明治日本のローカル・アントレプレナー 旧長州藩士が担った地方の産業化と近代企業の創成

著者名
畠中茂朗
価格
定価 6,600円(税率10%時の消費税相当額を含む)
ISBN
978-4-7985-0366-0
仕様
A5判 上製 338頁 C3033
発行年
2024年2月
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内容紹介

幕末、尊王攘夷の急先鋒となっていた長州藩にとって、1864年の四国連合艦隊下関砲撃事件(幕末下関攘夷戦争)は、その攘夷を断念せざるをえないような西洋の衝撃(ウエスタンインパクト)を同藩に与えた。伊藤博文や井上馨とともにこの戦争に遭遇した笠井順八や豊永長吉にとっても、人生を左右することになるターニングポイントとなった。その後、長州藩は倒幕の主体勢力となって明治という新時代を迎えることになるが、旧長州藩士にとっても、新時代を生き抜いていくのは試行錯誤の連続であった。

本書は、旧長州藩士のその後について、地方企業家(ローカル・アントレプレナー)をキーワードに、笠井順八と豊永長吉の事績を中心として考察したものである。

四民平等の名のもとに身分制度が解体され、全国で士族授産に向けて多くの結社が作られていくなか、笠井順八は、これまでの我が国になかったセメント産業に着目して、セメント製造会社(のちの小野田セメント)を設立した。欧米の企業制度をある程度理解し、結社とは異なる株式会社形態の近代企業として創成したことが、同社発展の礎となった。笠井は、地域振興のために銀行や軽便鉄道会社を設立した地方企業家であった。

一方で、豊永長吉は、新時代を見通す眼力を有しており、明治初年には早くも帰商して商業活動に従事しながら、欧米をモデルとした企業の創設を模索し、赤間関米商会所から豊永組を経て、化学企業の日本舎密(せいみ)を創業した。企業経営を通じて豊永自身も地方企業家として成長を遂げていった。

彼らは地方企業家として地域の振興に貢献するとともに、新時代の産業発展の礎となるのは企業システムであることを見抜き、近代企業を創成していったのである。

さらに、旧長州藩士のための金禄公債の保全を目的の一つとした金融機関で、当時にあっては大銀行といえる第百十国立銀行の創業の経緯と運営の過程も取り上げ、殖産興業資金の供給や地域金融の展開で旧長州藩士が果たした役割にも言及している。

明治を迎えた我が国において、試行錯誤を繰り返しながらも、逞しく新時代を生き抜いた旧長州藩士の挑戦していく姿を浮き彫りにした。

目次

 はしがき
 凡例
 
序章
 
  1 本書の目的
  2 先行研究の検討と本書の意義
  3 本書の構成
 
第1章 近代移行期から明治中期における山口県経済の動向と企業勃興
 
 はじめに
 第1節 近代移行期からの長州・山口県経済
 第2節 明治10年代までの山口県における初期的企業勃興
  1 明治9年頃の山口県における企業(工場)の設立状況
  2 近代的企業の萌芽としての協同会社の設立
  3 明治10年代までの山口県における初期的企業勃興
 第3節 日清戦争前までの山口県における企業勃興と赤間関綿糸紡績株式会社の設立計画
  1 日清戦争前までの山口県における企業勃興
  2 赤間関綿糸紡績株式会社の設立計画
 おわりに
 
第2章 明治前半期の山口県域における士族授産企業の設立と展開
 
 はじめに
 第1節 明治政府の士族授産政策と地方における士族層への対応
  1 明治政府の士族授産政策
  2 山口県における勧業局の設立と士族就産所
   (a) 明治維新後の山口県士族の動向と勧業局の設立
   (b) 授産局(その後の士族就産所)の創設
 第2節 士族授産企業の萌芽としての木綿聚社の設立と展開
 第3節 山口県における国立銀行の創設
 第4節 政府資金の貸し付けによる士族授産企業の創設とその特徴
  1 覇城会社
  2 殖鱗社
  3 豊浦士族就産義社
 第5節 持続的成長を遂げた士族授産企業  セメント製造会社  
 おわりに
 
第3章 旧長州藩士笠井順八の企業家活動
      小野田セメントの創業と地域経済への関与  
 
 はじめに
 第1節 笠井順八の履歴と小野田セメントの創業
  1 誕生から幕末期の笠井順八
  2 明治維新以後の笠井順八とその経営理念
  3 小野田セメントの創業と業務運営体制の構築
   (a) 小野田セメントの創業と工場の建設
   (b) 業務運営体制の構築
 第2節 小野田セメント成立後の運転資金の調達と経営危機の発生
  1 小野田セメント成立後の運転資金の調達
  2 産業化の進展とセメントの出荷状況
  3 経営危機の発生と笠井の退陣
 第3節 小野田銀行の設立と経営状況
  1 小野田銀行の設立と笠井順八
  2 小野田銀行の経営状況
 第4節 小野田軽便鉄道の設立と鉄道輸送の展開
  1 小野田軽便鉄道の設立
  2 小野田軽便鉄道の敷設と鉄道輸送の展開
 第5節 経営陣の交代と小野田セメントの発展
  1 経営陣の交代
  2 小野田セメントの発展
 おわりに
 
第4章 明治期地方企業家の成長と事業展開
      旧長府藩士豊永長吉を事例として  
 
 はじめに
 第1節 企業家豊永長吉の経歴と事業資金の捻出
  1 史料の検討
  2 豊永長吉の経歴と事業資金の捻出
   (a) 誕生から幕末期まで
   (b) 明治期以降
 第2節 関門地域における企業家活動
  1 赤間関米商会所の設立
  2 士族授産企業としての豊永組の設立
  3 門司築港会社の設立
 第3節 地方企業家による化学企業の生成
  1 日本舎密製造会社の創立までの経緯
  2 会社の創立と株主の募集
 おわりに
 
第5章 日本舎密製造会社の事業展開
 
 はじめに
 第1節 工場の建設と生産状況
  1 小野田の工場建設と千寿製紙会社
  2 創業初期の経営組織と生産状況
 第2節 日本舎密の株主総会と事業展開
  1 株主総会と経営者の役割
  2 明治期を中心とした事業展開
 おわりに
 
第6章 第百十国立銀行の創業と地方金融の展開
 
 はじめに
 第1節 国立銀行の生成と全国的展開
  1 国立銀行の生成
  2 国立銀行条例の改正と全国的展開
 第2節 府県別の資本金額の設定と国立銀行の創立動向
  1 府県別の資本金額の設定
  2 各地における国立銀行の創立動向
 第3節 第百十国立銀行の創業
  1 創業に向けた経緯と資本金額および紙幣発行額の決定
  2 第百十国立銀行の設立過程と株主の特徴
  3 業務運営体制の構築
 第4節 条例改正後の国立銀行の設立主体とその特徴
 第5節 第百十国立銀行における銀行券の発行と資金循環
  1 第百十国立銀行券の発行と流通
  2 第百十国立銀行と山口県域における資金循環
   (a) 株主への配当と預金(官公預金・人民預金)の推移
   (b) 貸付金(貸出金)の推移
 おわりに
 
補論 近代企業の創成と持続的成長へと導いた経営者の役割
     戦前期の小野田セメントを事例として  
 
 はじめに
 第1節 戦前期における小野田セメントのトップ・マネジメント
  1 戦前期の小野田セメントのトップ・マネジメントを担った人々
  2 笠井順八のトップ・マネジメント
 第2節 笠井順八退陣後のトップ・マネジメント
  1 笠井順八の退陣と河北勘七の登用
  2 小野田セメントの海外進出と福原栄太郎
  3 小野田セメントの持続的成長と笠井真三
 おわりに
 
終章
 
 巻末資料
  Ⅰ 明治期から大正期における山口県内の資本金上位企業の変遷
  Ⅱ 戦前期の山口県内に本店を置く銀行の設立状況
  Ⅲ 笠井順八年譜
  Ⅳ 豊永長吉年譜
 参考文献
 あとがき
 索引

著者紹介

畠中茂朗(はたけなか しげお)
 
九州国際大学経済学部卒業。
山口大学大学院経済学研究科修士課程修了。
山口大学大学院東アジア研究科博士課程修了。博士(学術、山口大学)。
早鞆高等学校教諭、九州国際大学非常勤講師、下関市立大学非常勤講師、
山口県史編纂専門委員、山口市史編纂専門委員等を務める。現在は早鞆
高等学校教諭(地理歴史科、校史編纂を担当)、山口県地方史学会理事、
山陽小野田市文化財審議会委員。
 
専攻分野:日本経済史、経営史、金融史、企業家論
 
著作:
単著『貝島炭礦の盛衰と経営戦略』(花書院、2010 年)
共著『山口県の歴史散歩』(山川出版社、2006 年)
  『山口県の不思議事典』(新人物往来社、2007 年)
  『近現代日本人物史料情報辞典4』(吉川弘文館、2011 年)
  『高橋是清と下関』(高橋是清翁顕彰実行委員会、2013 年)
  『山口県史通史編近代』(山口県、2016 年)

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