医療の本質と変容 伝統医療と先端医療のはざまで

シリーズ名
熊本大学生命倫理論集 4
著者名
高橋隆雄・北村俊則 編
価格
定価 4,180円(税率10%時の消費税相当額を含む)
ISBN
978-4-7985-0052-2
仕様
A5判 上製 408頁 C3312
発行年
2011年4月
ご注文
  • 紀伊國屋
  • amazon
  • 楽天ブックス
  • セブンネットショッピング

内容紹介

生命倫理学の登場以来,医療倫理に関わる問題として医療者と患者の関係,患者の自己決定の権利,インフォームド・コンセント,生殖医療,移植医療,終末期医療,医療者の職業倫理,ケアのあり方,医療資源の配分,倫理委員会のあり方等々とともに,それらを論じる倫理的原理や法について問われてきた。その際,治療とはいかなることか,医療とはそもそもいかなることであるかは,多くの場合,暗黙の了解とされてきた。しかし,最近のエンハンスメント問題への注目が示唆するように,そうした暗黙の前提が揺らぎ始めており,医療の本質を問うことは,今や生命倫理や医療倫理が避けて通れないことがらとなってきている。その問いは,健康とは,幸福とは,成熟とは,正常とは,自然的とは,人間とは,といった哲学・倫理学の基本概念について問うものであり,本格的考察には多岐にわたる視点が必要である。本書はそうした根本問題に対して,哲学,倫理学,医学,看護学,法学,社会学,人類学の観点から迫るものである。自明とされてきた医療や治療の概念をこれまでとは別の視点で再検討し,医療という概念にあえて揺さぶりをかけることを通じて,医療倫理の新たな基礎づけの序章となることを本書は目指している。

目次

まえがき・・・・・・・・・・高橋隆雄
 

       第I部 歴史における医療

 
第1章 西欧中世における医療概念・・・・・・・・・・宮川俊行
 
  西欧中世における医学と医療/西欧中世医学と現代
 
第2章 生命政治と健康・・・・・・・・・・船木 亨
 
  臨床医学の誕生/病人と臨床的身体/政治生命/魂への「配慮」
 
第3章 古代日本の思想と医療・・・・・・・・・・西田晃一
        古代の思想から現代の医療を問い直す  
 
  モノノケ思想と医療/モノガミ思想と医療/ケガレ思想と医療
 
第4章 医療とは何か?・・・・・・・・・・コンスタンティン・S. クルーツキー
        バイオ・コスモロジーの視点から  
 
  現在の世界における地球規模のバイオ・パラドックス/生命科学の哲学的基盤に関するパラドックス/
  「証拠に基づく哲学と倫理(Evidence Based Philosophy and Ethics)」の必要性と「地球規模の病因論的パラドックス」/
  コスモロジーの本来的概念/バイオ・コスモロジーの現実性についての間接的あるいは直接的議論/
  コスモスの16の普遍的法則(生命実在的根本原理)/「東洋的補完」医療と「東洋的代替」医療/主要な論点
 

       第II部 医療概念の再照射

 
第5章 医療の目的と医療専門職の義務の限界・・・・・・・・・・浅井 篤
 
  医療とは何か/これらは医療行為なのか,どこが疑問点なのだろうか/本考察の意義
 
第6章 医療法の変遷から見る医療概念・・・・・・・・・・稲葉一人
 
  国家行政組織法と厚生労働省設置法/医療法の制定過程/医療法1条の変遷/法哲学的アプローチ/法社会学的アプローチ
 
第7章 医学的介入の論理と障害の概念・・・・・・・・・・八幡英幸
        「何もしないより,何かよいことをしたほうがよい」か  
 
  医学的介入の論理/原則とその適用の問題点/難病を持つ人やその家族の「語り」から
 
第8章 「動物への医療・ケア」と「人間への医療・ケア」・・・・・・・・・・藤井 可
 
  動物への道徳的配慮に関する諸立場/「動物への医療・ケア」の分類/「動物への医療・ケア」と「人間への医療・ケア」の対比
 

       第III部 看護とケア

 
第9章 看護職の専門性を生かす・・・・・・・・・・石井トク
        患者の安全・安心の確保のために  
 
  チーム医療の成熟/医師と看護師の法的業務責任/看護職と保健師助産師看護師法/高度看護教育と実践力/
  チーム医療における看護の役割
 
第10章 看護の現場から見た健康・・・・・・・・・・森田敏子・前田ひとみ
         看護理論と看護診断に見る健康の見方  
 
  より良い健康を目指して生きる人々の支援/看護における診断と治療
 
第11章 ケアと正義の基底にあるもの・・・・・・・・・・高橋隆雄
         アリストテレスの友愛論から  
 
  ケアの倫理と正義の倫理/アリストテレス友愛論の構造  分類(A),分類(B)  
  アリストテレス友愛論の構造  3つの脈絡  /正義と友愛の関係  均等化原理  /親から子への愛の特異性/
  アリストテレス友愛論からケア論へ/正義の倫理とケアの倫理について
 

       第IV部 成熟・異常・エンハンスメント

 
第12章 人間の生の目的と成熟の概念・・・・・・・・・・岡部 勉
 
  非人間的・反社会的存在/成熟の概念/人間性の起源/理性的能力の成熟/人間的な世界とはどのような世界か/
  人間的な生の設計
 
第13章 精神に疾患は存在するか・・・・・・・・・・北村俊則
 
  連続量的分布傾向を示す生命現象は病理的か?/精神疾患は社会的に不適応か
 
第14章 パーソナリティ障害とパーソナリティの成熟・・・・・・・・・・木島伸彦
 
  パーソナリティとは/クロニンジャーのパーソナリティ理論/パーソナリティ障害とは/
  パーソナリティ障害とクロニンジャー理論/パーソナリティ障害の治療/パーソナリティの成熟/
  パーソナリティ障害とエンハンスメント
 
第15章 エンハンスメントから願望実現医療へ・・・・・・・・・・松田 純
         病気治療という医学の本義との関係  
 
  伝統的医療の本質と規範  病める者の救済/願望実現医療の隆盛/新しい傾向とどう向き合うか?/
  今後の課題  多方位的戦略としての願望実現医療論
 

       第V部 医療の社会的文脈

 
第16章 仕事としての医療・・・・・・・・・・中川輝彦
 
  診療のリスク/医師集団の形成/医師の集合原理/医師の自己規制/現代医療のジレンマ
 
第17章 医療と悪・・・・・・・・・・慶田勝彦
         ケニア海岸地方における伝統医療者の専門職化とその座礁  
 
  施術者の専門性/施術者の「いかがわしさ」/モダニスト言説/問われるべき問題/施術の捉え方

著者紹介

宮川俊行(みやかわ としゆき)
長崎純心大学大学院人間文化研究科教授(倫理学)
 
船木亨(ふなき とおる)
専修大学文学部哲学科教授(フランス現代哲学)
 
西田晃一(にしだ こういち)
熊本大学イノベーション推進人材育成センター特任助教(倫理学, 応用倫理学, 日本思想)
 
コンスタンティン・S. クルーツキー
ノブゴロド州立大学医学教育学部准教授
 
浅井 篤(あさい あつし)
熊本大学大学院生命科学研究部教授(医療倫理)
 
稲葉一人(いなば かずと)
中京大学法科大学院教授,熊本大学客員教授,元大阪地方裁判所判事(生命医療倫理学,紛争解決学)
 
八幡英幸(やはた ひでゆき)
熊本大学教育学部教授(倫理学)
 
藤井 可(ふじい たか)
佐賀大学医学部講師(生命・環境倫理学,医療倫理学)
 
石井トク(いしい とく)
日本赤十字北海道看護大学学長(看護学)
 
森田敏子(もりた としこ)
熊本大学大学院生命科学研究部教授(看護学)
 
前田ひとみ(まえだ ひとみ)
熊本大学大学院生命科学研究部教授(看護学)
 
高橋隆雄(たかはし たかお)
熊本大学大学院社会文化科学研究科教授(倫理学)
 
岡部 勉(おかべ つとむ)
熊本大学文学部教授(哲学)
 
北村俊則(きたむら としのり)
北村メンタルヘルス研究所所長(精神医学)
 
木島伸彦(きじま のぶひこ)
慶應義塾大学心理学研究室准教授(心理学)
 
松田 純(まつだ じゅん)
静岡大学人文学部教授(人間学)
 
中川輝彦(なかがわ てるひこ)
熊本大学大学院社会文化科学研究科准教授(社会学)
 
慶田勝彦(けいだ かつひこ)
熊本大学文学部教授(文化人類学,アフリカ研究)

その他

熊本大学生命倫理論集
日本の生命倫理 自己決定論のゆくえ 生命という価値 医療の本質と変容
学術図書刊行助成

お勧めBOOKS

若者言葉の研究

若者言葉の研究

生きている言語は常に変化し続けています。現代日本語も「生きている言語」であり、「…

詳細へ

犯罪の証明なき有罪判決

犯罪の証明なき有罪判決

冤罪はなぜ起こるのか。刑事訴訟法は明文で、「犯罪の証明があった」ときにのみ、有罪…

詳細へ

賦霊の自然哲学

賦霊の自然哲学

物理学者フェヒナー、進化生物学者ヘッケル、そして発生生物学者ドリーシュ。本書はこ…

詳細へ

帝国陸海軍の戦後史

帝国陸海軍の戦後史

近代日本のなかで主要な政治勢力の一翼を担った帝国陸海軍は、太平洋戦争の敗戦ととも…

詳細へ

構造振動学の基礎

構造振動学の基礎

本書の目的は,建物・橋梁・車両・船舶・航空機・ロケットなど軽量構造物の振動現象を…

詳細へ

九州大学出版会

〒819-0385
福岡県福岡市西区元岡744
九州大学パブリック4号館302号室
電話:092-836-8256
FAX:092-836-8236
E-mail : info@kup.or.jp

このページの上部へ