開戦前夜の日中学術交流 民国北京の大学人と日本人留学生

シリーズ名
九州大学人文学叢書 19
著者名
稲森雅子
価格
定価 5,940円(税率10%時の消費税相当額を含む)
ISBN
978-4-7985-0304-2
仕様
A5判 上製 378頁 C3398
発行年
2021年4月
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内容紹介

1920-30年、中国文学の若手研究者(中国学第二世代)が続々と北京へ留学した。当時、北京は忘れられた「古都」となっていたが、なお北京大学や清華大学など数多くの大学があり、学術研究の面では依然として中心地であった。その北京で、日本と中国の中国学研究者たちは、さかんに交流していた。しかし、このいわゆる「日中戦争前夜」の数年間の学術交流の実態は、これまで意識的あるいは無意識のうちに見過ごされてきた。本書は、近年偶然に発見された当時の資料等をもとに、北京において繰り広げられていた学術交流の具体的なありようを検証し、意義を考察するものである。

具体的には、近年発見された目加田誠の留学記録『北平日記』を手がかりに、目加田が出会った北京の研究者(馬廉、孫楷第、銭稲孫)と日本学術界との交流を中心に検討する。北京の古書店主たちと日本の研究者との関係、北京大学教授の馬廉と倉石武四郎や長澤規矩也らによる中国の戯曲や通俗小説テキストをめぐる書誌学的交流、書誌学者孫楷第による中国通俗小説調査のための来日状況と書目の編纂、『万葉集』や『源氏物語』の中国語訳を行った銭稲孫が自宅に開設した日本語書籍の図書室の実態などを明らかにする。最後に、本書で取り上げた主要な人物たちのその後を改めて振り返る。

日本の中国学術研究発展史上、非常に重要であるにも関わらず、今日に至るまでほとんど顕彰されることがなかった、日中戦争前夜の北京での学術交流の実態とその意義が、本書によって明らかになる。

目次

序 章 一九三〇年代の北京
 
 第一節 古都「北平」
 第二節 日中戦争開戦前夜の概況
 第三節 義和団事件賠償金等による学術支援の概況
 第四節 文学研究分野における学術交流について
 第五節 日本人研究者の北京留学
 第六節 本書の構成とねらい
 
第一章 一九三〇年代の北京古書肆  目加田誠留学日記『北平日記』からたどる  
 
 第一節 目加田誠の北京留学
 第二節 北京古書肆および琉璃廠の概況
 第三節 来薫閣二代目店主陳杭について
 第四節 世古堂張世順について
 第五節 隆福寺街文奎堂について
 小 結
 
【コラム1】橋川時雄『中国文化界人物総鑑』
 
第二章 馬廉の戯曲小説研究と日本人研究者との交流
 
 第一節 生い立ちから日本人研究者との出会いまで
 第二節 長澤規矩也との交流
 第三節 倉石武四郎との交流
 第四節 寧波帰郷から晩年まで
 第五節 不登大雅文庫という名称について
 小 結
 
第三章 九州大学蔵『支那小説戯曲版画集』編纂考
 
 第一節 九州大学所蔵本のあらまし
 第二節 収録版本の所蔵者とその特性
 第三節 写真集の所蔵状況および書名
 第四節 写真集の活用例(鄭振鐸『挿図本中国文学史』)
 第五節 写真集の編纂意図
 第六節 九州大学所蔵の経緯
 小 結
 
【コラム2】中国学の一系譜  熊本を中心に
 
第四章 孫楷第の中国小説書目編纂と日中の学術交流
 
 第一節 生い立ちから大学時代まで
 第二節 来日までの経緯
 第三節 東京・大連の調査旅程
 第四節 孫楷第を支えたその他の人々
 第五節 訪日調査の意義
 小 結
 
第五章 銭稲孫の日中学術交流  日中戦争までの足跡  
 
 第一節 銭稲孫および銭氏一族について
 第二節 青年期の銭稲孫
 第三節 志賀直哉日記と里見弴『満支一見』の中の銭稲孫
 第四節 機関誌『字紙簍』の紹介記事
 第五節 学術界の日本語通訳者への歩み
 第六節 目加田誠『北平日記』中の銭稲孫
 小 結
 【付録1】目加田誠『北平日記』銭稲孫関係箇所
 
【コラム3】銭稲孫訳『万葉集』と目加田誠訳『詩経』
 
第六章 銭稲孫の私設日本語図書室「泉寿東文書庫」
 
 第一節 先行研究に見える泉寿東文書庫の記録
 第二節 岩波茂雄宛松村太郎書簡による設立経緯の新事実
 第三節 「泉寿東文書庫創立趣意書」の発見
 第四節 機関誌『字紙簍』の発見
 第五節 内藤湖南と泉寿東文書庫第六節支援者松村太郎について
 小 結
 【付録2】岩波茂雄宛松村太郎書簡(一)
 【付録3】泉寿東文書庫寄贈者一覧(図書)
 
結 論 一九三〇年前後の日中学術交流から見えるもの
 
 第一節 その後の中国人の動向(孫楷第・銭稲孫ら)
 第二節 その後の日本人留学生(倉石武四郎・長澤規矩也・目加田誠)
 むすびに
 
引用・参考文献一覧
初出一覧
あとがき
索 引

著者紹介

稲森雅子(いなもり まさこ)
1986年 奈良女子大学文学部卒業
1986〜2013年 日本電信電話株式会社・西日本電信電話株式会社に勤務
2019年 九州大学大学院人文科学府博士後期課程単位取得退学
2020年 博士(文学、九州大学)
2020年度 九州大学大学院人文科学研究院助教
現在 九州大学大学院人文科学研究院専門研究員

その他

 訂正
正誤表(2021年4月30日初版発行分)
学術図書刊行助成

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