内容紹介
会員制の廉価書籍販売組織であるブッククラブは、ドイツにおいて1920年代から1980年代にかけて大きな発展を遂げ、本を買って読む習慣が社会の広い層に普及する読書の民主化に多大な貢献をなした。しかし一方で、民族主義的な思想の普及のために利用され、ドイツの右傾化とナチス政権の成立に大きく寄与した。
本書は、そのような二面性を有するドイツのブッククラブに関する、わが国初の本格的な論考である。第1部では、ドイツにおけるブッククラブの発展全体をテーマとし、第1章でワイマール共和国時代の隆昌、経済的・内容的特質、伝統的な書籍販売との葛藤を、第2章でドイツ連邦共和国における1960~80年代の隆昌と、二段階販売システムや経営の多角化といった新たな展開を詳しく考察する。第2部ではドイツ家庭文庫とナチズムのかかわりに焦点をあて、第1章で母体をなすドイツ民族商業補助者連合の教育活動全体の民族主義的な傾向を跡づけ、第2章では、同文庫の主な作家・作品、本の提供方法と装丁、雑誌の役割、ナチス時代の活動を詳しく分析し、民族主義的な読書指導とナショナリズムの隆昌との関連を明らかにした上で、ナチス政権との親和性と軋轢を解明する。さらに、余論では、1945年以前のドイツのブッククラブ全52団体について、成立年、関連団体、思想傾向、本の提供方法、提供された本の特色などを詳しく解説する。
文学研究と書籍研究を架橋する意欲的試みであるとともに、ナチズム研究においても必読の書である。