツ美術受容の終焉

 参考文献
 あとがき
 資料『近代芸術発展史』目次
 人名索引
 事項索引

著者紹介

野村優子(のむら ゆうこ)
2009年ベルリン自由大学歴史・文化学部美術史学科卒業後,2017年九州大学
大学院人文科学府言語・文学専攻独文学専修博士後期課程修了。同年より愛媛
大学法文学部講師(表現文化論・ドイツ語を担当)。博士(文学、九州大学)。

書評

生活の友社『アートコレクターズ』123号(2019年6月号) 紹介記事
 

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