マーガレット・ドラブル文学を読む リアリズム小説から実験小説へ

著者名
永松美保
価格
定価 5,280円(税率10%時の消費税相当額を含む)
ISBN
978-4-7985-0245-8
仕様
A5判 上製 218頁 C3098
発行年
2019年3月
ご注文
  • 紀伊國屋
  • amazon
  • 楽天ブックス
  • セブンネットショッピング

内容紹介

マーガレット・ドラブルは現代イギリスを代表する作家・英文学研究者の一人で、1963年、20代の頃に『夏の鳥かご』(A Summer Bird-Cage ) で文壇デビューを果たした。以来、およそ半世紀にわたって19本の小説を発表してきたドラブルは、その創作活動のなかで徐々に作風を変化させていった。

当初の作風は、ドラブルがケンブリッジ大学で師事した F. R. リーヴィスの影響を受け、J. オースティンや G. エリオットらの作風を受け継いだ、倫理意識を重視したリアリズム小説であった。三作目の『碾臼』(The Millstone ) のヒットにより、彼女は母性、女性の生き方を描く「フェミニズム作家」として読者や研究者に捉えられるようになった。その後ドラブルは60年代末から70年代初頭にかけて、語りの人称変化を取り入れたり(『滝』(The Waterfall ))、中産階級から労働者階級へと物語の舞台を移すなど(『針の眼』(The Needle’s Eye ))、徐々に作風を変化させていった。2000年代にはドキュメンタリーとフィクションが同比重を占める作品(『ペッパード・モス』(The Peppered Moth ))を発表し、さらに平凡なテーマながら斬新な語りの技法を用いた作品(『七人姉妹』(The Seven Sisters ))を発表するなど、常に進化を続けている。

本書は、六つの作品の緻密な分析と著者が行ったドラブルへのインタビューから、こうした変遷が、第二次世界大戦直後の伝統文化への回帰、その後の植民地の独立と植民地的価値観の主張、歴史観の変遷といった戦後イギリスの思潮変化や、ドラブルが英文学研究者として20世紀の主要な批評理論に触れてポストモダニズムに傾倒していったことに起因することを明らかにしようとするものである。


目次

 はしがき
 
序 章 作家マーガレット・ドラブル、及び、本書の背景
 
第一章 作品の背景
 
 1・1 マーガレット・ドラブルの伝記的背景
 1・2 作家としてのマーガレット・ドラブル
 1・3 日本での受容
 
第二章  『夏の鳥かご』(A Summer Bird-Cage, 1963)
      1960年代を生きるイギリス女性達の社会的困難  
 
 はじめに
 2・1 姉ルイーズの結婚へのセアラの思い
 2・2 既婚女性達の不幸
 2・3 独身女性達の不幸
 2・4 就業に対するセアラの限界意識
 2・5 女性であることの社会的限界
 終わりに
 
第三章  『碾臼』(The Millstone, 1965) における愛の不能
 
 はじめに
 3・1 ロザムンドの両親について
 3・2 両親の教育が娘ロザムンドに与えた影響
 3・3 ロザムンドの妊娠の意味
 3・4 母となったロザムンドの両親への思い
 3・5 ロザムンドの変容とは
 終わりに
 
第四章  『滝』(The Waterfall, 1969) における両義性と語りの変化
 
 はじめに
 4・1 作品の持つ両義性
  4・1・1 ”drowning” (溺れる) の持つ両義性
  4・1・2 ジェインとジェイムズの関係の両義性
  4・1・3 運命と自由意志という両義性
  4・1・4 結末における女性性と男性性という両義性
 4・2 両義性と語りの変化
 終わりに
 
第五章  『針の眼』(The Needle’s Eye, 1972) における社会性
 
 はじめに
 5・1 サイモンに見る階級制度と人生選択
 5・2 主人公ロウズに見る階級制度と人生選択
 5・3 サイモンとロウズの人生選択がもたらしたもの
 終わりに
 
第六章  『ペッパード・モス』(The Peppered Moth, 2000) における家族の肖像とフィクション性の効果
 
 はじめに
 6・1  「過去」世代のカドワース家の女性達と家族の肖像
 6・2  「現在」世代のカドワース家の女性達と家族の肖像
 6・3 作品の重層性
 終わりに
 
第七章  『七人姉妹』(The Seven Sisters, 2002) に見る創作上の技法
      語りと作品展開  
 
 はじめに
 7・1 離婚前後のキャンディダの家族関係と生活
  7・1・1 離婚以前のキャンディダの家族関係
  7・1・2 離婚後のキャンディダの家族関係と生活
 7・2  『七人姉妹』における創作技法
 終わりに
 
第八章 マーガレット・ドラブルとの対談
 
終 章 先行研究と現在のドラブル文学
 
 あとがき
 参考文献
 索  引

著者紹介

永松美保(ながまつ みほ)
 
九州女子大学講師、准教授を経て、現在、
九州共立大学教授。文学修士、博士(学術)。専門は現代イギリス小説、イギリス文化研究。
 
主要業績:
『新世紀の英語文学―ブッカー賞総覧2001-2010』(共著、開文社、2011年)
 "Many Layers of Modern Novels ーA Conversation with Margaret Drabbleー"(『Web英語青年』、
 158巻3号、研究社、2012年)
 "The Development of Writing Techniques in M. Drabble’s Works Focusing on The Waterfall (1969)
 and The Seven Sisters (2002)," New Writing: The International Journal for the Practice and
 Theory of Creative Writing
, 11(3), pp. 387-395.

その他

訂 正(2019年3月31日初版発行分)
 138頁(30)・参考文献 ⅶ頁
  誤 https:www.britannica.com/animal/peppered-moth
  正 https://www.britannica.com/animal/peppered-moth
 191頁(25)
誤 加藤洋介、「過去一〇年間のブッカー賞」、『新世紀の英語文学―ブッカー賞総覧二〇〇一ー二〇一〇』、高本孝子、池園宏、加藤洋介共編、開文社、二〇一一年、ⅺ頁。
正 加藤洋介、「過去一〇年間のブッカー賞」、『新世紀の英語文学―ブッカー賞総覧二〇〇一ー二〇一〇』、高本孝子、池園宏、加藤洋介共編、開文社、二〇一一年、ⅸ-ⅺ頁参照。
 参考文献 ⅴ頁
  誤 Barry, Peter. Beginning Theory: An Introduction to literary and Cultural Theory
  正 Barry, Peter. Beginning Theory: An Introduction to Literary and Cultural Theory
学術図書刊行助成

お勧めBOOKS

若者言葉の研究

若者言葉の研究

生きている言語は常に変化し続けています。現代日本語も「生きている言語」であり、「…

詳細へ

犯罪の証明なき有罪判決

犯罪の証明なき有罪判決

冤罪はなぜ起こるのか。刑事訴訟法は明文で、「犯罪の証明があった」ときにのみ、有罪…

詳細へ

賦霊の自然哲学

賦霊の自然哲学

物理学者フェヒナー、進化生物学者ヘッケル、そして発生生物学者ドリーシュ。本書はこ…

詳細へ

帝国陸海軍の戦後史

帝国陸海軍の戦後史

近代日本のなかで主要な政治勢力の一翼を担った帝国陸海軍は、太平洋戦争の敗戦ととも…

詳細へ

構造振動学の基礎

構造振動学の基礎

本書の目的は,建物・橋梁・車両・船舶・航空機・ロケットなど軽量構造物の振動現象を…

詳細へ

九州大学出版会

〒819-0385
福岡県福岡市西区元岡744
九州大学パブリック4号館302号室
電話:092-836-8256
FAX:092-836-8236
E-mail : info@kup.or.jp

このページの上部へ