タマリンドの木に集う難民たち 南スーダン紛争後社会の民族誌

著者名
橋本栄莉
価格
定価 6,600円(税率10%時の消費税相当額を含む)
ISBN
978-4-7985-0373-8
仕様
A5判 上製 324頁 C3039
発行年
2024年4月
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内容紹介

2013年12月、南スーダンの首都ジュバで生じた政治家同士の対立がもととなった武力衝突は、瞬く間に南スーダン全土を巻き込む内戦と化した。一民族をターゲットとした「ジュバ虐殺」の後、人々は国家から押し付けられた「民族対立」の中を生きている。今なお200万人以上の南スーダン人が、国内外で難民としての生活を余儀なくされている。

「ジュバ虐殺」から10年  虐殺を生き延びた南スーダン、ヌエル社会の人々は、隣国ウガンダで難民としての新たな生を営み始めた。難民とは、果たして私たちがイメージするように、脆弱で支援を求める受動的な犠牲者に過ぎないのだろうか。本書では、太古より遊牧の歴史を歩んできたヌエルの人々が、避難先で新たな秩序をどのように創り出し、他者と生きる方法をどう編み出してゆくのかを報告する。タマリンドの木は、南スーダン各地に伝わる起源神話において、人類の「故郷」や「母」を意味する。難民となったヌエルの人々は、避難先に新たな「タマリンドの木」を見つけ、その木の下で悩み、世界に対する問いを発していた。「難民の世紀」において、私たちは彼らから何を学ぶことができるだろうか。本書では、南スーダンの紛争後社会を生きる人々が持つ、既存の秩序と向き合い、自らの生を生き直す技法を、南スーダンの避難民キャンプとウガンダの難民居住区でのフィールドワークから明らかにする。南スーダン難民の生活や文化・政治活動などを捉えた写真多数収録。

目次

 プロローグ
 
 第Ⅰ部 問題と予期  私たちのことばと南スーダンの歴史
 
第1章 境界線の話法、問いとつながりの技法  問題はどこから生まれるか
 
 第1節 〈予期のセット〉と問題の誕生
  〈予期のセット〉としての社会/問題を生み出し支えるシステム
 第2節 境界線、自然、秩序
  境界線と理解/想像上の境界線/境界の段階の特性:意味の過剰、不可視性、脆弱性
 第3節 国家と境界理論
  難民と境界理論/秩序の測定器
 第4節 予期にあふれるメタファーの遂行力
  ことばとメタファー/予期にあふれるメタファー①:大地と土/
  予期にあふれるメタファー②:成長と発達/メタファーの期待された配置
 第5節 境界線の話法
 第6節 問いとつながりの技法
 
第2章 〈予期のセット〉が生み出す境界線  民族は存在したのか
 
 第1節 予期が現実になるとき
 第2節 雨と大地が形づくった集団
  地理と気候/ヌエルの編成と集団認識
 第3節 共生のためのシステムの発展
  ヌエルの拡大と他民族の吸収/家畜収奪、飢饉と他民族集団の吸収/
  無頭社会、分節リニィジ、報復闘争
 第4節 植民地統治と「部族」ユニットの創出
  西欧社会との接触/「無人地区」  境界設定と定住化政策/
  「伝統」の創造、取捨選択とコントロール
 第5節 植民地期の〈予期のセット〉の残滓
 
第3章 増殖する境界線  人々は民族をどう生きたか
 
 第1節 「政府の戦争」を生きる
 第2節 第一次・第二次スーダン内戦下の集団間関係
  第一次・第二次スーダン内戦の経過/SPLA/Mの結成と内部分裂/
  ヌエル内部の衝突の激化/維持された隣人関係
 第3節 文化的イディオムの操作と人々の抵抗
  血の穢れへの不安と対処/境界線から距離を取る地域住民
 第4節 平和構築者による「草の根」と「伝統」への期待
  草の根平和構築/「ナイルの伝統」の強調/「コスモロジー」の利用と再構築される境界線
 第5節 独立後の武力衝突と「報復」のメタファー
  新国家の誕生と独立後の地域紛争/2013年末以降の武力衝突と「民族対立」の言説の拡大/
  「報復は私たちの文化だ」/政治家による文化的イディオムの操作/
  予言者による「血の穢れ」の再発見と浄化
 第6節 絡み合うメタファーと増殖する境界線
 
 第Ⅱ部 〈家〉  難民たちが創り上げる秩序
 
第4章 小さなチエン  避難民キャンプは人々を救済したか
 
 第1節 《ハゲワシと少女》がいた地
  アヨッド/国内避難民/小さなチエン
 第2節 支援なきキャンプで人々は何を食べていたのか
 第3節 キャンプは一つのマル(親族)?
 第4節 国内避難民の食糧獲得戦略
 第5節 食糧獲得競争の敗者たち
 第6節 飢えを生み出したのは誰か
 
第5章 大きなチエン  模倣は国家を越えるか
 
 第1節 新天地ウガンダへ
  大きなチエン/ウガンダにおける難民/他者の想像力を想像しながら生きる
 第2節 難民居住区に集積する諸問題
 第3節 ヌエルの自治組織
  ヌエル・コミュニティ・リーダーズ(NCL)/問題解決のプロセス/リーダーよりもセクション代表
 第4節 民族間問題の予防と解決
 第5節 一にして多である共同体の再生
  マルに関する問題/「伝統文化」の取捨選択/「ヌエルは一つ!」/NCLの政治的立場
 第6節 「国家」化する民族とセクション
 第7節 複数の秩序をしつらえる
  大きなチエンと模倣の力/二重の模倣
 
 第Ⅲ部 子宮と墓  神話と牛が語るいのちの持続
 
第6章 タマリンドの木の下に集う  世界樹は何を語るか
 
 第1節 神話が物語る秩序
  はじめの境界線/難民と神話
 第2節 タマリンドの木
  天と地のつながり  南スーダンの大木の神話/ヌエルの起源神話
 第3節 神話の歴史
 第4節 タマリンドの木が喚起する民族
 第5節 身をよじる神話
 第6節 「草の根」の近代と神話のノマドロジー
  樹木のメタファーと「自然化」の力/神話のノマドロジー
 
第7章 侵犯する血  牛から逃れて生きることはできるか
 
 第1節 牛とは何か?
 第2節 牛なき時代の婚資の支払い
  貨幣経済の流通と牛  血の有無の問題/避難先での支払い  「数える」ことと結婚/
  金額よりも頭数を数える
 第3節 人間の血はキュウリやライムからも流れる
  インセスト・タブーによる血の穢れ  ルアル/ライムの供犠/
  殺人にもとづく血の穢れ  ヌエールと「骨」
 第4節 自己の半分と血
  なぜ野生のキュウリ / ライムなのか/血とは何か/墓を拒む血複合的共同体
 
 第IV部 若者は問う  複数の秩序との付き合い方
 
第8章 真正の男とコピーの男  「本物の人間」とは誰か
 
 第1節 ガールのある身体とない身体
  教会に走った緊張/「民族対立」と瘢痕
 第2節 ガールがもたらすつながり
  ガールの意味/ガールと共同体の時間意識
 第3節 ポストコロニアルな身体
  「民族化」する身体と瘢痕/内戦期以降の「男らしさ」の変遷
 第4節 移り変わる「悪い男」と「悪い女」
  「フォトコピーマン」  複写男の登場/女性たちからの眼差し
 第5節 瘢痕、紛争、男らしさ
  1990年代のガールの施術経験/ガールを持つ者たちの語り/ガールを持たない者たちの語り
 第6節 「本物の男」と「複写男」のあいだで
  〈本物〉(オリジナル)と〈複製〉(コピー)の間の駆け引き/主体性を希求する
 
第9章 窮状を笑う  「わたし」は「あなた」になることができるか
 
 第1節 演劇と問題解決
  「ドラマ」との出会い/アフリカにおける応用演劇
 第2節 手作りの半─即興劇
 第3節 「トライバリズム」と向き合う
 第4節 転倒と笑い
  「弱くて情けない男」/行動の再現と再発見される自己
 第5節 「理想の秩序」への賛美と嫌疑
 第6節 解決を目指さない「解決」と開かれた問い
  「問題解決」と境界線の創造/自らの完成を他者にゆだねる/二重の「わたし」への問い
 
 エピローグ
 
 謝辞
 
 参考文献
 索引

著者紹介

橋本栄莉(はしもと えり)
 
2009年より南スーダンでフィールドワークを始める。2015年、一橋大学大学院
社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学、一橋大学)。ジュバ大学平和開発
研究センター研究員、日本学術振興会特別研究員、高千穂大学人間科学部准教授
などを経て、現在、立教大学文学部准教授。専門は文化人類学。
 
著書に『エ・クウォス:南スーダン・ヌエル社会における予言と受難の民族誌』
(単著、九州大学出版会、2018 年)、『アフリカで学ぶ文化人類学』(共編著、
昭和堂、2019年)など。

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