金融危機と中央銀行

著者名
伊豆 久
価格
定価 4,180円(税率10%時の消費税相当額を含む)
ISBN
978-4-7985-0181-9
仕様
A5判 上製 234頁 C3033
発行年
2016年4月
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内容紹介

本書はリーマン・ショックに対するFRB、欧州危機に対する欧州中央銀行、そして1990年代の金融危機に対する日本銀行、それぞれの危機対応策を比較検討したものである。各中央銀行のバランスシートの変化に焦点を定め、通常時の金融調節方法と危機対応策におけるそれぞれの特徴を明らかにすることを目指している。

たとえば市場機能の活用を重視する米国では、中央銀行の通常時の資金供給は、その額も方法も極めて限定的であった。そこに証券市場を震源地とする金融危機が発生したため、FRBは従来とは異なる方法での巨額の資金供給を実施することになる。

対照的に日本の場合、通常時から金融市場の日銀への依存度は高く、また金融政策は政府に従属的である。そして金融機関の破綻処理制度が未整備であった上に危機が「不良債権型」であったため、対応は漸進的となり、日銀は本来なら財政や預金保険が果たすべき役割も担うことになる。

他方、欧州の危機はギリシャやアイルランドなどのいわゆる周辺国で起こり、ドイツなどへの影響は軽微にとどまったため、中央銀行の資金供給は周辺国に集中した。その資金は中心国金融機関からの借入れの返済に充てられ、その結果、中心国では極端な金融緩和が発生した。つまり欧州の危機対応の特徴は、ユーロ圏内の不均衡(民間レベルでの周辺国から中心国への資本逃避と中央銀行レベルでの逆方向への資金供給)という形に現れており、その背景には財政の統合が進まない中で通貨(中央銀行)の統合が実施されたという、日本や米国とは異なる中央銀行制度の特徴がある。

さらに補論として、金融危機以降の世界的な金融規制改革と量的緩和政策における日本の特徴を取り上げている。金融危機後、欧米では公的資金の投入に対する世論の批判が強まり、それがベイルイン(預金者を含む債権者の損失負担による金融機関の再建・破綻処理)の導入へとつながるが、日本ではむしろ公的資金による救済策(ベイルアウト)が整備されてきた。また、量的緩和策の採用は三つの中央銀行に共通するが、日本では実勢からかけ離れた水準に物価目標が設定され、その結果、欧米とは異なった波及メカニズムに依存せざるをえなくなっている。その特徴を<2%>という目標、<2年>という期限の設定の意味を探るところから検討する。

目次

 はしがき
 
第1章 中央銀行のバランスシートと通貨供給
 
 はじめに
 1 中央銀行のバランスシート
  (1) バランスシートの大きさ
  (2) 資産の構成
  (3) 負債・資本の構成
 2 危機発生前のバランスシート
  (1) 資産構成の違い
  (2) 負債構成の違い
 3 金融調節の方法
  (1) オペとスタンディング・ファシリティ
  (2) 米国のプライマリー・ディーラー制とスティグマ
 
第2章 リーマン・ショックとFRB
 
 はじめに
 1 バランスシート(資産)の推移
 2 金融危機対策
  (1) オペ対象の変化
  (2) TAFと為替スワップ協定(2007年12月)
  (3) ベア・スターンズ危機への対応(2008年3月)
  (4) リーマン・ショック下の資金供給(2008年9〜11月)
  (5) AIGの救済(2008年9〜11月)
 3 MMF危機とFRB
  (1) リーマン・ショックとMMF
  (2) 中央銀行とMMF
 4 なぜリーマンを救済しなかったのか  FRBの「最後の貸し手」機能
 5 金融危機対応の終了と量的緩和政策の開始
 
第3章 欧州危機とユーロシステム
 
 はじめに
 1 金融危機とユーロシステム
  (1) 貸出の増加
  (2) FRBとの為替スワップによる外貨貸出
  (3) 証券の買入れ
 2 各国中央銀行のバランスシート
  (1) 貸出残高の不均等な増加
  (2) ELAの供給
 3 TARGET2債権・債務の増大
  (1) 残高増大のメカニズム
  (2) 残高増大の意味
 
第4章 金融機関の破綻処理と日本銀行
 
 はじめに
 1 特融の発動
  (1) 特融の定義
  (2) 特融の背景と役割
 2 特融の返済と預金保険機構向け貸付
  (1) 特融の役割とその性格
  (2) 山一証券向け特融の処理
  (3) 特融の返済と預金保険機構向け貸付
 3 公的資金の予防的注入
 4 預金保険機構の資金調達と日本銀行
 5 日本銀行による出資
  (1) 東京共同銀行と日本債券信用銀行への出資
  (2) 紀伊預金管理銀行への出資
  (3) 住専勘定への拠出
 6 収益支援のための「日銀貸出」
 小 括
 
第5章 ベイルアウトとベイルイン
 
 はじめに
 1 ベイルインとは何か
 2 米・欧におけるベイルインの導入
  (1) FSBの「主要な特性」
  (2) 米・欧における法的ベイルインの導入
  (3) バーゼルⅢにおける契約ベイルインの導入
 3 日本におけるベイルアウトとベイルイン
  (1) 2000年の預金保険法改正による「危機対応措置」
  (2) 2013年の預金保険法改正
  (3) 破綻処理の日本的特徴
 小 括
 
第6章 「異次元緩和」の論理
 
 はじめに
 1 「物価の安定」とは何か
  (1) 「値で示すことは困難」(2000年10月)
  (2) 「中長期的な物価安定の理解(0〜2%程度で,概ね1%)」(2006年3月)
  (3) 「中長期的な物価安定の目途1%」(2012年2月)
 2 「目標2%」の採用
  (1) 「『物価安定』の目標2%」(2013年1月)
  (2) 「異次元緩和」における「2%」の根拠
 3 「異次元緩和」における「2年」の意味
  (1) 岩田副総裁の考え方
  (2) 木内委員・佐藤委員の考え方
 4 「異次元緩和」の拡大(2014年10月)
  (1) 拡大の理由
  (2) 拡大反対の理由
 5 「物価安定の目標」論と「物価の基調」論
  (1) 佐藤委員の「物価安定の目標」論
  (2) 政府の政策転換と「物価の基調」論
 6 残された選択肢
 
 参考文献
 索  引

著者紹介

伊豆 久(いず ひさし)
 
1991年 京都大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学
同  年 日本証券経済研究所(大阪研究所)研究員
2002年 甲南大学経済学部教授
同  年 日本証券経済研究所客員研究員(現在に至る)
2007年 久留米大学経済学部教授(現在に至る)

学術図書刊行助成

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