石器の生産・消費からみた弥生社会

シリーズ名
九州大学人文学叢書 13
著者名
森 貴教
価格
定価 6,600円(税率10%時の消費税相当額を含む)
ISBN
978-4-7985-0223-6
仕様
B5判 上製 238頁 C3021
発行年
2018年3月
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内容紹介

日本列島の歴史において、人類による自然環境の破壊が開始されたのが弥生時代といわれている。「自然資源の獲得」を生業活動の基盤としていた縄文時代から、水田稲作農耕による本格的な「食糧生産」を生業活動の基盤とする弥生時代への変化は、単なる生業の転換のみならず、集団関係や社会構造にも大きな変革をもたらしたと考えられる。

生業を支える道具としての石器は、農耕社会に必要不可欠の文化要素であり、鉄器が普及する以前の段階では基幹をなす物資でもあった。そのため弥生社会はこうした石器やその素材となる石材の入手が重要な役割を担っていたといえる。本書では、朝鮮半島南部から日本列島へ最初期に水田稲作農耕が伝播した北部九州地域を対象として、弥生時代における伐採用の両刃石斧、木工用の片刃石斧、収穫具である石庖丁の生産と消費について通時的に検討し、分業化の過程を明らかにする。

また、弥生時代は一定程度金属器が使用され始めた時代である。農工具に主に用いられる鉄器の原材料である鉄素材は日本列島には産出せず、朝鮮半島南部から長距離交易によってもたらされる。さらに鉄器を生産するための鍛冶に関する技術移転が必要であった。砥石と斧柄の分析から石器から鉄器への材質変化の過程を探り、弥生時代後半期における石器生産・消費システムの変化を明らかにする。

以上の分析を通して、北部九州地域における弥生社会の展開過程  部族社会から首長制社会に至る社会変容の過程  を考察する。

目次

 図表一覧
 凡 例
 
序 章 本書の目的
 
第1章 研究の現状と課題
 
 第1節 北部九州弥生社会の展開過程に関する研究動向
  1.北部九州という地域の設定
  2.遺跡・遺構に基づく弥生社会の展開過程に関する研究
  3.弥生社会の成層化と首長層の生成に関する研究
 第2節 朝鮮半島南部青銅器・初期鉄器時代における石器研究の動向
 第3節 弥生時代石器研究の動向
  1.石器生産に関する研究
  2.石器の流通・消費形態に関する研究
  3.農工具の鉄器化に関する研究
 第4節 本書で解決すべき問題の所在
 第5節 資料・方法・理論
  1.本書で扱う資料
  2.方法の検討
  3.理論(用語と理論的枠組みの整理)
 
第2章 朝鮮半島南部における石器生産・消費形態と弥生社会への影響
 
 第1節 本章の課題
 第2節 柱状片刃石斧の分類と編年
  1.資料と方法
  2.柱状片刃石斧の分類
  3.有溝石斧の分類
  4.編年・段階設定
 第3節 柱状片刃石斧生産の展開
  1.嶺南1・2期
  2.嶺南3・4期
 第4節 弥生時代開始期前後における片刃石斧の流入
  1.資料と方法
  2.片刃石斧の具体例
  3.朝鮮半島南部青銅器時代の類例との比較
  4.弥生時代開始期前後における片刃石斧の流入の背景
 第5節 朝鮮半島南部における農耕文化の展開と石器生産
  1.朝鮮半島南部における有溝石斧出現の意義
  2.石斧生産遺跡の類型化
  3.弥生時代開始期前後における片刃石斧の流入と弥生文化への影響
 
第3章 弥生時代北部九州における石器生産と消費形態
 

 第1節 両刃石斧の生産
  1.本節の課題
  2.資料と方法
  3.今山系石斧の製作
  4.北部九州における在地系石斧製作  五徳畑ケ田遺跡を対象として  
  5.今山系石斧の規格性の検討
  6.今山遺跡における石斧生産と分業化の過程
 第2節 両刃石斧の消費形態
  1.本節の課題
  2.資料と方法
  3.石材構成と研磨からみた両刃石斧の入手形態
  4.再加工からみた今山系石斧の消費形態
  5.今山系石斧の消費形態の背景
 第3節 片刃石斧の生産と消費形態
  1.本節の課題
  2.資料と方法
  3.北部九州における片刃石斧の検討(仮説A-②の検証)
  4.北九州地域(遠賀川以東地域)における片刃石斧の検討(仮説A-①の検証)
  5.層灰岩製片刃石斧の消費形態
  6.層灰岩製片刃石斧の生産・消費形態の背景
 第4節 石庖丁の生産と消費形態
  1.本節の課題
  2.資料と方法
  3.立岩系石庖丁の製作
  4.石材構成からみた石庖丁の入手形態
  5.法量からみた立岩系石庖丁の消費形態
  6.立岩系石庖丁の生産・消費形態の背景
 第5節 石器器種間の相互関係と通時的変化に関するまとめ
 
第4章 農工具の鉄器化と石器生産・消費形態
 
 第1節 研究の現状と課題
  1.研究史
  2.本章の課題
 第2節 砥石使用形態からみた鉄器化
  1.資料と方法
  2.朝鮮半島南部初期鉄器時代における砥石使用形態
  3.弥生時代後半期における砥石使用形態
  4.青灰色泥岩製定形砥石の分布
  5.弥生時代における鉄器化の評価
  6.鍛冶技術の導入と交易ネットワークの変化
 第3節 木製斧柄からみた工具の鉄器化
  1.資料と方法
  2.斧柄の形態分類
  3.斧柄量比の時期的変遷
  4.斧柄形態・斧身装着部の法量変化
  5.工具の鉄器化と石斧生産の関係
 第4節 農工具の鉄器化と石器生産・消費形態の変遷過程
  1.鉄器生産の動向と工具変遷の諸段階
  2.北部九州における弥生後期の集落動向  弥生中期から後期へ  
 第5節 農工具の鉄器化と弥生時代後半期における社会変容
 
第5章 考察:石器生産と消費形態からみた北部九州弥生社会の特質
 
 第1節 石器生産と消費形態の時期的変遷と画期の評価
  1.朝鮮半島南部青銅器・初期鉄器時代
  2.北部九州弥生時代
 第2節 日韓の地域間比較と北部九州弥生社会の特質
  1.農耕文化の伝播と石器生産・消費形態  朝鮮半島南部との比較  
  2.石器生産・消費形態の評価と北部九州弥生社会の特質
 
終 章 石器生産と消費形態からみた北部九州弥生社会の展開過程
 
 参考文献
 初出一覧
 あとがき
 索 引

著者紹介

森 貴教(もり たかのり)
 
熊本大学文学部卒業。九州大学大学院人文科学府修士課程修了。九州大学大学院人文科学府
博士後期課程単位取得退学。大野城市教育委員会ふるさと文化財課嘱託職員、九州大学大学
院人文科学研究院助教を経て、現在、新潟大学研究推進機構超域学術院特任助教。博士(文
学、九州大学)。
 
主要論文:
「弥生時代北部九州における石斧生産  今山系石斧の製作技法と規格性の検討  」『九
 州考古学』第85号、2010年
「弥生時代北部九州における両刃石斧の消費形態  今山系石斧を中心として  」『考古
 学研究』第57巻第4号、2011年
「弥生時代北部九州における片刃石斧の生産・流通とその背景  「層灰岩」製片刃石斧を
 中心に  」『古文化談叢』第69集、2013年

書評

古代学協会『古代文化第71巻第2号 pp.132-134 評者:櫻井拓馬(三重県埋蔵文化財センター)
 
日本考古学協会『日本考古学第49号 pp.125-129 評者:馬場伸一郎(下呂市教育委員会)
 
考古学研究会『考古学研究259号(第65巻第3号) pp.113-115 評者:寺前直人(駒澤大学文学部准教授)
 
学術図書刊行助成

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