内容紹介
〈経験的実在論にして超越論的観念論、超越論的観念論にして経験的実在論〉。 カント理性批判の思索は、この世界反転光学の不断往還のうちに生起する。そして世界直観二局面(アスペクト)間の「にして」の反転が往相から還相へ折り返す刹那、あの中央読点の深層に広がる縹緲たる無の場所で、〈物にして言葉、言葉にして物〉という隠れた主題が新たに浮上する。
ゆえに第一批判は、たんに認識論であるのみならず、つねに同時に存在論であり言語論である。そして三批判書は、われわれ人間が住まう「経験の可能性」の大地に「あるもの」と「あるべきもの」をめぐる、正しい語らいの道の探索である。それは経験的認識の真理を告げる定言命題と、道徳的善の定言的命令法(インペラティーフ)、そして物の美や有機体や歴史の形成の奥にあたかも「自然の技術」が潜んでいるかのように語る接続法(コンユンクティーフ)のアプリオリな原理を探究して、批判的啓蒙近代の新たな形而上学の革命的建築をめざす、世界市民的見地の法廷弁論である。
いささか奇抜なこの解釈仮説のもと、本書は第一批判と対話して、テクストが密かに通奏する言語哲学的低音部に聞き耳を立てる。理性(ロゴス)批判は言語(ロゴス)批判であり、われわれの論弁的(ディスクルシーフ)知性の言語活動(ランガージュ)をめぐる超越論的反省である。そしていまカントをこう読み直すことで、哲学の現在の混迷情況を打開する確かな道標が、必ずや得られるはずである。