内容紹介
イングランドの演劇は中世以来聖史劇や奇跡劇そして道徳劇を中心としていたが,16世紀後半に世俗的な大衆演劇が発達し,シェイクスピアの登場でひとつの絶頂期を迎えた。演劇が隆昌をきわめようとしていたちょうどその頃,宮廷祝典局長を検閲者とする演劇の統制制度が整った。以後演劇は1642年の劇場閉鎖まで,反逆罪や煽動罪を規定する布令に加えて,祝典局長の検閲による統制を受けた。本書は,その統制のありようを歴史的・実証的に跡づける。歴史家や演劇史家は英国ルネサンス期の演劇統制を禁圧的と把握する傾向が強いが,本書はこれに疑義を呈し,祝典局長と当時の役者・劇作家たちが興隆する演劇産業において共生関係にあったことを指摘し,祝典局長の検閲が実は演劇を保護し助勢したと論じる。本書は,英国ルネサンス期の演劇統制に関する本邦初の包括的研究書である。
目次
序章
第一部 英国ルネサンス期の演劇統制
第一章 英国宗教改革と演劇統制
第一節 ヘンリー八世時代
第二節 エドワード六世時代からエリザベス朝まで
第二章 英国ルネサンス演劇の検閲と宮廷祝典局長
第一節 宮廷祝典局長と検閲
第二節 祝典局長エドマンドティルニー
第三節 宮廷祝典局長の利権 パトロネジの経済学
第三章 演劇統制令と公演認可
宮廷・枢密院はいかに大衆演劇を保護したか
第四章 浮浪者取締法と役者たち
第五章 英国ルネサンス演劇と出版統制
第一節 ロンドン書籍商組合記録と戯曲の出版統制
第二節 ジェイムズ朝初期の祝典局長継承と戯曲出版の検閲・認可
第二部 シェイクスピアと検閲
第六章 『ヘンリー四世・第一部』と宗教論争
第七章 『リア王』と検閲
第八章 『ヘンリー四世・第二部』と『ヘンリー五世』の「改訂」
第九章 『リチャード二世』と検閲
終章
注
初出一覧
あとがき
引用文献
索引