内容紹介
日本列島の歴史において、人類による自然環境の破壊が開始されたのが弥生時代といわれている。「自然資源の獲得」を生業活動の基盤としていた縄文時代から、水田稲作農耕による本格的な「食糧生産」を生業活動の基盤とする弥生時代への変化は、単なる生業の転換のみならず、集団関係や社会構造にも大きな変革をもたらしたと考えられる。
生業を支える道具としての石器は、農耕社会に必要不可欠の文化要素であり、鉄器が普及する以前の段階では基幹をなす物資でもあった。そのため弥生社会はこうした石器やその素材となる石材の入手が重要な役割を担っていたといえる。本書では、朝鮮半島南部から日本列島へ最初期に水田稲作農耕が伝播した北部九州地域を対象として、弥生時代における伐採用の両刃石斧、木工用の片刃石斧、収穫具である石庖丁の生産と消費について通時的に検討し、分業化の過程を明らかにする。
また、弥生時代は一定程度金属器が使用され始めた時代である。農工具に主に用いられる鉄器の原材料である鉄素材は日本列島には産出せず、朝鮮半島南部から長距離交易によってもたらされる。さらに鉄器を生産するための鍛冶に関する技術移転が必要であった。砥石と斧柄の分析から石器から鉄器への材質変化の過程を探り、弥生時代後半期における石器生産・消費システムの変化を明らかにする。
以上の分析を通して、北部九州地域における弥生社会の展開過程 部族社会から首長制社会に至る社会変容の過程 を考察する。